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9. 悪役令嬢はお年頃です③


「だから先ほどから私のことを悪役令嬢と呼んでいたのですね」


 エリス様はこくりと頷かれました。


「私はそのような未来は嫌なのです」


 私だって嫌です。



「ではなぜアルベルト殿下たちに近づいたのですか?」

「近づくつもりはありませんでした」



 エリス様は五歳の時にご自分が転生者であると理解はしていたそうですが、ここが彼女の言う乙女ゲームの世界だとは認識していなかったのだそうです。



「魔法のある異世界に転生したのだと知った時、私はとても興奮しました……」



 エリス様の前世の世界では魔法は空想上の代物だったそうですが、私には全く想像ができない世界です。


 自分が光の神聖力との親和性があると分かると彼女は神聖術に傾倒し、その力試しに多くの人々を救ったのが市井から生まれた聖女と噂される所以となったようです。


 それにしても孤児院ではまともな教育も受けられないはずですが、独学でこれほどまでに神聖術を習熟するのは大したものです。



「私はゼレーゼ男爵がメイドに生ませた落胤(らくいん)なのですが、私が十二歳の時に聖女の噂を聞きつけた男爵が孤児院へやってきました」



 エリス様は教会から認定された正式な聖女ではありませんでしたが、周囲から聖女だと崇められていたのですから、その人気を利用できるとゼレーゼ男爵が考えても不思議はありません。


 彼女の神聖力ならば、将来的に教会から聖女の称号を得る可能性もあるでしょうし、そうでなくとも強大な神聖力の持ち主を懐に入れておくのは悪手ではないでしょう。



「ところが、これがマズかったのです」



 乙女ゲームでゼレーゼ男爵に引き取られるのは、学園入学の年の前年である彼女が十四歳の時で、二年も前倒しになっているそうです。



「そんな差異もあって、私がこの世界と乙女ゲームとの類似性に気づくのが遅れてしまいました」



 そして、やっとエリス様が乙女ゲームについて気がついたのがオープニングイベント――アルベルト殿下との遭遇。



「意図せずして次々とゲームのイベントが進行してしまいました。なんとか修正しようとしたのですが、原作と異なり私は前倒しになった二年間で能力値を上げに上げてしまっていて、ゼレーゼ男爵は私の噂を広げてしまっていたのです」



 そのせいで、彼女は物語より注目されてしまっており、攻略対象の好感度なるものが最初から高かったのだそうです。



「アルベルト殿下を始め攻略対象の方々がまるで魅了にでもかかったかのような状態で、避けようにも彼らの方から私に付き纏ってくるのでどうしようもなく……」



 まあ、立場が上の者を邪険に扱うわけにもいかないでしょう。



「話は分かりました」

「ご理解いただけましたか?」



 エリス様はぱっと喜色を見せられました。


 明るいピンクブロンドに、エメラルドの様な綺麗な瞳。

 笑顔がとても愛らしくとても魅力的な方だと思います。


 彼女の魅力に陥落した男性諸氏の気持ちも分からないでもありません。

 私もついつい彼女の温和な雰囲気に絆されそうになっておりますから。



「全ての話を鵜呑みにしたわけではありませんよ?」

「それでも十分です。私の話に耳を傾けてくださったのですから」



 感謝しますと口にしてエリス様は祈るように両手を組まれました。



「やはりジェラミナ様はゲームとは違い根はとても思いやりがあるお方です」

「まだあなたを信用したわけではありませんよ?」

「はい……でも、全属性の魔法を使用できるジェラミナ様は全ての精霊に愛されているのです。きっといい人だと思っていました」


 あっさり他人を信じるのは少し不用心です。

 エリス様はお人好しが過ぎるのではないでしょうか?



「ウェイン君から聞いていた通りの方です」

「ウェイン……君?」



 なんですか!

 ウェインを君付けで呼ぶなんて!



「あなた……まさかウェインを、私の大事な義弟(おとうと)を誑かしたのですか!?」

「ジェラミナ……様?」



 何故か私のウェインが目の前の可憐な少女と仲睦まじく談笑する光景が頭に鮮明に浮かび上がりました。


 その途端、身体中の血が一気に逆流するような感覚に襲われました。



「絶対に許しません!!」



 ウェインは純情なのです。

 この女はあの子の優しさにつけ込んだに違いありません。



「これ以上ウェインに近づいたらエリス様……あなたを必ず後悔させてやります」

「――ッ!」



 私の口から出た声は底からズンと響き、自分でも驚くほどおどろしいものでした。それを向けられたエリス様は私以上に驚愕しておりましたが。



「ジェラミナ様……まさかあなたはウェイン君のことを……」

「あの子の名前を気安く呼ばないで!」



 私は激昂して声を荒げてしまいました。


 どうしてでしょう?

 いつものように感情を制御できません。


 どす黒い塊が身体の奥から込み上げてくる感覚に襲われ、どうしても(たかぶ)った気持ちを抑え込めないのです。




 私は激情の赴くままにエリス様を罵倒しようとしました――




「そこで何をしている!」




――背後より鋭い声が飛んできたのでした……


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