8.ボディ完成
親方と向き合い、自分は貝のスープをすすり、親方は酒を飲む。
日中から酒とは退廃的な気もするが、そもそも【帝国】は昼も夕も分らないほどいつでも暗いし、何よりドワーフなら寧ろ酒飲んでないと変な感じするし、まあいいだろう。
自分が啜っているスープの貝はシジミっぽい。
身が小さく食べ応えこそ無いものの、いい出汁が出ている。
偶に病毒とか言うモノが出るが、ヒトによる環境汚染もないゲーム内の食料の新鮮な事、ほっとする味に舌鼓を打ちつつ、親方に相談する。
「と言うわけで、重量に対して移動に関する駆動系が、整わなくて困ってるんだ。あまり大きくすると例の古代の鉄屑に入りこめないし、小型化するとどうやって移動させるかが問題になる」
「なるほどな~。俺が知ってる構造とは全く違うし、全然分らんな!」
「だろうと思ったよ。まあ俺も手探りだし、ゆるゆるとスキル熟練度を溜めつつ……」
「だが一個疑問があるぜ!」
「何だよ?」
「駆動が整わないとか言ってるが、そもそもそれを動かす原動力は何だ?その鉄人は飯食ってる訳じゃないだろ?」
「まあそりゃな。何かよく分らんが始めっからエネルギー源が有って、その近くに情報処理用の……」
「つまり、よく分らない動力が有るってことだ!その動力はどんな事が出来るんだ?まずその実験をしてだな。もし精神力みたいに精霊様の力も利用できるなら、重精様の力で軽量化すりゃいいだろ。もしくは魔石を利用して徹底的に軽量に変質させるのも悪くはない。そのお前の言う情報処理ユニット?さえ積めりゃあとは軽金属をゴリゴリ変質してやれ!」
「なるほど、鉄で作ることばかり考えてたが、軽金属でもいいのか」
「ふん!お前は俺の弟子になってから鉄ばかり触ってきたからな。はっきり言ってその腕は極まっちまってる。だがまだ頭の方が追いついてないみたいだな。もっと色んな金属に触れてみろ。じゃなきゃ一人前とは認めないぜ!」
ふむ、流石親方だ。いい事を言う。
このゲームNPCが実はかなり親切に出来ている。
はじめは結構素っ気ないのだが、ちゃんとクエストを繰り返し信用されていけば、聞いてもいないのに向こうから色んな情報をくれるようになる。
そして、はじめは自在に体を動かすのも不自由なプレイヤーに対して、どこからそんな情報を引っ張ってきてゲーム内で再現したのか分らない技術を教えてくれるどころか、身に付けさせてくれるのだから、やっぱりよく分らない超技術のゲームだ。
まあゲームの構造はきっと頭のいい奴が作っているのだから、自分は楽しむ事に真剣になればいい。
そしてエネルギーの利用方法実験を繰り返す事数日、拾ってきたユニットは雷精の力、つまり電気に変換されている事が分った。
まあどうやって電圧や電流なんかをコントロールしているのかはブラックボックスなのだが、そもそも精霊の力に理屈の付けようなんてないし、別に置いておいてもいいだろう。
じゃあリニアモーターカーの様に空中に浮かす?
そんな技術は現状見つかっていない。
辛うじて、コイルの作り方がわかったので回転エネルギーに変えてソリと車輪で動くようにするのがいっぱいいっぱい。
徹底的な軽量化の末、何とか雪上でも動くようになった。
雪上でどうやって動くのか?腕部をスキーストックの様に突き刺して、前へ前へ引っ張って進む。
動きのコントロール自体は何か出来るみたいなので鉄人任せだ。
そして、お次は自分の専門分野鉄人に積み込む武器を考えねばならない。
射出武器が得意なのに、触れるほど近くなければ当てられないとなれば、採るべき方策は二つ。
一つ目!狙う必要が無いほど拡散するか、連射する武器!
と言う事で、タッカーとかネイラーとか呼ばれる電動釘打ち機だ!何しろ腕部の先端はストックみたいに尖って無いといけないし、親指と人差し指をいっぱいに広げたサイズの釘が連射されたら怖いだろう!
二つ目!近距離で一撃必殺を見舞う!
パイルバンカー!巨大な杭を打ち込む!動力は勿論電磁力だ!
これら二つについては、ただ武器を作りたいと思ったら、何か出来てしまった。
これで、とりあえず移動と武器は完成、最後に梯子を降りる方法だが、パイルバンカーに束ねた鋼線を繋ぎ、パイルをフックに換装出来るようにした。
これで、紐でゆっくりと降りる事が出来る。
だが、換装に関しては外から誰かが手作業で付け替えねばならない。
よって自分が一緒に行く事は決定した。まあ元々そのつもりだったし別にいいか。
とりあえず、ゴミバケツをひっくり返したようなシンプルすぎる土台にソリと車輪と釘と杭の付いた簡素な昭和的ロボが出来た。いっそ蛇腹腕に丸い挟む事しか出来ない手も付けてやればよかったか?
「それで?ボディの調子はどうだ?鉄人」
「武装 貧弱 装甲 最低 機動力 無 戦闘力 及ビ 制圧力 皆無 完璧 デス クラーヴン技師長」
「そうかい、気に入って貰えた様で良かったよ。もう少し運動テストをしたら、例の古代の鉄屑に行ってみようぜ」
「了解 目標地点 古代 ノ 鉄屑 ニテ 情報収集 ヲ オコナイマス」
何だかんだと飽きない日々、鉄以外の金属の熟練度も上がったし、作りたい物を好きに作るのも悪くない。