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6. 悪役令嬢は四十歳です④

 

「こちらが今回の報償金になります」



 カウンター越しにズシリと重そうな皮袋が置かれ、その中身の銀貨と銅貨の量を確認して、私の気分は最高潮に高揚してしまいました。



 これでターニャたちに美味しいものを食べさせてあげられます。

 どうせなら甘い物でもお土産に買って帰りましょう。



「ちょっと甘やかせ過ぎじゃない?」



 あの子たちはみんな辛い過去を背負っているのですよ?

 元気に明るく振る舞っている健気な子たちなんですよ?

 たまの贅沢くらい許してあげたいと思わないのですか?



「その心は?」



 これで子供たちのハートをゲットです!



義姉(ねえ)さん本当に孤児院の子供たちが大好きだよね」



 ウェインが呆れたように苦笑いしていますが、可愛いのだから仕方がありません。



 さあ、早く行きますよ!



「待たれよそこな美しき女性(にょしょう)!」



 ん?

 こんなむさい場所(ギルド)に美人さん?



「そこな絶世の美女!」



 え?

 どこ?

 どこ?

 どこですか?



「そなただ、そなた!」



 え?

 誰?

 誰?

 誰のことですか?



「キョロキョロしている尼僧のそなただ」



 は?

 まさか私のことですか?


 声の主は四十前後くらいの黒髪、翠眼の男性でした。

 よく見れば中年の色気がむんむんです。


 顔立ちからして異国の方でしょうか?

 なかなかエキゾチックな美形です。



「先程の戦場(いくさば)でのそなたの働き拝見させてもらった」



 ですが、どこか時代がかった物言いをされる方ですね。

 まあ、外国の方のようですから、我が国の言葉に不自由があるのかもしれません。



「そなたのフレイルを振るう姿は舞うように(あで)やかで、殺伐とした戦場(いくさば)に咲く美しき薔薇の如し……」



 艶やか?

 モーニングスターぶんぶん振り回していただけなのですが?



楚々(そそ)たる尼僧でありながら、内に隠したる色香は隠せず……」



 何ですか?

 それは尼僧の癖にエロい体してんなと言いたいのですか?



「戦う姿はまさに勇壮にして華麗……そなたの艶姿(えんし)には美しき戦乙女(ヴァルキュリアス)たちも嫉視しよう」



 美しき戦乙女(ヴァルキュリアス)は北方で信仰されている戦の女神でしたか?


 それで結局、この方は何が仰りたいのでしょう?



「私の名はルバート。戦場の妖花に心奪われた愚かな男にそなたの名を伺ってもよろしいか?」



 はあ、ルバートさんですか。

 私はシスターの……



「ダメだよ義姉(ねえ)さん。こんな怪しいヤツに名前を教えちゃ!」

「ぬ! 他人の恋路を邪魔するな!」


 恋路って……私はこんな年増(おばさん)ですよ?



「歳など何の障害になろうや……そなたは誰よりも美しい」


 う~ん。

 この歳まで誰も相手にしてくれないような女に、その言葉は信憑性がありません。



「誰も相手しなかったのではありません……私と出会うためにそなたは今まで一人だったのです」


 ルバートさんが口説き文句を言いながら私の手を取ろうとしましたが、その手をウェインにバシッと叩き落とされました。



義姉(ねえ)さんに近づくなスケコマシ!」

「その歳で姉離れできぬとはな」

「黙れナンパオヤジ!」

「シスコン神父よりはマシよな」

「誰彼構わず口説く浮気男に言われたくない!」

「私はそんな節操なしではないぞ」



 二人が私を巡ってギャンギャン争い始めましたが……


 私は言いませんよ?


 私のために争わないで!


 なんて……







 結局その後、ルバートさんはこの町に居着いてしまいました。



 彼は流れの冒険者で、魔法も剣も使いこなす超一流でした。しかも、羽振りが良く、独身イケオジとあって町の独身女性たちがキャーキャー騒いでおります。



 まあ私としては腕の良い冒険者がいてくれると、町も平和で助かる(収入は減りますが)のですが――


「ジェラ殿……今日も美しい。そこな店でお茶でも如何ですかな?」


 ――事あるごとに私を口説くのはやめて欲しいものです。



 そして決まって私とルバートさんの間に影が割って入るのです。



「義姉さんに近づくな!」

「出たなシスコン神父!」



 ガルルルゥゥゥっとお互い威嚇し合う姿は、2人ともまるで大きな小型犬みたいです。


 ……あんまり可愛いくはありません。


 やっぱり生意気でも孤児院の子供たちの方が可愛いです。



「義姉さん。僕は可愛いさを競うつもりはないよ?」



 だいたいルバートさんも私みたいな年増ではなく、若くて可愛い娘を口説けばいいのではありませんか?


 花屋のサラちゃんなんて愛嬌あっていいと思うのですが。



「彼女はまだ十六歳と聞き及んでおりまする。さすがの私も娘ほど歳の違う娘に手を出すのは……」



 ルバートさんの守備範囲外でしたか。

 ならウェインの方でも……



「僕も義姉さんの1つ下だよ。彼女とは2回りも歳が違うじゃないか」



 いいじゃないですか、年の差なんて。

 サラちゃんっていつもウェインの前で顔を赤くしてもじもじしてるから絶対にあなたに気があるはずです。


 私ってこういうのに鋭いから間違いないと思いますよ?



「ぜんぜん鋭くないよね。あの百合女は僕じゃなくて義姉さん狙いなんだよ」



 何を言っているの?

 私もサラちゃんも女よ?

 そんなわけないでしょう。



「そ、それに僕には、す、す、すき、な人が……」



 うーん……

 サラちゃんはこの町のアイドル。

 かなり可愛いのに選り好みが激しいですね。



「選り好みじゃなくて、既に選んでるんだけど!?」

「くっくっくっ、ヘタレでは私の恋敵は務まらんな」

「お前は義姉さんに歯牙にもかけられてないだろ!」

「気持ちに気づいてもらえぬお主よりはマシだろ?」



 この二人はどうして顔を合わせるといがみ合うのでしょうか?


 もう少し仲良くして欲しいものです。

 まあ私も他人(ひと)のことを言えたものではありませんでしたね。



 私も令嬢時代にはあの娘(・・・)と争っていたのですから……


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