31.坑道の魔物
狭い坑道を一定間隔で照らし出す大昔の光源。
全く古代の超技術はどうなっているのか、ゲーム的都合だとは重々承知しているが、その磨耗しない<機構>を是非解析して真似してみたいものだ。
時折暗い曲がり角で、魔物が出ないか冷や冷やするが、今の所は問題なし。
「まだ発掘ポイントは見つからないか?」
「分らない。多分ここで掘っても何もでてこないと思う」
道が明るくなって幾らか移動速度は上がったが、肝心の素材は見つからないし、魔物の一匹も現れない。
そうやって油断していると大抵事件は起こる物だ。
「来たよ!」
ガイヤの声に一気に場の緊張が高まるが、一体どこから何匹どんな魔物が現れたのか?
自分の能力では全く、察知できていないのだが、兎にも角にもいつ敵が出てきてもいいように、逃げる準備を整える。
ゴリゴリ……
最初は聞き間違いかと思うほどのわずかな物音。
しかしそれが徐々に近づいてきて、大きくなってくる。
幻聴でもなんでもなく、壁の中から音が聞こえると思った瞬間!
天井から丸っこい魔物が落っこちてきて、鉄人に襲い掛かってきた。
自分が何か言うより早く、鉄人は頭上に右腕を掲げて、鉄球で射出して丸っこい生き物を弾き飛ばす。
そして、弾き飛んだ生き物に容赦のない左手の空圧銃と肩の水圧銃を撃ち込み、あっという間に魔物は動かなくなってしまった。
スタスタと何事もなかったように近づいていくガイヤが屈み込んで魔物を検分しながら、言うには、
「鉱石が多く出るところには大抵いる奴だね。鉄鼠って言う一匹見たら100匹いると思えって言われる魔物さ」
「なんか、嫌な黒いカサカサした虫みたいだな」
「実際【鉱国】じゃそれ位嫌われてるさ。鉄鼠とは名ばかりで金属鉱石から宝石までがつがつ喰らって、食べた物の影響で毛皮の性質が変わるって輩さ。集団行動が得意で、本当に厄介らしいよ」
「らしいってのは?」
「少数なら私も倒すけど、大群で出てきた場合は集団戦を得意とする奴等に譲るからね。こいつらの目撃情報は大抵集団だからさ」
「まぁ、ガイヤは一対一の対人戦を得意にしてるわけだし、全部一人でなんでもって訳にゃいかんだろ」
「そりゃあね。まあこの先こいつらの集団が陣取ってる場合、手に余るって話さ」
「そうだな、その場合は一旦退いて、対策を立て直すか」
一応の形だが、全員意思を統一して先に向う。
時折壁や天井から現れる二足歩行のモグラのような、鉄鼠を倒しては進む。
そして、はじめて知った事実。
てっきり生産職だと思っていたマ・ソーニはかなり戦えると言う事。
両手槌を振り回し、鉄鼠を一撃で屠る様には、何となく憎しみすら感じられる。
鉄鼠が【鉱国】じゃ黒いカサカサしたG並みに嫌われているのは本当なのかもしれない。
それ位、容赦ない一撃を叩き込んでいるので、自分もカーチも若干引き気味だ。
ちなみにこいつらから剥ぎ取れるドロップアイテムは〔鉄鼠の爪〕〔鉄鼠の毛皮〕とか如何にも獣を倒しましたって言うラインナップ。
調べてみると、周囲の鉄をよく食べているのか、毛が鉄を多く含むかなりの防御力とそこそこの重量に安定感のある性能なので、これはコージァのお土産にすれば喜ばれるだろう。
逆にその性能をぶち抜く、今回のパーティの火力はちょっと過剰だったかもしれない。
「っかしおかしいね~」
「何がだ?」
「さっきも言ったろう?こいつらもっと集団で出ても良い筈なんだけどね」
戦闘大好きガイヤは不満のようだが、こっちは生産職なのだ。これで十分!
「多分まだ<採掘>スポットが見つからないから、相当枯渇した坑道だと思う」
「なる程な。餌となる鉱石が減りすぎて、このモグラみたいな敵も沢山は寄り付けないのか。何なら普通の鉄だな~なんていいながら毎日食ってるのかもな?」
「全く歯ごたえが無いね~。もう少しスリルを味わいたいもんだけど」
「こっちは普通の生産職なんだ勘弁してくれ。寧ろ生産職守りながら進むクエスト用坑道だから、魔物が弱いのかもな」
そんな事を大人達が話している間もカーチは真面目にあちらこちら観察しながら、歩いている。
「カーチ、そんなにキョロキョロしてたら危なくないか?」
「だって、ロボ欲しいから!何かヒントとかあるかもしれないじゃん」
「ああ、そうだな。まあ真面目に探すのはいいが、怪我だけはしないように気をつけろよ」
ふむ、どうやらこの中で戦闘もしなければ、何もしないのは自分だけのようだ。
少しは真剣に今回の探索にも向き合いたいが、新素材は気になるもののマ・ソーニ次第。
大昔の痕跡については鉄人次第。
戦闘はガイヤがいれば何とでもなる。
自分は本当に特にやる事もないのに、ついて来ちゃった人だ。
精々が〔IRM〕を使って偶に鉄人を回復する程度の事。
今の所装備換装の必要もないし、どうしたもんだかな~。




