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19. 悪役令嬢はお年頃です⑦

 


「ジェラミナ・バークレイ!」



 怒りのこもったアルベルト殿下の声。

 もっとも内心は手を叩いて喜んでいることでしょう。



「今日この時をもって貴様との婚約を破棄する!」



 予想していた内容というのもあるでしょうが、今の私にはどうでもいいことでした。



「理由は言わずともわかっていよう。聖女エリスの殺害未遂……決して罪は軽いと思うなよ」



 そう、私はエリス様と……最愛の義弟(おとうと)を殺しかけたのですから……


 自分がウェインを殺しかけた事実に、そのことへの罪悪感とそれを成した自分への嫌悪感と、何よりウェインが死にかけた恐怖に、後悔と自責の念だけが私を支配し、思考が停止していたのです。



「しばらく謹慎して頭を冷やすのだな」



 その言葉に顔を上げた私の目に、アルベルト殿下の私を見る冷ややかな目と側近たちの薄ら笑い、そして何かに耐えるように唇を噛み厳しい表情で私を見つめるエリス様の強い眼差しが入ってきました。



「……はい」



 ですが私には自分のことなどどうでもよく、ノロノロと夢遊病患者の如く歩き去り、そのまま屋敷に引きこもったのでした。



「ウェイン……ごめんなさい……どうか無事で……」



 あの後、ウェインの容態を知らされておらず、重傷を負ったあの子のことが頭から離れず、私は自室に籠ってただ謝罪と無事を祈るばかりでした。




 そして、数日後……



「久しいなジェラミナ」



 寝台で膝を抱えて顔を埋めていた私に掛けられた声に顔を上げれば、そこには険しい顔をしたお父様が立っていました。



「お前がそんなに覇気のない顔をするとはな」

「お父様……ウェインが……」



 その場で私はボロボロと涙を流しましたが、お父様はそんな私を冷ややかに見下ろし微動だにしませんでした。



「ウェインならエリス嬢の神聖術で一命を取りとめた」

「本当ですか!」

「ああ、それどころか完全に完治している。さすが聖女として認められた娘だ」

「ああ……良かった……」

「何も良くはない」



 ウェインの無事に歓喜しているところにかけられたのは、低いけれども身体を震わせる、それはまるで冷水でも浴びせられたようなお父様の声。



「お前は自分が何をしたのか分かっているのか?」

「あ……それは……」



 私は魔力を暴走させウェインとエリス様の二人を殺し掛けてしまいました。特にエリス様は聖女に認定された令嬢です。その罪は決して軽いものではありません。



 おそらく私は……



「バークレイ家は伯爵位へ降爵されることになった」

「そ、そんな!?」

「ジェラミナ……お前を勘当しガルゼバへ追放処分とする」

「お、お待ちくださいお父様!」


 その処分はあまりに……


「いっそのこと貴族として自裁をお認めください!」

「ならん!」


 お父様の怒声に私はビクリと体を震わせ涙目で見上げましたが、お父様はグッと唇を噛み締め厳しい表情を崩しませんでした。


「貴族の名誉を守る自決は絶対に認めない。お前の貴族籍は剥奪され平民となる」

「……承知…致しました」

「いいな……絶対に自害は認めないからな」



 そう言い残して出て行ったお父様とはそれっきりお会いすることはありませんでした。



 そして更に数日後、私は栄えある侯爵令嬢ジェラミナ・バークレイからただの平民ジェラミナとなってガルゼバへと送られたのでした……


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