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不滅の愛[2:2]

作者: こたつ

この台本は正史2:2の台本です。

ジョセフ♂:

ナタリア♀:

ハイエナ♂:

マリア♀:


反転2:2

https://ncode.syosetu.com/n8421ij/


0:4

https://ncode.syosetu.com/n8419ij/


4:0

https://ncode.syosetu.com/n8418ij/

ジョセフ/♂ヴェラリオ戦線司令官。軍人。メリーという女性と結婚している。


ナタリア/♀ジョセフの護衛。人間兵器だった。ジョセフに恩を感じている。


マリア/♀ 10代ほど。呪われてしまった。ただの心優しい少女だったのに。


ハイエナ/♂ヴァルツヘルゲン特殊工作員、ハウンドドッグ所属。妻と娘を亡くしている。



____________________________


<<取調室、ナタリアと検察官が対面で座っている>>



ナタリア:……なぜ、ですか?

……そうですね。私も同じ立場ならその言葉を投げかけるでしょう。

私はあの人に従った。引き金を引いた。それは揺るがぬ事実です。

それでもあの人は、不滅の愛を誓ってくれた。

寄る辺 (よるべ)のない私に手を差し伸べた。

ならばまだ終わるべきではない。私の愛は滅んでなどいない。

戦争を続けましょう。

祖国に仇なす敵国に、呪われたルスラムに復讐を。

忌まわしい天使どもに鉄槌を。

わたしの最愛に……っ


ナタリア:親愛なるジョセフベルベットに……不滅の愛を。





<<ルスラム国境沿い>>

<<ハイエナ、数人の兵隊を暗殺している>>



ハイエナ:(息を吐く)……クリア。


マリア:相変わらず見事な手際ですね、ヴァングレイドの兵隊をいとも簡単に。


ハイエナ:猟犬の嗜みだ。主人に手間取らせるまでもない。ヴァルツヘルゲンの人狼は──


マリア:よく躾けてある、ですね?ご褒美を用意しなければ。


ハイエナ:(微笑み)この手の冗談にお前が乗るとは珍しい。期待しておこう。


マリア:気分が良いのです。とびきりを用意しましょう。


ハイエナ:それはなによりだ。では行くぞ、この先の拠点を潰し鉄道に潜り込む。意見はあるか。


マリア:祈りを。…よろしいですか。


ハイエナ:時間がない。が、他ならぬお前の頼みだ、なんとかしよう。


マリア:ふふ、あなたはいつも甘やかしてくれる。


ハイエナ:わかっているなら早くしろ。魔銃と銀弾はハーゲンまで保たせねばならん。


マリア:オオカミ男の切り札が銀の弾丸だなんて、いつ聞いてもおかしいですね。


ハイエナ:皮肉なら聞かんぞ。こいつで死ぬのは呪われた人間だけだからな。


マリア:それ、痛いから嫌いです。


ハイエナ:俺もお前には使いたくなかったよ。


マリア:ふふ、傷ついてくれるんですね。


ハイエナ:手早く済ませろ。


マリア:ええ。(跪く)……ルスラムの天使の名の下に、あなたたちの死が呪いのくびきから逃れんことを。

──これが救いにならずとも、ひととき罪を忘れる罰を。




<<場面転換>>

<<ヴェラリオ城砦>>


ナタリア:ふう……。あら、ジョー。


ジョセフ:ナタリア、調子はどうだ。


ナタリア:ジョー。……まあまあよ。


ジョセフ:お前の「まあまあ」はあまり信用できないな。(カップを差し出す)……ほら、飲め。


ナタリア:あら、ミルクティー?


ジョセフ:ロベルトが茶葉を送ってくれたんだ。終わったのか、その…彼らの介錯は。


ナタリア:あと少しよ。今は休憩中。シルバーバレット、すごいのね。呪われた彼らみんな、何をしても死ななかったのに。


ジョセフ:敵国ルスラムに巣食う、天使とやらを殺す銃弾らしい。


ナタリア:なにそれ?


ジョセフ:手配書を読んでいないな?天使を名乗る修道女と人狼の二人組が方々で暴れ回っている。


ナタリア:修道女……忌まわしい響きね。


ジョセフ:ロジェールか。残念だったな。


ナタリア:……気にしないで。それで、銀弾がなんだっけ?


ジョセフ:呪いを断つ弾丸だ、天使は呪われているんだと。大事に使ってくれ。


ナタリア:あは、全部使っちゃった。助からないならせめて早く殺してあげなきゃ。


ジョセフ:……すまないな、こんな仕事を任せてしまって。


ナタリア:いいの。……呪いを受けた人間の介錯だなんて、「魔眼のハーゲン」にぴったりの仕事じゃない。


ジョセフ:そんなことは!……そんなことはない。お前は昔とは違う。変わったんだ。


ナタリア:変わらないわジョセフ、少なくともこの戦場では私はいまだ魔眼のハーゲン。先祖代々受け継いだこの眼は、塞ぐことを許されていない。そういう契約、してくれたでしょ。


ジョセフ:……すまない。


ナタリア:謝らないで。こう見えて私ね、嬉しいの。だってあなたのおかげで今回限りよ!

生まれてからずっと人を殺すことを強いられてた。少し先の未来が見える、ハーゲンの魔眼。この眼に振り回されてばかりだったけど、やっと私は、私として生きられる。


ジョセフ:だが、それでも──。


ナタリア:もういいの!この戦場から帰ったら、食卓に招待してくれるんでしょう?弟やメリーに会うのも久々だわ。軍服以外に袖を通すの、今から楽しみなのよ。


ジョセフ:(苦笑)……素敵なドレスを期待してるよ。


ナタリア:そうこなくちゃ!明日?明後日?いずれにしろ帰ったらすぐよ?


ジョセフ:わかった、わかったよ。


ナタリア:ふふ。それじゃあ私、仕事に戻るわ。


ジョセフ:待てナタリア、気分の良くない仕事なのは確かだろう。あとは任せて休め。


ナタリア:あら……(目を伏せる)どうして?忌人【いみびと】を殺すことに、私は何も感じない。


ジョセフ:……ナタリア、本気で言ってるのか?


ナタリア:私はずっと本気。かわいそうだけど、だれも虫を踏んだことに気を病まない。


ジョセフ(M):──そう、恐ろしくはあった。


ナタリア:そう……彼らは違う、違うの。ここは差別大国ヴァングレイドよ。


ジョセフ(M):人生の多くを戦場と人殺しに捧げた彼女の精神は、ヴァングレイドに培われた差別心によって保たれている。


ナタリア:彼らは私たちと違うから、死なず苦しみ続ける忌み人になったの。……そのはず、なのに。


ジョセフ(M):今まで手にかけた呪われた同胞が、


ナタリア:さっき殺したロジェールが言うの。フィア、フィア愛してるって。


ジョセフ(M):その実私たちと変わりない、ただの人間だったと知った時、


ナタリア:ねえこれは……いいえ、いいえ。彼らは忌むべき人よ。そうでないといけない。そうじゃなきゃ……


ジョセフ(M):彼女は耐えられるのだろうか。


ナタリア:私が殺したのは、誰だったの。





<<場面転換>>



ハイエナ(M):愛が不滅でないことを、俺はよく知っている。


マリア:天にましますわれらの父よ。


ハイエナ(M):もう動かない妻を抱きしめたときに。ベッドの上で日々痩せていく娘の手をとったときに。


マリア:願わくは御名の尊まれんことを、呪いをもたらさんことを。


ハイエナ(M):愛は儚く滅ぶのだと知った。


マリア:御心【みこころ】の天に行わるる如く地にも行われんことを。われら積年の恨みを、今日【こんにち】晴らし給え。


ハイエナ(M):いずれ、彼女たちに愛された俺もこの戦場に滅ぶ。……天国でなら、愛は滅びないのだろうか。


マリア:われらが人を裁くごとく、われらの罪を裁きたまえ。

われらが人を呪うごとく、われらの生を呪いたまえ。


ハイエナ(M):そう考えて、俺はまず地獄行きだろうと笑った。


マリア:われらの父よ、この命をもって──


ハイエナ(M):ああマリア、叶うなら。


マリア:われらを悪より救い給え……。


ハイエナ(M):また君を愛させておくれ。


マリア:Amen【エイメン】




<<場面転換>>

<<ヴェラリオ戦線、鉄道に近いヴァングレイド兵の拠点が壊滅。マリア、死んだように倒れている>>



ハイエナ:エンゼルフォール確認。敵拠点制圧。列車への潜入準備が整った。


マリア:ぅ……あ……。


ハイエナ:(ため息)……教会の天使の死で起こる呪いの爆発、か。(手に持つ銃を見る)何度やっても、慣れんな。


<<マリア、蘇生している>>


マリア:私は、生き返るから、いいではないですか……。


ハイエナ:起きたか、シスター。


マリア:ええ、ミスター。少し痛かったですよ。


ハイエナ:(苦しく)すまない……痛みなく殺すのは無理だ。


マリア:そんな苦しそうな顔をしないでください。ちゃんと生き返りましたから。


ハイエナ:顔に、出ていたか……。すまないが、もう俺に君を殺させないでくれ。


マリア:安心してください、今ので打ち止めです。次のエンゼルフォールは私が真に死ぬ時でしょう。


ハイエナ:来ないで欲しいものだ。心からな。


マリア:まるで誰かを亡くしたみたいな顔でしたよ?まあ私は一度死んだので間違いではありませんがね。


ハイエナ:っ……。


マリア:……笑ってくださいよぅ。


ハイエナ:……すまなかった。


マリア:も〜。


ハイエナ:戦場の真ん中だというのに機嫌がいいのだな。


マリア:ふふ、すみません。身を案じられたのは初めてだったもので。


ハイエナ:仮にも天使なのだろう?そんなはずはない。


マリア:(微笑む)……残念ながら、いいえ。今回の私は、いいえそもそも我ら教会の天使たちは、帰還を想定されていません。


ハイエナ:なに……?


マリア:前回の作戦が奇跡的でした。あなた方ハウンドドッグの優秀さは司祭様すら見通せなかったようです。


ハイエナ:それでは、それではお前は……っ(言い淀む)


マリア:死ぬために生きているのか、ですか?


ハイエナ:……すまない、酷なことを聞いてしまった。


マリア:いいのです。……あなたはルスラムの聖書を読んだことがありますか?


ハイエナ:いや、ないな。


マリア:……『苦しみに代わるものは別の苦しみである』


ハイエナ:なに?


マリア:聖書の、初めの言葉です。


ハイエナ:……それが呪いか。


マリア:ええ。…我々にとって、呪いとは信仰なのですよ。呪われることをこそ良しとしたのです。人を思うことそのものが呪いだと嘯【うそぶ】いて。それが本当になってしまった。


ハイエナ:これが救いにならずとも……。


マリア:ええ、ひととき罪を忘れる罰を。それが呪いです。


ハイエナ:……


マリア:私たち天使は、あまねく人々に苦しみをもたらすべく産まれました。聖書の、新たなページを綴るために。産まれてからずっと思われ、呪われてきた。


ハイエナ:そんなものを身に引き受け、挙句兵器にされたのが君か。年若い娘を数多の呪いに浸すことが神の意志か。


マリア:……ええ。


ハイエナ:呪いのるつぼにされ、戦場で爆ぜることを強いられて、なんのために生きているのかわからないじゃないか……!


マリア:…私のために、怒ってくださるのですね。……ええ、そんなあなただから私は嬉しいのです。


ハイエナ:そんなことを言うな。俺はお前の手駒だが、同時に加害者でもある。お前をそんな風にしたやつらと何も変わらない。


マリア:(微笑む)……あなたが家族なら幸せだったのでしょうね。


ハイエナ:っ、マリア……。(意図せずこぼれた名前)


マリア:(目を伏せて)…マリア。そう、マリアなのでしょう?私の名前なのでしょう。

名前だけの一致。けれどもあなたは、見過ごせなかったのですよね。


ハイエナ:……!


マリア:あなたのご息女は、亡くなったマリアは。こんなにも優しく呪われている。


ハイエナ:なぜ、その名を。


マリア:言ったでしょう?人を思うことそのものが呪いなのだと。身に引き受けた呪いがなんなのか、私には手に取るようにわかります。


ハイエナ:……そう、だったのか。それはすまないことをした。


マリア:いいえ、私は嬉しいです。呪われた私を、娘のように扱ってくれた。石ころのように死ぬことさえできない私を。


ハイエナ:……。


マリア:あなたの呪いは、生まれてから一番心地が良かった。


ハイエナ:やめてくれ。……別れの、言葉に聞こえる。娘もありがとうと言って死んだ。


マリア:いいえ、聞いてください。私は嬉しいのです。こんなにもキラキラした呪いをかけてくれたことが。

私の人生は呪われたものだったけれど、それでも最期は輝いている。それが、嬉しいのです。




<<列車の中>>.



ナタリア:殺されるならあなたがいいわ。


ジョセフ:なに?


ナタリア:ね、ジョー。私、怖いの。


ジョセフ:なんだ、お前らしくもない。


ナタリア:だって怖いのよ。名前の知らない誰かに殺されるのがこんなにも怖い。


ジョセフ:……。


ナタリア:私ね、名前の知らない誰かをたくさん殺したわ。顔も知らない誰かをたくさん殺した。おんなじように、きっと小石を蹴飛ばすように殺されるでしょうね。


ジョセフ:……そんなことはない。お前は死なないよ。


ナタリア:……そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれないわ?私ね、こんな私でもね、ジョー。怖いのよ。

だから、だからね。

私、殺されるならあなたがいいわ。


ジョセフ:………。


ナタリア:ねえ、お願い、聞いてくれるかしら。


ジョセフ:……わたしも殺されるならお前がいいな。


ナタリア:なら──


ジョセフ:だけどなナタリア。それはここで死ぬ時の話だろう?それなら考えなくていい。この戦場から帰ったら私の家で、みんなとディナーだろ?


ナタリア:真面目な話なのに…。


ジョセフ:はは、いつものじゃじゃ馬はどこに行ったんだ。


ナタリア:……ねえジョー。フィアって、ロジェールの子供よね。だってあの人、子供の自慢ばかりしてた。


ジョセフ:…ああ、今年で6歳になる。


ナタリア:今際の際に、愛してるだなんて。私は言える自信がない。


ジョセフ:……私もだ。


ナタリア:ロジェールに、手を差し伸べてあげればよかったの?手をとって、嘘でもいいから何かいってあげればよかったの……?私にはもうわからない……。


ジョセフ:ナタリア……


ナタリア:ロジェール、誓ってたのかしら。不滅の愛を。私に殺されるまで。忌人に成り果てても。


ジョセフ:……お前が背負わなくてもいい、ナタリア。

お前が戦場に来たのは国の意向で、お前の行いは私の指示だ。お前の罪は私にある。


ナタリア:それでも、殺したのはわたしだった……。


ジョセフ:こんなに弱ったお前をみるのは初めてだな。


ナタリア:真面目な話って言ってるでしょ……もう。


ジョセフ:はは、すまない。でもねナタリア、それでもやっぱりお前の罪は私のものなんだ。戦場では命じる者が責任を負う。昔教えただろう?


ナタリア:ジョー……。


ジョセフ:怖がらなくてもいい、怯えなくてもいい。神様は、きっと君をみている。


ナタリア:ふふ……神は死んだの。あなたが見てて。


ジョセフ:(微笑み)罰当たりめ。そうだ、歌を教えてやろう。怖いものなんかなくなる魔法の歌だ。


ナタリア:ふふふ、こんなところで歌う気?


ジョセフ:悪くないだろう?


ナタリア:少なくとも戦場で歌う歌じゃない。


ジョセフ:ははは、それもそうだ。帰ったらにしよう。


ナタリア:それが良い。楽しみが増える。


ジョセフ:食卓で歌ってやろう。


ナタリア:ふふ、奥さんの前で?


ジョセフ:メリーとの仲直りのためだ。プレゼント選びも手伝ってくれよ?


ナタリア:(笑う)うん、わかった。楽しみにしてる。


ジョセフ:メリーの好きな歌なんだ、私も楽しみだよ。

……なあ、聞いてくれ、ナタリア──



<<場面転換>>


ナタリア(M):不滅の愛を誓おう、と。ジョセフが言った。


ハイエナ:シスター、舞台が整った。


ジョセフ(M):ナタリアの奴め、口を開けておどろいている。こいつには支えてくれる誰かが必要だ。それが私なら、こんなに誇らしいことはない。


マリア:ええ。ヴェラリオ戦線の主要人物が2名、無防備です。


ナタリア(M):子供を授かった時、神の前で誓う言葉。私がついぞ聞けなかった言葉。笑顔を見せようと思ったのに、涙がこぼれてしまう。


ハイエナ:死ぬなよ、シスター。


マリア:(微笑み)ええ、ハイエナ。生きて帰りましょう。


ジョセフ(M):この子にはもう、これ以上の運命を強いてはならない。恐怖も、血に染まった手も、日常に風化されるべきだ。ああ、ナタリア。何度だって言おう。不滅の愛を──


ハイエナ:(被せ)いいやいいや、ベルベット。不滅の愛などこの世にはない。



<<場面転換>>


ハイエナ:俺たちの命乞いを聞いてもらおう。


ジョセフ:何者だ!


ナタリア:警備は何をして(マリアに気付く)──修道女か貴様。


マリア:はい。マリアと申します。


ナタリア:死んで。


<<ナタリア、ナイフを抜き投擲>>

<<ハイエナ、それを防ぐ>>


ハイエナ:挨拶もできんのか、ヴァングレイドの犬は。


ナタリア:あら、獣憑き。


ハイエナ:躾がなっていないな。


ナタリア:どいて。その女の首をロジェールの墓に供えてやる。


ジョセフ:ナタリア待て。貴様ら何者だ。


マリア:マリアです。こちらはハイエナ。どうか我々の命乞いを聞いてください。


ジョセフ:くそ、手配書と一致する。アサシンどもか。


マリア:おや?顔がバレていますね。一人残らず祝福したはずですが?


ハイエナ:誰か死体に埋もれていたのか。


ナタリア:魔眼を使わせて。5秒で殺す。


ジョセフ:許可する。確実に仕留めろ。


ハイエナ:命乞いすら聞いてもらえんとは。


ナタリア:遺言なら聞くわ、死になさい


<<ナタリア、魔眼を発動。5秒後の未来を視る>>


マリア:パルデンス条約に反してますね、ふふ。


ハイエナ:プランBからCに移行だ


ナタリア:な、に…!


ジョセフ:ナタリア…?何が見えたんだ


マリア:あら、「頼んだぞマリア」と言ってくれればいいのに。


ナタリア:これは……!?


ハイエナ:早くやれシスター


マリア:いじわる。それじゃあ、死なないで。


ナタリア:ジョー!早く逃げ──


<<マリア、ナタリア、体が一瞬ぶれ、かき消える>>

<<一瞬の間>>


ジョセフ:な、なにをした…!貴様!


ハイエナ:呪いだよベルベット。我々の常識を覆すからこそ忌み嫌われる。

ヴァラリオ戦線の司令官はお前だな?


ジョセフ:くそ、人狼の相手だと…!


ハイエナ:俺の名はハイエナだ。ヴァルツヘルゲン特殊工作部隊、ハウンドドッグに所属している。

俺たちの命乞いを、聞いてもらおう。



<<場面転換>>

<<別の車両、ナタリアとマリア、対面する>>


ナタリア:(舌打ち)随分なご挨拶ね。


マリア:改めまして、魔眼のハーゲン。ルスラムの天使が一騎、マリアです。


ナタリア:忌人に名乗る名はない。


マリア:不要です。存じておりますから。


ナタリア:そう、話が早いわ天使サマ。石ころみたいに殺してあげる。


マリア:まあ、素敵な死に様ですこと。勇ましきレディ・ハーゲン、我らの神があなたをお招きです。


ナタリア:……神は死んだ。



<<場面転換>>

<<ジョセフ、懐の拳銃にそっと手を伸ばす>>



ハイエナ:ヴァングレイドはその差別意識から他国の技術を忌避するらしいな。特に拳銃はひどい。


ジョセフ:……だが当たれば死ぬ。


ハイエナ:話にならんよ。ベルベット

狩人のいない村人がただひとり人狼に歯向かうと?


ジョセフ:(舌打ち)


ハイエナ:賢明だな。


ジョセフ:ナタリアは。


ハイエナ:隣の車両に移っただけだ。シスターが失敗していなければな。


ジョセフ:転移の外法【げほう】か…


ハイエナ:似て非なる。コツは消えてしまいたいと思うことらしい。


ジョセフ:なんだと…?


ハイエナ:彼女の名はマリア。年端もいかない小娘が、こんな戦場で天使を名乗らされている。


ジョセフ:貴様、何を言っている。


ハイエナ:彼女は毎日胸を灼く痛みで目を覚ますんだ。うなされて、飛び起きる。そして俺をみて笑顔を作って、おはようと言うんだ。あの子は悪夢を見続けている。

数多の呪いを押し付けられ、それでもなお天国を夢見、こんな戦場に身を落とした。


ジョセフ:……?



ハイエナ:呪いとは、誰かを思うことらしい。

俺は彼女を呪ってしまったんだよ。そんな俺に、シスターは言うんだ。あなたの呪いは、今までで一番心地いいと。


ジョセフ:何を言っているんだ、さっきから。


ハイエナ:命乞いだよ。最初から言っているだろう。

どうか彼女を殺さないでやってくれ。見逃してくれ。お前たちを殺さないでやるから、この国境を越えることを許して欲しい。






<<場面転換>>

<<マリア、瀕死ながら傷が塞がっていく>>


マリア:あ……ぅあ、もう、少し…やさしく、殺せないのですか


ナタリア:お前たちに呪われたロジェールは、その程度の苦しみで喚かなかった。


マリア:(苦痛に耐える息)ご立派です。呪いと、介錯に耐えるなど。きっと天国に召されたことでしょう。


ナタリア:まだ侮辱する気か…!


マリア:あなたにとって、その人は特別なのですね。

例えば、そう……ただひとり、普通の子として扱ってくれたとか。


ナタリア:……!


マリア:想い人ですか?ああ、いえこれは…。これはきっとそう、初恋とすら呼べない。その方は、あなたの憧れだったのですね。


ナタリア:なぜ、それを。


マリア:ああ、やはり。あなたも私と一緒なのですね。

望まぬ力に縛られている。……自分の罪から目を逸らせずに。

愛されたかったのですよね。ただの子供みたいに。

でも、やはり……介錯を悔やんでいる。


ナタリア:(息を呑む)


マリア:だからこそ、あなたに慈悲を。主の導きを。

たとえ救いにならずとも、ひととき罪を忘れる罰を。


ナタリア:いいえ死んで。あなたは呪われた忌人で、私は望んであなたを殺す。あなたはなす術もなく死に、私はジョセフを助けに戻る。私はあなたと違う。


マリア:同じです。私は神に、あなたは血に呪われている。選ばれたと思わなければやっていられなかったのですよね?

それでもきっと私たちの役目は、誰が演じても変わらなかった。


ナタリア:黙って神の御許【みもと】に行け (武器を構える)


マリア:私たちは答えが欲しいんじゃないんです。ただそばにいて、泣きたくなったら遊んで欲しい。夢の話をしたい、天気の話も。今日あったことや、花の話をしたい。私の懺悔を聞いて欲しい。




<<場面転換>>

<<ハイエナ、一歩詰め寄る>>


ハイエナ:俺たちはただ生きたいんだ。

家族を失い、国に捨てられた。作戦もなにも、もはやどうでも良い。


ジョセフ:だが、お前たちは人を殺しすぎた。


ハイエナ:承知の上だ。きっと地獄に行くだろう。だがそれまではせめて、二人で静かに生きていたい。


ジョセフ:……家族なのか。


ハイエナ:そのあたりはお前たちによく似ている。


ジョセフ:複雑だな、お互いに。


ハイエナ:ああ。


ジョセフ:協力はしたい。


ハイエナ:そうか。


ジョセフ:だが信用できない。


ハイエナ:だろうと思ったよ。


<<ハイエナ、ジョセフを撃つ>>


ジョセフ:ぐっ…!?


ハイエナ:──ハッ、ナイフのひとつでも投げてくるものと思っていたぞ。

未来でも見たか?魔眼のハーゲン。


<<ナタリア、マリアを引きずりながら登場。ハイエナ達からナタリアはよく見えていない>>


ナタリア:よくも私にロジェールを殺させたな……!


ハイエナ:いい躾になったようだ。


ジョセフ:ぐ、ああ……!く、血が…!


ナタリア:ジョセフ…!


ハイエナ:急所は外した。次があると思うな。


ナタリア:犬畜生が指図とは。


ハイエナ:シスターを離せ。


ナタリア:哀れな小娘だったわ。くれてやる。


<<ナタリア、マリアをハイエナの方へ放り投げる。明らかな致命傷がいくつもある>>


ハイエナ:……!


ナタリア:急所を何度か突いた。次はあるかしらね。


ハイエナ:シスター、死ぬのか……。


<<ハイエナ、ジョセフの拘束をやめゆっくりマリアに近づく>>


ジョセフ:……ぐっ…!(止血している)


ハイエナ:いつか、俺の手料理が食べたいといっていただろう……あれはどうするんだ。


ナタリア:そんな顔ができるなら、なぜロジェールを──っ(未来を見て顔をしかめる)


ハイエナ:花の話も、夢の話も、おまえの懺悔も、俺は聞けなかったな。

──すぐに行く。待っていてくれ。


<<銃声>>


ジョセフ:なっ!貴様どこに銃を!


ハイエナ:……猟犬の嗜みだ。主人に手間取らせるまでもない。


ジョセフ:ナタリア、見えていたか。


ナタリア:……あれは介錯だった。私には、到底止められない。


ハイエナ:こいつの不死は呪いだ。銀弾でなければ死なない。だがアレでは蘇ることも無かっただろう。


ジョセフ:ただの忌人ではないな、何者だ。


ハイエナ:名乗ったよ、彼女は。天使だ。呪いを押し付けられ、それでも誰も恨まなかったいたいけな娘だ。


ナタリア:なぜロジェールを呪ったの。


ハイエナ:お前はなぜシスターを殺した。


ナタリア:……そう。戦争なのね。


ハイエナ:ベルベット、これをくれてやる。


<<ハイエナ、銀弾の入った銃を放る>>


ハイエナ:ヴァルツヘルゲンの銀弾だ。俺にはもう、こんなものは必要ない。


ジョセフ:……そうか。


ハイエナ:最後に一つ聞いてゆけ。死にゆく狼の遠吠えだ。

呪いは壁も何もかもすり抜けるが、人体だけは透過しない。近くで呪いの爆発が起きる時、救いたい奴に覆い被さるがいい。


ジョセフ:なに?


<<ナタリア、未来を見る>>


ナタリア:え、え…?


ハイエナ:ベルベット、おまえはよく人がいいと言われないか。

俺のような暗殺者が悠長に話を続ける理由はな、時間稼ぎ以外にないんだよ。


ナタリア:これは…!ジョセフ!!


<<マリア、血を吐きながら祈りを捧げる>>


マリア:天に、まします……我らが父よ………


ジョセフ:ばかな!奴は、介錯を…!


マリア:あなたの御心に、私の全てを委ねます……。


ハイエナ:ベルベット、呪いとはそういうものだ。我々の常識を覆すからこそ忌み嫌われる。


ナタリア:ジョセフ!逃げるの、早く!魔力が膨張している!呪いを帯びた恐ろしい量の魔力が!


マリア:われらが、人を裁く如く、われらの罪を裁きたまえ……


ハイエナ:逃げるがいい、どこへなりともな。シスターマリアは文字通り、死んでも使命を全うする。


<<ジョセフ、ナタリア、逃げる>>


マリア:我らの、ルスラムよ……ごふっ、この命をもって、われらを……悪より救い給え……


<<ハイエナ、マリアの隣に腰掛ける>>


ハイエナ:最後まで、お前を苦しめてしまってすまない。


マリア:……謝らないで、ください。わたしこそ、結局、あなたにあげるご褒美、なにひとつ……。


ハイエナ:いいやシスター、もうもらっているんだよ。


マリア:……?


ハイエナ:この旅路が……君に捧げ、そして君からもらったこの呪いが。俺の救いそのものだった。


マリア:ああ、ふふ……誰かを苦しめずに、人を救ったのは初めてです。


ハイエナ:誇ってくれ、君は間違いなく天使だ。


マリア:ねえミスター?私、夢を見たんです。泣きそうな顔で私に縋る、あなたの夢を。思えばあれはあなたの介錯だった。


ハイエナ:……!


マリア:私、たんぽぽが好きです。


ハイエナ:ああ、かわいらしいな。


マリア:夢によくあなたが出ます。幸せな夢にだけ、あなたが。


ハイエナ:気恥ずかしいが、嬉しいよ。


マリア:……叶うなら。きっとあなたを呪ってしまうけど、私は、あなたの娘になりたかった。


ハイエナ:今更構うものか。好きに呪え、マリア。


マリア:ふ、ふふ。最後まで、甘やかしてくれるのですね。

 

ハイエナ:……懺悔するとな。俺は君のことを、娘と重ねていたんだよ。


マリア:…ええ、気づいていましたよ、クレイ。天国で、私も家族に迎えてくださいね。


ハイエナ:ふふ……俺も君も、地獄行きだよ。


マリア:なら、地獄で。二人で。


ハイエナ:強情な娘だ。


マリア:ねえ、言ってくれないのですか?


ハイエナ:(微笑み)ああ、マリア。不滅の愛を誓おう


マリア:(微笑みながら)ええ、クレイ。不滅の愛を、地獄で。

──Amen【エイメン】



<<堕天>>

<<場面転換>>



ナタリア(M):恐ろしくはあった。

もしも、ジョセフが呪われたなら?


そんなこと万に一つも起こらないに決まっている。

そう言い聞かせるたびにロジェールの最期を思い出す。

誇り高いロジェール、ヴァングレイドの勇士。

彼は呪いに蝕まれ、狂い、死を望み、その最期に最愛の娘の名を呼ぶ。


満足そうな笑みで、やっと会えたと。この私を、娘と見間違えたまま。



<<場面転換>>

<<破壊された列車の外>>


ナタリア:くっ……!ジョセフ!ジョセフしっかりして!そんな、ああ、なんで庇ったりなんか……!


ジョセフ:(苦しみながら)うっ……はは、ばかめ、不滅の愛を、誓っただろう?


ナタリア:喋らないで…!何か、まだ手があるはず…


ジョセフ:いいや、もう助からない。何度も見てきた。これが呪いか。


ナタリア:冗談でもそんなこと言わないで…!


ジョセフ:なあ、ナタリア。私もなんだ。私も、殺されるならお前がいい。

こんなことを願うのも頼むのも、おこがましいとわかっているが……やはり石ころみたいに死にたくないんだ。お前が殺してくれ。


ナタリア:ああ、そんな、ジョー


ジョセフ:こんなところで死ぬなんて、メリーに笑われてしまうかな……。あ、ああ(苦しみ出す)


ナタリア:ジョー、だめ、だめよ……!メリーに謝るんでしょ?私を食卓に、招いてくれるんでしょ…?ねえ、だめ、だめ……死なないで……。


ジョセフ:う、ぐ……メリー?メリー、いるのか……?


ナタリア:(呪いを悟る)…ああ、そんな、ロジェールと同じ……!私を、メリーと……


ジョセフ:君に、謝りたかった、家を出てから……ずっと……。メリー、返事をしてくれ、お願いだ。


ナタリア:……ここに、ここにいるわ。ジョセフ。


ジョセフ:ああ、メリー。よかった……なあ、メリー…歌を、歌ってくれないか。怖いんだ、ここは暗くて、寒い。


ナタリア:(青ざめる)歌……怖いものなんてなくなる、魔法の……


ジョセフ:ああ……怖いんだ、怖い。君が見えない……あの歌がききたいんだ、頼む……。


ナタリア:っ…!…ええ。……帰ったら、帰ったらいくらでも歌うわ。ね、だから……そのとき一緒に歌いましょう。


ジョセフ:帰ったら……ああ、いいな……。きっと、ロベルトが待ってる。……君のアップルパイが、食べたいよ。


ナタリア:ええ、ええ。帰りましょう。あなたの、好きなもの。全部作るから……。


ジョセフ:ああ……楽しみだよ。メリー、ナタリアを、見てないか。……家族に、迎え入れたいんだ。不滅の愛を誓った。


ナタリア:……!


ジョセフ:勝手をした、許してくれ。これで最後にするから……


ナタリア:……っ、もちろん、もちろんよ、ジョー……!


ジョセフ:ああ、彼女も喜ぶよ……。


ナタリア:……ええ、もちろん。……だからお願い、死なないで……私を置いていかないで……。


ジョセフ:は、はは……置いていったりなんか、しないとも。だが……すこし、眠くなって……。


ナタリア:そんな、そんな!ジョー、起きて。私まだあなたに抱きしめてもらえてない。まだ恩返しもできてないのに。


ジョセフ:メリー………すまなかった……


ナタリア:…!


ジョセフ:君に乱暴なことをした……。メリー、どうか……許してくれないか。


ナタリア:……ええ、ええ。許すわ。許す……あなたは、私の誇りよ。


ジョセフ:………ありがとう、メリー。愛して、いるよ……。


ナタリア:私も、わたしもっ……あなたを愛してる……!


<<ジョセフ、動かなくなる>>

<<ナタリア、静かに泣いている>>


ナタリア:……あなたは……あなたは、あのイカれたルスラムなんかに、顔のない暗殺者なんかに殺されてはいない。安心して。あなたは……っ、あなたの命は、私の手で……。

<<間>>

──おやすみなさい、ジョー。


<<銃声>>



<<取調室、ナタリアと検察官が対面で座っている>>



ナタリア:……なぜ、ですか?

……そうですね。私も同じ立場ならその言葉を投げかけるでしょう。

私はあの人に従った。引き金を引いた。それは揺るがぬ事実です。

それでもあの人は、不滅の愛を誓ってくれた。

寄る辺 (よるべ)のない私に手を差し伸べた。

ならばまだ終わるべきではない。私の愛は滅んでなどいない。

戦争を続けましょう。

祖国に仇なす敵国に、呪われたルスラムに復讐を。

忌まわしい天使どもに鉄槌を。

わたしの最愛に……っ


ナタリア:親愛なるジョセフベルベットに……不滅の愛を。


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