26. 悪役令嬢は四十歳です⑯
町で一泊されたお父様とお義母様は早朝に出立するとのことで、私とウェインはお二人をお見送りをしました。
「王妃殿下より聞いたと思うが、ジェラミナの罪は許された……」
お父様の大きな手が優しく私の頬を包みました。
「だから……バークレイ家はいつでもお前に扉を開けて待っているよ」
「バークレイ家もあなたの家なのよ。何かあれば遠慮しないで帰っていらっしゃい」
ありがとうございます……
私はお父様とお義母様と抱擁を交わしました。
お二人は私にとても優しい笑顔を見せてくださいました。
そして、お二人はウェインの方を向くと同じように優しい……って、あれ?
なんだかお二人の表情が豹変しております。
なんでしょうか?
厳しいと言うか、怒りとも違う……なんだか呆れ含んだような複雑な表情……
「ウェイン……お前はいつまでうだうだしているんだ」
「まったくこの子は……どうしてこんなにヘタレなのかしら」
どうしてでしょう?
ウェインへのお二人の当たりがきついです。
お二人に責められてウェインも目が物凄い勢いで泳ぎ始めてます。
「貴族の地位も騎士の夢も全て捨てジェラミナの後を追ったその覚悟に感服したのだが……」
「本当にねぇ……私たちに啖呵を切って家を飛び出したの時には、我が子ながらちょっと格好いいって思ったのに」
お二人が揃ってはぁぁぁあ、と大きなため息を漏らしました。
いったいウェインの何が問題なのでしょう?
私みたいな義姉も尊重してくれる優しくて素敵な義弟なのですが。
「ぼ、僕だって頑張っているんだ」
「その割に仲がぜんぜん進展していないようだが?」
仲が進展していない?
ウェインには誰か想い人がいるのでしょうか?
あっ、いまチクリと胸に痛みが……
「そ、それは……なかなか気づいてもらえなくて……」
「お前は格好つけすぎなんだ」
「もうストレートに告白なさい」
告白?
誰に?
「ちゃ、ちゃんとするさ」
「本当にするんだな」
「直前でまた日和らないわね?」
ウェインが……告白?
なんでしょうか?
胸がすごく苦しいです。
私は呼吸器疾患にでも罹患したのでしょうか?
「色々あって今度こそ覚悟を決めた」
「本当に本当だな?」
「女性は待たせるものではないわよ」
ウェインは強くて、優しくて、顔も良くて……本当に……本当に良い子です。
だから告白すれば相手もきっと頷いてくれるでしょう。
なんの問題もありません。
ですがどうしてでしょう。
可愛い義弟が幸せになるなら喜ばしいことのはずなのに。
それなのに私の胸が黒いモヤモヤで埋め尽くされています。
素直に他人の……義弟の幸せを喜べないなんて……
私……本当にダメな女です……
王妃殿下エリス・ゼレーゼ様の仰る通り、やはり私は悪役令嬢なのでしょう……




