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1.日常

 「親方!行ってくる!」


 「ああん!どこに行くってんだ!」


 ガナリ声で応えるのは、ファンタジーの定番ドワーフ。まあ髭もじゃの小さいおっさん名前はゴドレン。


 一応ゲーム内では自分の師匠筋で、鉄鍛冶に関しては右に出るものがいない、らしい。


 自分が所属するのはゲーム内でも辺境の地【帝国】と呼ばれる雪深い国の【古都】と呼ばれるド田舎で、食うものは芋、木と鉄だけは山程取れるって言う、なんとも冴えない地だ。


 必然とプレイヤーの数もかなり少ない地域となっている。


 そんな地域の小さなコミュニティで細々と生産職をやって数年経つのだが、不思議と飽きが来ない。


 よっぽどこのゲームの世界が性に合っているのか?


 フルダイブVRなんてものは夢か物語の世界だと思っていたのに、いつの間にか現実化していた。


 とは言え、自分のイメージどおり体が動くゲームってのは尋常じゃなく不便だ。


 ボタン連打で敵を攻撃してくれる様なもんじゃない。タイミングも武器の振り方も全部コントロールしなきゃならん。


 はっきり言ってこのゲーム作った奴の顔が見たい。


 早々に戦うことを諦めて生産職となったが、似た奴ってのは結構多い。


 はじめは高い金出して買ったゲームだしと思って惰性で続けていたが、今では完全に習慣になっているのだから怖いものだ。


 まぁ、自分がこのゲームを止めたら困る奴も片手で数えるくらいはいるだろう。なんかこう……迷惑な奴とか、意味分んない奴とか、放っておけない奴とか。


 人それぞれ考えは違うだろうし、異論はあるだろうが、俺は生産職は縁の下の力持ち、脇役でいいと思ってる。万全の状態で戦いに送り出してやるだけが自分に出来る事だ。


 そんな折、ワールドクエストとでも言うのか?全プレイヤーが参加型の巨大ボス、邪神の化身が現れて、そいつを倒した事でこの度、大型アップデートがあった。


 その流れで、ゲーム世界が広がって色んな物が増えたとか?


 何かもう、そういうものらしい。邪神勢力を削ると自分達神側勢力に有利な世界になる。逆に負けると今まで当たり前に使えていた物が使えなくなるみたいなペナルティが発生するらしい。


 そして<鍛冶>ばかりやってた俺にも新スキルの取得機会があり<機工>や<機構>なんかを手に入れた所で、見慣れぬクエストが発生した。


 「いや、この前【組合】から頼まれた依頼だよ!何か古代の鉄屑が大量に廃棄されてるから、使える物は使ってくれとか、そういうの!」


 「ああ、あれな!悪いなお前一人行かせちまってよ。どうにも邪神の化身が倒されてからってもの景気がいいんだかなんだか知らんが、やたら依頼が増えちまってよ」


 「分ってる分ってる。その一端がこの都所属の【兵士】の所為なんだから、精々そいつに文句言っておくって!それじゃクラブもクラームも留守番頼むぜ!」


 「気をつけてな。クラーヴンの知り合いが来たらいつも通り適当にあしらって置けばいいんだろ?」


 「そうだな。まあバレたらバレたでいいんだが、何であいつらも気がつかないんだかな……」


 そう、自分の名前はクラーヴン。


 そしてクラブとクラームはNPCだが、名前も似てれば顔も似ている双子で、しかも自分とまで似てると来た。


 アバターを作った時は何にも狙いは無かったっていうのに、戦闘を投げ出して途方にくれた時、偶々出会ったのが、親方に弟子入りに来た双子。


 何か面白かったって言うだけで一緒に弟子入りして、そのままこの店に居ついたのだが、その後幾らプレイヤーの知り合いが増えても、未だにこの店に3人似た者が居てローテーションで店番していると気がつく奴がいない。


 まあ人なんてそんな物だ。興味の無い事はとことん気が付かない。気が付くまでは秘密にしておこう。


 店を一歩出れば、まだ都内だって言うのに震えるような寒さが一瞬で体温を奪う。


 このゲームの不便さのもう一つが、環境の再現度が意味分らない程丁寧で尚且つキツいって事だ。


 防寒具をしっかり確認して、歩き出す。


 都や街なんかのヒトが住む場所はそれでも、いくらかマシに設定されているのだが、外に出ればその環境表現のキツさは筆舌に尽くしがたい。


 にも関わらず【輸送】任務とかいう、ひたすら吹雪の中雪道を歩くクエストを好き好んで受ける変人もいるんだから、世の中広いと言わずにはいられない。


 それでも今回はその環境表現のキツい外に行くのだから、油断できない。


 徹底的に防寒重視のブーツにコートに帽子からマフラーまで揃え、手だけは動きを阻害しない薄手の皮製の物を使う。


 これが現実と違う所で、装備品につく効果の中に 耐寒 と言うものがあり、コレがあれば部分的に薄かろうが、寒さを軽減してくれる。


 何か妙にリアルで現実的な部分とゲームとしてのルールの違いに、ちょっと困惑することもあるが、それでもこのゲームが楽しいと思えている。


 【古都】の南門に乗合馬車ならぬ、乗り合いソリが用意されていたので、乗り込む。


 今回はクエストで利用するので代金はクエスト主の【組合】持ちだ。


 ゆっくりと動き出すソリから、いつもの分厚い曇天を眺めて、揺られる。

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[一言] あんたら3人やったんかい!
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