2.喋る鉄屑
雪国である【帝国】はこのゲームで現状開かれてる地域の北部に位置するのだが、大河と呼ばれる向こう岸すら見えない川幅の雄大な河川が南側国境となっている。
一見緩やかに見えるその流れも、実際に入れば押し流されるほど力強く、その冷たさも相まって、普通なら相応のサイズの船で渡してもらうしかない。
しかし今回は渡る必要は無い。
何しろ自分の目的地である古代の鉄屑は【帝国】領内だからだ。
大河を見下ろす道沿いにソリが止まり、そこからは歩いて大河縁に下りていく。
大した重量装備をしている訳でもないのに一歩歩くごとに雪に足が沈み、歩きづらい事この上ないが、まあ【帝国】国内のフィールドは大体こんな物なので、逆に言えば静かにゲームできるのもこの不便さのお陰だ。
河川縁から道の方に振り返ると、低い崖上に軒が少し張り出した壁にぽっかりと穴が空いている。
同乗した他のNPCの職人達がそちらへ向うので、どうやらこの洞窟内が現場かと、後ろを付いていく。
中は薄暗く、皆手持ちのランタンに光を灯して内部に入り込む。
それは自分も同じで、普段夜間戦闘なんかしないプレイヤーは夜目が利くスキルやアビリティなんか持ってやしない。
逆にランタンのような生活用品は比較的容易に製作できるし、他の生産職と合作も可能なので、そうお高いものでもない。
今回自分が使ってるランタンは、知り合いの陶芸家に作ってもらったガラス製。
陶芸家なのにガラス?とも思ったが、まあ焼き物系は陶芸家らしい。鍛冶といいながら鋳造も鍛造も出来る自分が文句言うのもおかしいかと思ったので、深くは追求していない。
中には火ではなく<錬金>で作られた陽精の石が入っているので、精神力と呼ばれる実質MPで光らせている。
ちなみに<錬金>は精霊と呼ばれるこの世界の自然現象を司る何か凄い存在の力を受けた素材を加工するって感じなのだが、まあ感じでいいだろう。
兎にも角にもNPCとは違ってプレイヤーメイドのそこそこ質のいいランタンで辺りを照らして見てみると、鉄屑と言うよりは何かの乗り物の内部?
あちこち配線のはみ出たファンタジー世界にはそぐわない乗り物なのだが、中はヒト一人通れる程度の狭さで、職人達は一列に並んで奥まで入り込む。
そのまま突き当たりで前後入れ替われるスペースがあったので、皆逆進して入り口近くから良さ気な物を解体して持ち帰る事にしたらしい。
元々この依頼は片付けと有効利用なので、持ち帰れるものは持ち帰ってしまってもいいのだろうが、何か気になるので自分は一人突き当たりを調査する。
何しろ乗り物にしか見えないのに、居住スペースも無ければ、操作スペースもない。
そんな事を思いつつ地面の一箇所に変な突起が有ったので引っ張ってみると、油が切れているのか、かなり重くはなっているが、十字のハンドルを強引に引き出す。
そしてこれまた強引に回すと、丸く地面の一部が開き更に奥への道が開かれた。
本当に今度こそヒト一人しか通れない、閉所恐怖症なら絶対拒絶するであろう整備用通路を降りてみる。
簡素な梯子が壁と一体化していて、古代の鉄屑と言う割には安定感があり、降りるのには不安が無い。
降りた先には、やはりそう広くはないが通路があり、とりあえず周囲を見回しながら目ぼしい物がないか見回しつつ、進む。
やはり部屋らしき物は見つからない。乗り物だと思ったのが勘違いなのか?でも施設だってヒトが何かする為のスペースがあって然るべしだ。
何しろヒト一人通れる通路だけはあるんだから、ヒトの手が入ったものと見て間違いないだろう。
そしてまた突き当たり、一番奥にやっと部屋の扉らしき物があった。
と言うのも、ドアノブすら付いてない壁の隙間で、NPCなら扉と認識できないような平な作り。
最早近未来的としか言いようのない金属の自動扉、金属解体クエストと聞いて持ってきたバールを差し込みこじ開ける。
すると、目の前にはそこだけ攻撃された痕跡、滅茶苦茶にされた機械室。
部屋の傷跡に目を取られている内に、それまでとは明らかに違う柔らかい感触に飛び上がる。
痛みを感じたのと同時に足元の何かが動き出したので、ただ反射で手に持ったバールで殴りつけた。
最初期に取得したまま<鍛冶>に便利だからと一応熟練度が溜まっていた<鈍器>スキルのお陰か、一発で沈黙する腐り落ちて最早原型すらも分らない生物?
また動き出さないか警戒しつつ、最も破壊跡の激しい台座に登る。
「ホクブ キョウシュウテイ…ガガガ……二…ニンム ゾッコウ フカ シュウフク ヲ モトム」
「あ?何だ直して欲しいのか?」
何か話しかけてきたので、返答したもののそれ以降何にも喋らないボロボロの鉄屑。
どこからどこまでが、この鉄屑の体なのかよく分らないが、取得したてのスキル<機構>が仕事をして、エネルギー源らしき部分と記憶装置の部分は分ったので、それらを持ち帰る事にする。
あとはもう少しスキル熟練度を溜めてから使えそうなパーツを剥ぎ取りに来るとしよう。
古代の何かが修復を求むって言ってきたんだし、仕方ない。