4. 悪役令嬢はまだまだ子供です②
この日から、私はウェインを立派な貴族令息とすべく厳しく教育しました。
彼もバークレイ家の一員となったのですから、どこに出しても恥ずかしくないようにしなくてはなりません。
今日は魔法の修練です。
戦となれば先陣を切るのが貴族の務めなのです。
「人はそれぞれ認められた精霊の属性の魔法が使えます」
この世には魔力があります。
それは木・火・土・金・水の五つの根元要素に宿る精霊が内包しているのです。
その魔力を人が魔法として使用するには、精霊にお願いしなければいけません。
ですが、精霊は誰かれ構わず魔力の使用を許すわけではありません。
精霊は己の認めた者にだけ魔力を提供してくれるのです。
木に認められれば木の魔法を、火に認められれば火の魔法を、というように人は自分の認めてくれた属性の魔法だけを使用できるようになるのです。
「ですがそれだけでは魔力の親和性が上がるわけではありません」
しかし、認められても貰い受ける量と質は、その精霊との親和性が高くないといけません。
「じゃあどうしたらいいのさ」
「ではいかがすれば宜しいのでしょうかお義姉様、でしょ?」
「ふん!」
なんとも可愛いくない態度です。
容姿はこんなにも可愛いのに……
「簡単に説明すれば、精霊と相性が良ければその精霊の属性魔法が使用でき、精霊と親密度が高ければ多くの魔力を与えてくれるのです」
この相性と親密度を総じて親和性と呼びます。
これは光と闇の聖霊との親和性も同様です。
では、相性の良い精霊からより大きな魔力を貰い受けるにはどうすればよいか?
「私たちは精霊から魔力を貰う立場で、彼らは人間の上位存在なのです。彼らに感謝と敬意を持って接すればよいのです」
「精霊なんてただの魔力の塊だろ?」
「精霊にも聖霊にも意志があります。私はそれを強く感じ、それを理解しているからこそ強い魔法を行使できるのです」
その説明にウェインは胡乱げな目になりました。
「お前が強い魔法を?」
「少なくともあなたよりは……ね」
「僕は火・土・水の三属性持ちだぞ!」
そう嘯くウェインの目の前で、私は五属性全ての魔法を披露して見せると、彼は目を大きく見開いてアワアワしました。
――くすっ、ちょっと可愛い。
「う、うそだろ……全属性持ち!?」
「プラス闇の神聖魔法も使えます」
「そんな!」
ウェインが驚くのも無理ありません。
通常、精霊との親和性を持つ者は、聖霊との親和性を持たないのです。
つまり精霊魔法と神聖魔法の両方を使える私は世界でも稀有な存在なのです。
「す、凄い!」
ウェインの私を見る目が畏敬に変わっていますね。
こんな可愛い義弟に尊敬されるのは悪くない気分です。
「ですが属性の数だけでは意味がありませんよ」
「どんなにたくさん属性を持っていても、使用できる魔法が弱ければ使えないのと同じ……だから親和性を高める必要があるんだね」
「ウェインは飲み込みが早いわ」
良くできましたとウェインの頭を撫でると、彼は少し頬を上気させ子供扱いするなと口を尖らせました。
もっとも、私の手を払いもせず撫でられるのを受け入れているウェインはちょっとはにかんでいる様子です。
――なんです、この可愛い生き物は!?
い、いけません。
澄まし顔が崩壊しそうでした。
義姉としての威厳を失ってはいけません。
「コホン……精霊や聖霊にも相手に対する好悪があります。ウェインだってぞんざいな振る舞いをする者より、敬ってくれる相手の方に手を貸したくなるでしょう?」
「う、うん……」
精霊・聖霊と魔法師の関係はちょうど貴族と平民の関係のようなものです。
「平民が私たち貴族に感謝と敬意を持って仕えてくれます。それに応えるため私たち貴族は、怠惰で愚かな民を庇護し、導く責務を負うのです」
こんな可愛い義弟にきついことを言わねばならないのは心苦しいです――
「そのために私たち貴族は無力であることが罪です。そして、貴族としての力は様々です。武力、魔法、知識、儀礼……学ぶべきことはたくさんあります。私の言うことを良く聞いて、一所懸命に励みなさい」
「わ、分かったよ」
「お義姉様、分かりました、でしょ?」
――ですが、お義母様と義弟がバークレイ家に仕える者たちや派閥の下位貴族たちに舐められ肩身が狭い思いをしないためにも必要な教育と指導なのです。
こうして私はバークレイ家の品位を落とさぬようにお義母様と義弟に辛く厳しく接したのでした。
必ずウェインを立派な令息に育て上げます。
例え私が二人に憎まれようとも、嫌われようとも……
なんですか?
何故みんなそんな微笑ましいものでも見るような目で私を見るのです?
いつも誤字報告ありがとうございます(∩´∀`)∩
大変助かっております(*´ω`*)
今後ともよろしくお願いします(≧▽≦)