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18. 悪役令嬢はお年頃です⑥

 

 エリス様とウェインの二人が仲睦まじく会っているところを頻繁に目撃されるようになりました。


 ウェインとは喧嘩別れしたままでしたし、エリス様の件も問い質したかったのですが、学園では何故かすれ違いばかりで会えず、しかもあの子は女子禁制の寮に入っており不思議と全く会えなかったのです。



「あなたはウェインをどうするおつもりなの!?」

「落ち着いてくださいジェラミナ様」



 逆にエリス様とはすんなり遭遇してしまうのですが、その顔を見るたびに彼女へ向けられるウェインの笑顔が頭に浮かび上がりました。


 そして、胸がきゅーっと締め付けられ、身体の内側からふつふつと湧き上がる何とも言えない激情に支配されてしまうのです。



「私はウェイン君とそんな関係では……」

「ではやはりウェインを弄んでいるのね!」



 あの子は貴族にしては純粋過ぎる。

 それをいいことに誑かすなんて!



「ち、違います!」

「ではどうしてアルベルト殿下に飽き足らずウェインにまで近づくのです!」



 殿下なんてどうでもいい!

 あんなの欲しければくれてやる!


 だけど……だけど……ウェインだけは絶対に……



「話を聞いてください。私はレオルド殿下とウェイン君で……」

「やっぱりあなたはレオルド殿下にも!」

「そうではありません。私たちは……」

「そこで何をしている!!」



 エリス様と言い争っていると決まってやってくるのがアルベルト殿下たちです。



「エリスに近づくなと言ったはずだ!」

「私もエリス様に関わるなと申し上げたはずですが!」




「ふん……行くぞエリス」

「あ、でも……」



 エリス様は私に何か言いたそうにしておりましたが、殿下に引き摺られるようにして私の前から退散されました。


 それからもウェインとはすれ違う、エリス様とはいがみ合う日々が続きました。


 もっとも意固地になった私が一方的にエリス様を詰り、何かを伝えようとするエリス様を拒絶していただけなのですが。


 私もアルベルト殿下のことを言えませんね。


 ですがエリス様と対面すると、どうしてもお腹の底から這い上がるような黒い怒りが全身を巡り、私は冷静ではいられなかったのです。



 そんな折に事件が起きてしまいました。



「大変です!」

「セシーリア様が婚約破棄され謹慎処分に!」



 教室で談笑していた私たちの元に飛び込んできた寝耳に水の事件。


 アルベルト殿下の側近の一人と婚約中のセシーリア様が公然と婚約解消(・・)ではなく婚約破棄(・・)された上に殿下より一方的に謹慎処分を申し付けられたのです。



「何という横暴!」

「これも全てエリス様の差し金ですわ」



 いきりたつ令嬢たちとは対照的に私は静かに席を立ち教室を後にしました。


 私は一見すると冷静な様子だったと思いますが、その内部はマグマのように煮えたぎり頭に血が上った状態でした。


 そんな状態でエリス様と会えばどうなるか……



「いったいセシーリア様に何をなさったにです!?」



 階段を降りる途中の踊り場でエリス様とばったり出会った私は彼女に食ってかかりました。



「セシーリア様とはちゃんと話を……ジェラミナ様もお願いですから私の話を聞いてください」

「お黙り!」



 この時、どうして私はこんなにも冷静ではいられなかったのでしょう?



「口先で人を(あざむ)き陥れようとする恥知らず!」

「これには訳が……」

義姉(ねえ)さん!」



 そこへ突然ウェインが現れエリス様を庇うように私の前に立ちはだかったのです。


 いえ、本当は私の前に立っただけ……だけど私にはウェインが彼女を守ろうとしたよう見えたのです。そう思い込もうとしてしまったのかもしれません。



「ウェインはその泥棒猫を庇うのですか!」

「違う義姉さん!」

「そんなにもその女がいいのですか!?」

「義姉さん話を聞いてくれ」

「嫌! 聞きたくありません!」



 ウェインが彼女を選んだ……そう思っただけで、もう思考も感情も滅茶苦茶でした。

 ただただエリス様への憎しみに理性を失っていたのです。



「落ち着いて」

「痛ッ!」



 耳を塞ぎ拒絶する私の肩をウェインが掴みました。



「ダメよウェイン君!」



 そのウェインの腕にエリス様が手をかけたのを見て、私の全身の血液が逆流し目の前の光景が全て赤いような暗くなったような、私はそんな視野狭窄に陥ってしまいました。


 おそらくエリス様は痛がる私のためにウェインを止めようとしたのでしょう。


 ですが、この時の私にそれを考える余裕はなかったのです。ウェインの腕にエリス様が手をかけたその事実に私の中の何かが壊れてしまったのです。



「うわあぁぁぁぁぁあ!!!」



 自分でも信じられない絶叫が私の喉の奥から吐き出され、私の感情は爆発しました。


 この時、まずいことに私の親和性の高さが仇となり、私の狂った感情に周囲の精霊たちの魔力も暴走してしまったのでした。



「うわっ!」

「きゃあああああ!」



 その余波でウェインとエリス様は踊り場から吹き飛ばされ落ちていく光景を私は呆然と眺めました。


 実際には一瞬の出来事でしたが、私にはゆっくりと、とてもゆっくりと二人が落ちていくように見えたのです。


 そして……



 どさ、ぐしゃりと落ちた二人を見て私は青ざめました。

 エリス様を庇ったウェインが下敷きになっていたからです。



「いやぁぁぁあ!!!」



 私は階段を駆け下りウェインを抱き起こしましたが、彼はぐったりとして気を失っていました。



「ウェイン! ウェイン! ウェイン!」



 狂ったように名を叫んでも、ウェインは目を開けてくれません。それどころか床がウェインの血で染まっていくのです。



「お願いウェイン目を開けて!」



 私は何ということをしてしまったの!



「誰か……誰か……ウェインを助けて!」



 私の目から涙が溢れ、視界がぐしゃぐしゃになりながら、私は祈るしかできませんでした。




 ああ、神様、どうかウェインをお救いください。


 どうか……どうか……


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