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5. 悪役令嬢は四十歳です③

 

「と、とにかく、義姉(ねえ)さんは獣どもを虜にするくらい魅了的なんだよ!」



 最初はあんなに反抗的だったのに……

 どうしてウェインはこれほど身内贔屓になってしまったのでしょう?


 まあ、ウェインの話が真実であっても、私は孤児院の子供たちのハート以外はいりませんが……





「けっこうな数の魔獣が押し寄せているみたいだね」



 戦場に到着してみれば、冒険者や自警団の方々が既に戦端を開いていました。

 どちらも軍隊ではありませんから陣形無視の乱戦状態です。



「これは魔獣の集団暴走(スタンピード)みたいだね」



 人側が押され気味です。



「これだけの数が恐慌状態で向かってくるから、こんな田舎町の戦力では対応できないみたいだ」



 戦線を抜かれて町へ魔獣が侵入しては一大事です。

 まずは魔獣の暴走を止めましょう。


 今の魔獣は恐慌状態なのですから、その精神を安定させれば暴走状態が収まるはずです。そして、私は五属性の魔法以外に精神に働きかける闇の神聖魔法の使い手なのです。


 私は闇の神聖力との親和力を高め、膨大な神聖力を集めました。

 使用するのは闇の神聖術『魂の揺り籠(アムベルソー)』です。


 神聖力が戦場全体を覆うと目を血走らせていた魔獣たちが暴走を止め、今度はきょろきょろし始めました。



「戦場全体に神聖術かけてるよ……相変わらず義姉(ねえ)さんが規格外すぎる」



 何やらウェインがぶつぶつ言っていますが、無視です無視。

 今はお肉を持って帰ることが優先なのです。


 孤児院の欠食優良児たちがお腹を空かせて待っています!

 彼らの食欲を満たすためにも魔獣をいっぱい倒しますよ!



「血まみれシスターと狂犬神父がきたぞォォォ!!」

「やべぇ巻き込まれる!」

「退避ィィィ! 退避ィィィィイ!!」



 なんでしょうか……

 魔獣よりまるで私の方が災厄みたいです。



 やはり尼僧が血のこびりついて黒ずんだモーニングスターを振り回しているのが異様だったのでしょうか?


「それこそ今さらだろ?」


 ウェインだって神父姿で使い込まれたメイスを抱えているじゃないですか。



「お前ら何をそんなに騒いでんだ?」

「ただの神父と修道女じゃねぇか」


 あら、見ない顔ですね。



「お前らは来たばかりだから何も知らねぇんだよ!」

「あれはヤバいんだって!」



 古参たちが何か騒いでますが、私は敬虔なシスターですよ?

 何を恐れることがありましょうか。



「ああ? 神父はただの優男じゃねぇか」

「シスターの方はすっげぇ美人だけどな」


 ふふふ、この新顔たちはなかなか見る目があります――


「ちょっと(とう)が立ってるけど」


 ――んですってぇぇぇ!



「落ち着いて。義姉(ねえ)さんはじゅうぶん若々しいから」


 身内贔屓の評価は知りません!

 もはやこの怒りは魔獣どもにぶつけるしか!


「魔獣が可哀想になってきたよ」



 手に持つモーニングスターをブンブン振り回して息巻いたら、ウェインが諦め半分、呆れ半分なため息をついてます。



 ですが、私はお肉になりそうな魔獣を探すのに忙しいのです。

 ウェインの相手をしている暇はありません。



 私は近くにいた牛ほどもある甲虫型の魔獣をモーニングスターで叩き潰し、次の獲物を求めて彷徨い歩く。


 今の甲虫型魔獣はこの周辺で一番の硬度を誇るので、普通なら私の非力な力で魔獣を一撃粉砕などできるはずもありません。


 ですが、そこは魔法の力。

 金属性で鉄球を硬化させ、土属性で重量を増したのです。


 少し離れたところにいる魔獣(おにく)は、他の冒険者に横取りされる前に木属性魔法で起こした風や雷で(ほふ)ります!


 風で周囲を切り裂き、雷撃が幾頭もの魔獣を貫通していきます。


 私は一匹たりとも譲りませんよ!


「そんなだから義姉(ねえ)さんの魔法に巻き込まれる冒険者が出て災厄扱いされるんだよ」



 すぐ後ろからウェインの呆れ声が聞こえてきましたが、何でそんなに近くで戦っているんでしょう?



「くっ! またあの神父が邪魔しやがった」

「み、見えそうで見えねぇ~」

「もう少しで裂け目から足が……」

「俺はもう揺れる双丘を拝めるだけでいいや」



 何でしょうか?

 一部の冒険者がこちらを見ていますが、あれでは獲物(おにく)を得られないでしょうに。



「あいつらは無視していいよ。僕が壁になっているから」



 壁?

 何かウェインと彼らの間に見えない攻防があるみたいです。


 私はよく分からず首を傾げましたが、今はそのような些事(さじ)にかかずらわっている時間はありません。


 全属性の魔法を駆使して魔獣(おにく)を確保せねば!



義姉(ねえ)さん1人で半数くらい討伐しそうな勢いだよ」


 足りません!

 倍プッシュです!


 ウェインも私の後ろにいないで前に出なさい!



「僕は義姉(ねえ)さんの壁になるのに忙しい」


 全く使えません。



「本当に義姉(ねえ)さんは今の方が生き生きしてるよね」


 そうでしょうか?


「昔の……令嬢時代よりもずっと……今の方が、その……きらきらしてて……綺麗だよ」



 よく義姉(あね)にこんな恥かしいセリフを言えたものです。

 まあ、ウェインは銀髪の美男子だからキザなセリフも様になるのですが……



義姉(ねえ)さんには僕がそんな風に映っているんだ」



 えっと、どうして期待する様なきらきらしい瞳を向けてくるのです?

 せっかくのイケメンが尻尾を振るワンコにしか見えなくなりますよ。


 今はメイス振るっていますが。

 なんなら血まみれワンコですが。



 それに、ウェインは確かに恰好いいですが、自分のセリフで赤面して悶えていたら全部台無しですよ?



「……」



 途端にシュンとすると今度は怒られたワンコみたいです。

 まあ、そう言うところも可愛いですが。



 ですが、ウェインは貴公子然としたいい男なのですから、今度から歯が浮くセリフは堂々と言い放った方がいいですよ?


「うぅぅ……義姉(ねえ)さん、もう忘れてくれ」



 さて、あらかた魔獣は討伐できましたね……って


 なんですか?

 新顔の冒険者たちはドン引き、古参達は遠い目になっているのですけど……



「なんなんだあれは!?」

「ホントに尼さんなんか?」

「つーか、聖職者があんな血まみれでいいのか?」

「殺生しまくりじゃねぇか!?」



 知りません。

 孤児院の子供たちに貢物(おにく)を献上するという崇高な使命の前には全て些事(さじ)です。




 さあ、これからギルドへ行ってワクワクウイキウキ換金タイムです!


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