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4.生産お茶会

 【古都】の建物はよっぽど大きな建物でもない限り、大抵は似たような木造三角屋根の家ばかりだ。


 しかも降り積もる雪の所為で、なおさら違いがよく分らない。


 多分【帝国】からスタートするプレイヤーは街中の施設の配置を覚える時点で、脳をフル稼働することになるだろう。


 しかもゲーム側の謎のリアリティ仕様の所為で、視界の端にミニマップや方位が示されるなんて事は、全くない!


 一応道具でコンパスや地図と言う物が存在するが、何故最新ゲームでアナログ体験せにゃならん!


 とは思うものの、文句を言った所でここの運営は『仕様です』の一点張りで有名なので、どうにもならない。


 【運び屋】なんて言うジョブもこのゲームにはあるのだが、そのジョブでクエストをこなせば貢献度と交換で、方位や何かが分るスキルも手に入るらしい。


 しかし、本当にゲーム中のMAPを歩き慣れると、そんなもの無くても時間と太陽の方向で大体方位は分るし、何となく雰囲気で行きたい所にいけるようになるとか言う変人もいる。


 変人といった時点でお察しだが……。


 今の所自分はそこまであちこち歩き回る予定もないし、保留でいいだろう。


 歩き慣れた【古都】の道の先、何の変哲も無ければ目印もない一角にある小さな料理屋。


 利用者がいつも少なく、一体どうやって経営しているのだろうと不思議になる店の扉を開けると、軽やかな鈴の音が鳴り響く。


 内装は明るい木目調で統一され、暖炉の温もりがより柔らかく感じられる落ち着いた雰囲気だ。


 そんな中、椅子から降りて立ち上がってもさほど身長の変わらない小さな女の子が大きく手を振っている。


 そんなに頑張らなくても、店内で埋まってる席が一つなんだから一目で分かるっていうのに……。


 まるで頭の上から生えてる耳がピコピコと動くのを幻視するかの様な小動物さながらの動きに、自分みたいなおっさんじゃなければ、何か心動く事もあるのだろうと思うが、何せこの子は人見知りのコージァだ。


 知らない人、特に男には全く心を開かない女の子だが、慣れると子犬かなんかと表現してもいいだろう。


 そしてそんな姿を微笑ましげに眺めながら同席するちょっと派手目な服の男は、


 「よう、ポッター。どこから聞きつけたのか知らないが【鉱国】からわざわざ来るなんて、相変わらずフットワークが軽いな」


 隣国にある【鉱国】所属の陶芸家だ。


 【鉱国】は生産職御用達の金属やら土やら石が豊富に採れる国で、師匠のゴドレンの出身国でもある。


 つまりドワーフ国家のプレイヤーなのだが、いつも気楽で他人に隔たりの無い性格で、派手な服が特徴の若作りしたおっさんだ。


 コージァともいつの間にか打ち解けて、装備関連で腕を振るえるタイミングにはいつの間にか現れる。


 「やぁやぁクラーヴン!なんでも報酬天井知らずの装備作成依頼だって?いや~世は邪神の化身討伐バブルだって言うのに、僕のところは閑古鳥!何だと思う?」


 「服装がイカレてるからじゃないか?」


 「……陶芸とか使い道がないからだと思う」


 「うん、二人の言う通りだと思うよ!だからこんなチャンスは絶対に無駄にしない!さあ!僕に何か手伝える事はないかい?」


 「じゃあ早速だが、コージァは今回の装備どんな風にまとめたい?」


 「ん!」


 自分の質問に一枚の紙を差し出すコージァ。


 そこに書かれたイラストには、黒く余裕のあるズボンと対照的に体にぴったりフィットした上半身の服、口元からたなびく黒いマフラー、顔には鬼の面を被っている男が描かれている。


 「うん、忍者だね!隊長にはぴったりだと思うよ!」


 確かにこれ以上ないデザインだ。


 隊長は表向き、将軍職に付いているだけあって、集団戦といわれる多人数戦のエキスパートと思われているが、その裏の顔は紛れもなく忍者なのだ。


 何故裏の顔を知っているかと問われれば、【森国】と言う和風世界観の国の有名忍者プレイヤー通称三羽烏に聞いたからに他ならない。


 忍者にも関わらず有名と言う時点で隊長の変人仲間である事は言うまでもない。


 ちなみに服部半蔵、風魔小太郎、猿飛び佐助の三人組なのだが、隊長は玄蕃と言うらしい。


 玄蕃って誰だ?と聞いたら、飛び六法の玄蕃知らないの?と逆に言われてしまった。


 てっきり自分だけ知らないのかと思ったのだが、誰に聞いても知らんと言われる。


 忍者マニアだかヲタクしか知らん人物を名乗る当り、将軍になっても未だ地味すぎる隊長には御似合いだろう。


 そんな事を考えている内に、コージァがまた子犬の様な目で『どうだ?』とばかりに問うてくるので、


 「俺もいいと思うぞ。ただ左腕だけは露出してくれとの要望だ」


 「剥き出しにするの?」


 「この寒い【帝国】で肌露出なんて珍しいね?」


 「ああ、何でもこの前の邪神の化身討伐報酬だかで、左腕に刺青が入っちまったらしい」


 「!!!」


 「コージァ?そんなに驚かなくても、このゲームの刺青は術で入れてるだけだから、別に針で色入れたりする訳じゃないし、ちゃんと消えるよ?」


 「ああ、ポッターの言う通り、肌を露出しない【帝国】じゃ珍しいが、露出した部分に刺青を入れて防御力の代わりにステータス補強をするのはよくある手法だ。なんで左腕は露出した形で作ってやってくれ」


 「でも小手が空いたら防御できなくなっちゃう?」


 「隊長なら大丈夫じゃないかな?僕は戦闘には詳しくないけど、クリーンヒットを入れるのすら難しい、防御のプロフェッショナルなんだろ?」


 「俺もよくは分ってないが、多分アイツなら大丈夫だろう。それこそ剣一本あれば、何とかしちまうらしいからな」


 「……(こくこくこく)」


 細い首が折れちまわないか心配になる勢いで頷くコージァがちょっと不安だが、その後もどんな補正でまとめるか相談しつつ、他に客のいない料理屋で相談を重ねる。

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