✒ 変異植物の暴走 4
──*──*──*── 1週間後
──*──*──*── 寺子屋
里へ1台の馬車がやって来た。
たいそう豪華な馬車で、台圀では贅沢品だという事が分かる。
豪華な馬車は匕魅呼様の暮らしている長屋へ向かって行った。
匕魅呼様は寺子屋に居るから長屋へ行っても会えないんだけどな。
視察団と一緒に来ていた侍達に依って滅茶苦茶にされた花壇は、キノコンと子供達の手で元通りになっている。
セロが用意してくれた別の花の種を植えたから、キノコンと子供達は花が咲く日を待ちわびている。
今日は外で棍棒を使った武術を実践する授業だ。
手合わせは木の棒を持ったキノコン達で、子供達は棍棒を振り回してキノコン達へ打ち込んでいる。
キノコン達の的確なアドバイスを聞いて改善する子供達の腕前は、メキメキと上達している。
キノコンは教え上手だし、やる気を出させるのも上手いんだ。
オレは子供達に棍棒の使い方の手本を見せる役だったりする。
寺子屋に巫士と巫女の姿をした〈 器人形 〉がやって来た。
匕魅呼様の長屋に居る〈 器人形 〉みたいだ。
何かあったのかな??
器人形:巫士
「 ──マオ様、匕魅呼様と共に匕魅呼様の長屋へ来てください 」
マオ
「 匕魅呼様だけじゃなくてオレも? 」
器人形:巫士
「 はい。
セロフィート様は巫女が呼びに行きました 」
マオ
「 分かった。
匕魅呼様と一緒に向かうよ 」
オレは棍棒の稽古をしている匕魅呼様へ声を掛けた。
巫士が迎えに来た事を伝えると、匕魅呼様は棍棒を教師役の〈 器人形 〉へ渡すと事情を話して早退させてもらえる事になった。
オレも棍棒を〈 器人形 〉へ手渡すと、匕魅呼様と巫士と一緒に寺子屋を出て、匕魅呼様の長屋へ向かった。
──*──*──*── 里長の長屋
匕魅呼様の長屋へ到着すると既にセロが到着していた。
巫女の〈 器人形 〉も一緒に居るから転移魔法を使ったんだろうな。
マオ
「 セロ──、匕魅呼様が呼ばれるのは分かるんだけど、何でセロとオレも呼ばれたんだ? 」
セロフィート
「 匕魅呼様1人では対処の難しい事態でも起きたのでしょう 」
マオ
「 対処の難しい事態ぃ?
何だろうな? 」
セロフィート
「 馬車を飛ばして来る程ですし、余程の事なのでしょう 」
マオ
「 余程の事ぉ?
急を要するって事かな? 」
セロフィート
「 匕魅呼様,マオ──、行きましょう 」
セロを先頭にして、匕魅呼様の屋敷内へ入って、謁見の間へ向かった。
──*──*──*── 謁見の間
巫士,巫女の〈 器人形 〉に案内されて謁見の間へ入ると、頭を深々と下げて床に擦り付けている人物が座っている。
座布団は用意されてないって所を見ると、“ 招かざる客 ” って所かな?
セロとオレは〈 器人形 〉が用意してくれた分厚い座布団の上に腰を下ろして座る。
“ 分厚い” と言っても日本の一般家庭で使われている至って普通サイズで普通の厚さの座布団だ。
座布団カバーの絵柄でセロ専用とオレ専用の座布団を分けているんだ。
セロ専用の座布団には彼岸花が刺繍されていて、オレ専用の座布団には露草が刺繍されているんだ。
因みに匕魅呼様専用の座布団は、一般的人用の座布団より高級感のある座布団だ。
日本の法事とかで住職に座ってもらう時に使う特別な座布団みないなアレだ。
絵柄は芍薬,牡丹,百合が刺繍されていて豪華だ。
日本の諺だったかな?
“ 立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花 ” っていう意味合いが込められている。
匕魅呼様は成長したら間違いなく美人な女性になるだろう。
それを予言するかのようなニュアンスを漂わせている座布団だ。
まぁ、台圀民が日本の諺を知ってる訳ないから、セロが直々に皆へ説明してくれたんだよな。
匕魅呼様は、“ 立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花 ” に釣り合う女性になろうと誰よりも努力をしている頑張り屋さんだ。
セロとオレが謁見の間に入室してから暫くして、着替えを終えた匕魅呼様が入室して来た。
匕魅呼様が座布団の上に腰を下ろして静かに座る。
背筋を伸ばして胸を張り、顎を引いて堂々とした匕魅呼様の姿は、威厳があって凛としている。
14歳だけど、実に里長らしい、里長に相応しい雰囲気を醸し出せていると思う。
誰もが引き込まれて「 ハッ── 」と息を呑むような容姿は、セロによる直々の指導の賜物だったりする。
匕魅呼様が謁見時に着る着物も実はセロが用意した物だし、化粧だってセロが直々に巫女の〈 器人形 〉へ指導している。
里長と言うよりも、どっちかと言うと女王様みたいかな?
セロは女の子を化けさせるのが上手いんだよなぁ~~~。
詐欺師も顔負けだよ!!
里長:匕魅呼
「 ──面を上げよ。
我の里に何用か? 」
匕魅呼様は毅然とした態度と厳格な声を出して訪問客に話し掛ける。
訪問客が下げていた頭を上げて、此方に顔を見せる。
里長:匕魅呼
「 ──叔父上か。
良くも我の前に顔を出せたものだな 」
どうやら訪問客は匕魅呼様のオジさんらしい。
伯父なのか伯父なのか言葉だけでは分からないけど、匕魅呼様はオジさんを嫌っているみたいだ。
一体、匕魅呼様とオジさんの間に何が有ったんだろうな?
匕魅呼の叔父
「 ──弥眞呼が産んだ卑しい子の分際で随分と偉そうな態度だな!!
何故、お前のような卑しい子に頭を下げなければならないんだ!! 」
里長:匕魅呼
「 我は里長である。
里を治める長である我に余所者が頭を下げるのは当然であろう 」
匕魅呼の叔父
「 余所者だと!?
俺を──身内を余所者呼ばわりするのか!! 」
里長:匕魅呼
「 母上を裏切り、母上を殺し、我すらも殺そうとした叔父が、我の “ 身内 ” と言うか…… 」
匕魅呼の叔父
「 お前の母親──弥眞呼は帝を惑わせ、帝を死に追いやった諸悪の根源!!
お前もまた弥眞呼と同様、悪しき忌み子だ!!
皇都を滅ぼす鬼の── 」
セロフィート
「 それは違います。
貴方の言う匕魅呼様の御母上様は忌子でした。
然し、“ 忌子 ” は “ 忌むべき子 ” を意味する言葉ではなく、神佛に奉仕する清浄な童女を指していました。
言うなれば、祭祀に活躍した巫女です。
皇都では “ 日御子様 ” と呼ばれ、慕われつつも尊ばれており、とても大事にされていた人物です。
神佛に奉仕をした巫女は、貶めて良い存在ではありません 」
里長:匕魅呼
「 セロ殿…(////)」
セロフィート
「 匕魅呼様の御母上様──弥眞呼様は、帝を惑わせ、帝を死に追いやってはいません。
皇都の帝は偉人としては有名ですが、女癖が悪く、だらしない人物としても有名ですね。
当時、“ 日御子様 ” と呼ばれ、多くの都民達から親しまれ尊ばれていた、弥眞呼様も帝の被害者となった1人でした。
匕魅呼様の御父上様は間違いなく、今は亡き帝で間違いないでしょう。
帝の正妻──來眞羅皇妃の長子である匕魅呼様の兄上様にとって、帝と “ 日御子様 ” の子供は大敵となります。
次期帝の地位は間違いなく揺るぐ事になるでしょう。
帝の弟である貴方は、“ 日御子様 ” に近付き、信頼を得られた後──、弥眞呼様を騙し、裏切り、帝殺害の罪を被せ、重罪人として捕らえ、 “ 日御子様 ” を失墜させると、都民達からの信頼も失わせました。
貴方達は邪魔者だった弥眞呼様に無実の罪を着せ、都民の前で処刑しましたね。
それにより、皇都から “ 日御子様 ” と呼ばれる巫女文化は完全に失われました 」
里長:匕魅呼
「 ──な゛っ……セロ殿!!
それは本当の事なのか?? 」
セロフィート
「 勿論、事実です 」




