9.皆でお使い
鉄人のメンテを済ませ、自分自身の防寒も十分に整え、さあ出かけようという時に、
「あ~~~~!!!!私も行くんだったのに!」
カーチ参上。全くタイミングがいいんだか悪いんだか。
「分った分った。ただし、都の外に行くんだから防寒装備は完璧にしろよ」
「うん!大丈夫!」
確かに、毛糸の帽子に耳当て、モコモコのコートにズボンまでモコモコ、靴もふかふかのスノーシューズと来ている。これなら大丈夫だろう。
「完全防寒だな。よくまあそこまで揃えたもんだ」
「今度一緒にクラーヴンと出かけるって言ったら、マリーが用意してくれた」
「へ~……」
「ちょっと!カーチ!走っていかないで!雪道は歩きづらいんだから!」
話に上がったマリーが店に入ってきた。
「よう!いらっしゃい」
「ああ!すみません!クラーヴンさん!今日はカーチがお世話になります。何かロボットがいるとかで、最近しょっちゅうお邪魔しちゃってるみたいで」
「別に俺は構わないが、マリーの方は比較的軽装っぽいし、留守番か?」
「はい、私は雪道も寒いのもちょっと苦手なので、ただカーチは戦闘とか出来ないしご迷惑なら連れて帰りますけど」
「大丈夫!大丈夫!」
「まぁ、カーチが行きたいって言ってるんだから、行かせてみたらいいんじゃないか?別に生産職が剥ぎ取りするだけのフィールドだし、迷子になる程深くもないし」
そして、マリーに見送られてソリに乗り古代の鉄屑に向う。
左手のネイラーと右手のパイルバンカーで進む鉄人の挙動もまあ順調、マリーじゃないが、自分たちだってどうせ雪上を素早く動けるもんじゃないし、カーチも鉄人に合わせて歩いてるので転ぶ事もないし、これでいいだろう。
大河の河原に出る時もちゃんと両手で勢いを殺して降りていってたし、動きに関する記憶と言うかプログラムは健常の様だ。
内部に入ると、車輪を出してスキー板部を浮かせて、キュルキュル動く。
ここまで想定通りの動きで順調、カーチも鉄人の挙動に夢中で、騒いだり走ったりしないから、のんびりついて行くだけでいい。
突き当たりで、自分が下へ向う通路を開けてやり、パイルバンカーをフックに換装する。
ワイヤー一本でフラフラとしつつも何とか下の階に降り立ち、カーチも特に怖がる事もなくあっさり梯子を降りていく。
そこから更に奥に向かって例の鉄人を拾った部屋に辿り着いた。
「ここで、鉄人を拾った訳だが、何か思い出せそうか?」
「一番 奥 ノ コンソール 台 ニ 接続 シテクダサイ」
「接続ってどうやるんだ?上は何でか知らんが壊されてるぞ?」
自分の言葉を聞くや否や、真っ直ぐ一番奥まで向った鉄人が、唐突に壁の一部をフックで破壊する。
射出機構だけで壊れるのだから、そう硬い壁ではなかったのだろうが、内部には複数の配線が見て取れた。
「上部 コンソール 台 ニ 繋ガル 配線 デス 直接 中央演算処理装置 ト 接続 シテクダサイ」
言われるがまま、スキルの赴くまま、何となく配線を接続すると、いきなり周囲の機械が脈打つように作動し始めた。
急に動いた事に驚いたのか、カーチが服の裾を掴んでくるのをそのままに少し様子を見ていると、そうかからずに、
「情報 取得 完了 デス」
と、鉄人の方から報告が来た。
「そうか、それで?任務とやらは分ったのか?」
「ハイ 生命科学研究所 ノ 破壊 デス」
「始めて聞く施設だな。カーチは知ってるか?」
首を振って、知らない事を示すカーチ。
「スグ ニ 生命科学研究所 ニ 向カイ マス」
「それは何所にあるんだ?」
「不明」
「もしかして、大昔の話だからもう無くなっちゃったんじゃない?」
「かもな~。まっ!物騒な任務が無くなって良かったじゃないか」
「ソウ デスネ 他 ニモ 幾ツカ ノ 情報 ガ 存在 シマス 開示 シマスカ ?」
「まあ早めに知っておいた方がいい情報が有ればな。無ければ帰ってからでいいんじゃないか?」
「ソレデ ハ ツイテ キテ クダサイ」
言うが早いか、動き出そうとするので急いで止めて、配線を外してやる。
部屋から出て、少し進んだ壁の前で止まり、
「パイルバンカー ノ 換装 オ願イ シマス」
と言うので、再びフックを杭に取り替えてやると、また唐突に壁を破壊してしまった。
今度はいきなり壁一枚綺麗に剥がれ落ち、折角だから鉄人のボディ用にと持って帰る事にする。
そしてその奥にはミサイル1発と、鉄人とそう変わらないサイズのロボットが散乱していた。
「これはミサイルだろ?何でこんな物騒なもんが……まあ折角だしこれも持って帰るか、そんでこっちのロボが?一体なんだろうな?」
「コレ ハ 自走型 デコイ デス 一方方向 ニ 進ム 事 シカ デキマセン」
「それでも移動が出来るだけ、今のボディよりは幾らかマシになりそうか?」
「ハイ 敵 攻撃 ノ 的 ニ ナル事デ 本体 ヲ 守ル 機能 ノ 兵器 デスノデ 耐久性能 ハ 最低 カラ 低 ト ナリマス」
「よし分った!こいつも幾つか持って帰って、スクラップボディから、新ボディへ改造してやろう!」
「アリガトウ ゴザイマス」
「え~!クラーヴンが折角作ったのに、もう新しいボディにしちゃうの?」
「そりゃ、俺達生産職は戦いに行く奴らを最高の状態で送り出す事が、仕事だろうが」
そう言って、いそいそと今回の戦利品を拾い集める。
プレイヤー専用のアイテムバッグに仕舞えば、あっという間の事だ。