5.ロボ語とカーチ
その日は何となく自然と手が進み、頭の中のパズルのピースが組みあがるように、例の喋る鉄屑の修理が進んだ。
結局自分の担当した隊長の剣については国から素材の支給が速やかに行われた事もあり、あっさりと出来てしまった。
何と言うか、隊長も長い事お得意さんだし、欲しい物が自然と分かると言うか、多分不満はないだろうと確信で来てしまったので、今一番困っているであろう鉄屑修理に移ったといった感じ。
必要な材料については例の一番奥の部屋が、こいつの頭脳部が集合していた場所らしく、必要な物が剥ぎ取れたので、あとはそこいらにあった配線なんかも頂戴して、適当につなぎ合わせている。
よくよく考えると、古代の鉄屑と言われて剥ぎ取りに行った割りに、全く磨耗や風化していないことから、コレ鉄じゃないなと。
多分古代文明には特殊な合金が存在してて、もう少しスキル熟練度が溜まれば解析も進んで、新たに使える素材になるのかもしれない。
今の所は剥ぎ取って繋ぐ事しか出来ないが、まあまずは喋れれば問題ないだろう。
何かがカチッと完全にはまり込み、これでイケると確信した瞬間、鉄屑が起動した。
「サイキドウ……」
「あーーーーー!何それ!」
扉を思い切りバンッと開き元気よく入ってきた娘は、【商人】のカーチだ。
所属は一応【鉱国】らしいが、実際には大陸中を巡って生産プレイヤーのサポートをしているクラン『MoD』のメンバーで、以前急な大量の依頼に困っていたところを助けてもらって以来の付き合いとなっている。
しかし、この子中身はどうやら相当若い(と言うか子供)らしく、【商人】のような仕事が成り立つのかと思ったが、そこはまあスキルとかゲーム的ルールとかに保護されて、上手い事やっているらしい。
それにしてもタイミングが悪いと言うか良いと言うか、折角の再起動の瞬間に被るとは……。
そんな事を考える間にも鉄屑を覗きこみ、既に何か話し始めているのだから、子供の好奇心におっさんの反応速度ではかなわない。
「ああ、何かクエストで拾ってきたんだわ。喋れるらしいんだが壊れてるんで修理してたんだよ。店番がてらこんな所で作業してた俺も悪いが、あまりなんでも勝手に触るなよ?」
「ごめんなさーい。ねぇこの子の名前は?」
謝った瞬間にはもう好奇心に捕らわれてるんだが、まあ健康な証拠か。
「まだ聞いてねぇよ。今再起動できたばかりなんだ」
「へー!ねぇねぇ名前はなぁに?」
「……フメイ……カタシキ フメイ コタイメイ フメイ ニンム フメイ ニンム ゾッコウノタメ シキュウ メモリ ノ フッキュウ ヲ シテクダサイ」
「ん?何て言ってんだ?細切れな上早くてよく分らんぞ?」
「なんかね、任務が分んないからメモリを復旧してって」
「エマージェンシー エマージェンシー ニンム ゾッコウ ニ ヒツヨウナ ボディ ガ アリマセン」
「だから何だってんだよ。もう少しゆっくり話せ」
「体がないから任務が出来ないんだって!」
「でもその任務が分らないから、メモリの復旧が必要なんじゃないか?じゃあ体より記憶が先だろ?」
「? ? ?」
「いや、今度はそっちが分かんねぇのかよ!」
「メモリの復旧とボディを捜すのどっちが先なの?」
「リョウホウ トモ スミヤカ ニ ナサレル ヒツヨウガ アリマス」
「今のは分かった。やっと聞きなれてきたわ。それで何でそんな急ぐんだよ?」
「フメイ」
「ねぇねぇ、あなたは何にも覚えてないみたいだけど、新しく覚える事は出来るの?」
「メモリ ノ ヨウリョウ ヲ カクニン シマス……アキ ヨウリョウ サイテイ ショリソクド サイテイ ジョウタイ サイテイ……ヨウリョウ ノ スクナイ ジョウホウ デ アレバ カノウ ト オモワレマス」
「その容量が少ないってのは、どれ位なんだ」
「どうせ、単位が分らないとかなるんだから、適当でいいんじゃない?」
言われてみればその通りだ。細かい事を気にした所で、初めて見た喋る鉄屑の事なんてすぐに分るものでもない。
まあゆっくり慣れていけばいいか。
「じゃあとりあえず、そのボディとメモリの復旧を目指して、もうちょい改造していくか」
「あのね~私はカーチ!【商人】やってるの!こっちはクラーヴン!あなたを治してくれる鍛冶職人さん!」
「……ニンシキ シマシタ クラーヴン ギシチョウ カーチ ジュヒンカチョウ」
「俺は軍属じゃないから、ただの鍛冶屋だぞ?」
「私も【商人】だから、ジュヒンて分んない」
「? ? ?」
何か皆分んない状態になってしまった。
「とりあえず名前付けようよ!思い出したらそれはそれでいいじゃん!復旧できるまで、このお店で働いたら?」
「ニンム デスカ ?」
「違う違う!色々やって貰うんだからお金稼がなきゃならないでしょ!とりあえず喋れるんだから店番しなよ!」
「オカネ ?」
「何か買うなりしてもらう時の対価だが、メモリが不完全なら概念から説明したら日がくれるし、何より俺にそんな説明能力ないぞ」
「ワタシハ ニンム ノ タメニ ツクラレマシタ タイカ ハ フメイ」
「でもその任務がわかんないんじゃん!」
「フメイ」
こりゃあ先は長そうだな~と一旦カーチに任せて、飲み物を取りに行くことにする。




