17. 悪役令嬢はお年頃です⑤
私とアルベルト殿下の間に取り交わされた約束。
令息たちはエリス様につき纏わず婚約者を蔑ろにしない。
令嬢たちはエリス様へ行っている嫌がらせを止めること。
それは始めから意味をなさないものでした。
当たり前です。
殿下ご自身が守っていないのですから、他の令息たちが約束に従うはずもありません。
そうなるとセシーリア様を始め彼らの婚約者である令嬢たちが大人しくするわけもなく、しかし令嬢と家の立場から直接婚約者を詰ることができないので、矛先はエリス様へ向かいました。
私としては自身を貶める真似は控えるよう令嬢たちに言い含めましたが、それも令息たちのエリス様への干渉を抑えるとのアルベルト殿下が約束されたから自重するよう促したものです。その約束が守られない状況で令嬢たちが私に従うはずもありません。
この状況に腹を据えかねたのは他ならぬ元凶のアルベルト殿下でした。
「ジェラミナ!」
最近ではアルベルト殿下の怒声で名前を呼ばれるのも珍しくなくなりました。
「未だにエリスへのイジメが続いているではないか!」
「令息の件を棚上げにされて私を責めるのですか?」
殿下との約束が履行されていないと私の信用が失われており、むしろ私の方が被害を受けているのです。
「以前にお話ししましたように、婚約者を蔑ろにする令息たちの振る舞いを是正しなければ、この問題は解決しません」
「私が悪いと言いたいのか?」
私の非難に殿下はむっとして睨んできましたが、私も腹に据えかねているのです。
「約束が守られなかったのです。私の信用は落ち、もはや私の言うことなど聞いてくれるはずもありません」
「使えんな!」
チッと舌打ちされるアルベルト殿下に、むしろ私が舌打ちしたくなりました。
「もうよい。お前など頼らん!」
「……左様でございますか」
「とにかくエリスには二度と近づくなよ!」
「殿下たちこそ!」
そして、私とアルベルト殿下の仲も修復不可能となってしまいました。
その後、殿下を筆頭に令息たちがエリス様に以前に増してへばりつき、令嬢たちを牽制、酷い時には攻撃を加えてきました。
おかげで令息たちと令嬢たちの間には一触即発の空気が流れています。
結局はアルベルト殿下が場を引っ掻き回して、学園はより一層に混沌と化してしまったのです。
この王子様はどこまでボンクラなのでしょうか?
いっそのこと、豪華に飾ってリボンをつけてエリス様に引き取ってもらいたい気分です。
おそらく殿下の方も似たようなことを考えていらっしゃるでしょう。
殿下は四属性持ちがご自慢なので、その上をいく全属性持ちで闇の神聖術まで使える私を疎ましく思っていらっしゃいますから。
それに常々、闇の神聖術を悪しきものだとイメージを気にしておりました。
だから殿下は私の代わりに光の聖女となるエリス様を妃として迎えたいのです。あの方のお考えなど手に取るように分かります。
光も闇も神聖力であり善いも悪いもないというのに。光と闇は言うなれば昼と夜と同じ。どちらも世界に必要なものなのです。
殿下も側近たちはっきりと申しまして底が浅すぎるのです。
なまじっか学業の成績が良いので、自分たちは優秀だと驕っているのも非常によろしくありません。
きっと頭の中にお花畑を耕していらっしゃるのでしょう。
さぞや見事なお花が咲いているのではないでしょうか。
おそらく今の殿下のお考えは、エリス様と既成事実を作り私との婚約を解消したいというものでしょう。
正直に申しましてアルベルト殿下との婚約など私にはどうでもいいのです。
王家との婚約解消となれば、私の令嬢としての価値は地に落ちてしまいます。結婚は絶望的でしょう。誰も王家に睨まれてまで私を望んだりはしないでしょうから。
しかし、結婚が絶望的となっても私には誰にも勝る魔法があります。この力をもって領民に、家族に、そしてバークレイ家に尽くすことができます。
バークレイ家の後継ぎに関しては既にお義母様が次男のエリックを授かっておりますので何の支障もありません。
ああ、エリック……可愛い異母弟。
生まれたあの子を腕に抱いた時の感動は今でも忘れません。
ちっちゃくて可愛くて、笑うと可愛くて、天使のように可愛くて、ねえたまねえたまと舌ったらずに私を呼ぶのが可愛くて、とにかく可愛くて。
しばらく会えていませんが、今年で五歳のはずです。
アルベルト殿下なんて知りません。婚約解消したら領地に引っ込んでエリックに尽くしましょう。
ふふふ……アルベルト殿下のせいで腐っていた気分もエリックの超絶可愛い顔を思い浮かべただけで晴れました。
マジ天使です!
こうして私は婚約解消後の薔薇色人生に思いを馳せてウキウキしていたのですが、しかし、その気分に冷水を浴びせられる出来事が起きてしまいました。
「相変わらずエリス様はアルベルト殿下たちを侍らせているみたいよ」
「本当にはしたない方ですこと」
「最近ではレオルド殿下にも近づいているとか」
「第二王子のレオルド殿下にもですか?」
エリス様は教会より正式に聖女として認定を受け、安易に彼女を攻撃できなくなった令嬢たちはエリス様を避け、陰口で鬱憤を晴らしています。
その内容は私の耳にも入ってくるのですが、はっきり言ってどうでもいいです。アルベルト殿下から婚約解消された方がバークレイ家にとってはいいような気がします。
「取っ替え引っ替えね」
「まあアルベルト殿下があれですから、レオルド殿下に乗り換えようとなさっているのではなくて?」
アルベルト殿下の弟君であらせられるレオルド殿下はとても聡明な方です。
「エリス様の影響でアルベルト殿下はおかしくなってしまわれましたから」
「次の王太子はレオルド殿下で決まりではないかしら?」
このように、エリス様のせいでおかしくなったアルベルト殿下よりレオルド殿下を次の王位にと考える者が少なくないほどです。
「ですが、そのレオルド殿下にまでエリス様の毒牙が……」
「レオルド殿下までもおかしくならないか心配ですわ」
まあ、アルベルト殿下は別にエリス様のせいでおかしくなったのではなく、元からある問題が表面化しただけではないかと思いますが。
「そう言えばエリス様は他にもウェイン様と懇意になさっているそうよ」
「天才騎士と評判の?」
「二人が逢い引きなさっているところをよく見かけるとか」
「ええ、私も現場を見ましたわ」
なんですって!?
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