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16. 悪役令嬢は四十歳です⑩

 

 その後、最愛の母の眠る地だからと、ミーシアさんはこの町に移住してきました。



 彼女は寡婦でかなりの美人さんがやってきたと、この町の男どもは騒然となりました。

 まったく仕方のない人たちです。



 まあ、ミーシアさんは儚げな薄幸の美女ですから、男なら庇護欲が無尽蔵に湧いてくるのは無理もないのかもしれません。



 決して私は彼女を僻んでなんていませんよ?

 私の時とは大違いなんて思っていませんよ?



 もっとも、肉親を喪ったばかりの彼女にアプローチをかけられず男共が手をこまねいて遠巻きにしている隙にルバートさんに掻っ攫われてしまいましたが。


 初期からミーシアさんに関わっていたルバートさんは、彼女を不憫に思ったらしく何くれとなく世話を焼いていたら、お互いに絆されてしまったようです。


 軟派な印象のあるルバートさんですが、意外と真摯な方なのです。



義姉(ねえ)さんはアイツを過大評価しすぎだと思う」



 ミーシアさんと出会うまで私以外の女性を口説くような真似はしていませんでしたし、彼女にも下心なく誠実に手助けをしていました。どうやら彼も親を亡くしているらしく、ミーシアさんに同情的だったようです。



「何言ってんの。あいつは絶対に下心ありありのタラシだって!」



 ミーシアさんの方も病気の母を抱えて走り回ってくれたルバートさんに悪い感情はなく、この町に身寄りのない彼女にさりげなく手を差し伸べてくれるルバートさんに感謝と親愛の情を抱いていました。


 そんなルバートさんの同情心とミーシアさんの親愛の情が互いを想う愛情に変わるまでそれほど時間は必要ありませんでした。


 二人が出会ってから半年が経ち、来月ついに結婚すると報告を受けました。

 おめでたいことです。



「まあ、アイツが義姉(ねえ)さんに近づかなくなったのには清々したよ」



 そうですね。半年前まではあんなに熱烈にアプローチされていたのに……ちょっと寂しいです。



「義姉さんはあの男に迫られて嬉しかったの!?」



 女としては褒められたり、好きだと告白されたりするのはやっぱり嬉しいものですよね?



「も、も、も、もしかして義姉さんはアイツが、す、す、好きだったのか!?」



 私がルバートさんをですか?



 ……ないですね。



 特に彼に対してそんな恋愛感情は湧いてきません。


 ですが、おだてられて喜ばない女はいませんよ。ましてルバートさんのような美男子ならなおさらです。



 ふふふ……

 彼のアプローチを思い出すと嬉し恥ずかしですね。悪い気はしませんでした。


 私もまだまだ女としてイケてるのかしら?



 冗談めかして髪をかき上げる仕草でわざとらしくしなを作ってみたら……ウェインが顔を真っ赤にしてしまいました。


 確かに淑女としてはしたない仕草だったかもしれませんがもう私は貴族令嬢ではないのですからそんなに怒らなくても……



「お、怒ってるんじゃない!」


 では何でしょう?


「その……義姉さんのうなじが……白いうなじが……」




 なんだかウェインがもじもじとしながらゴニョゴニョ呟いて挙動不審なんですが……

 熱でもあるのかもしれません。


 大丈夫でしょうか?

 とても心配です。



 ちょっと熱を計ってみましょう……って、おでこコツンしたら顔が林檎みたいに真っ赤っかになって脱兎のごとく走り去ってしまいました。


 やはりすごい熱でした。



「あーあ、ウェイン神父って完全に拗らせてるよなぁ」


 やっぱり病気を拗らせていたのですね。


「あのヘタレは手の施しようがないわ。もうダメね」


 え!?

 そ、そんな……ウェインはもう手遅れなんですか!!??




「ねえジェラってわざとやってるのかしら?」

「いんや、これは分かってないんだよ」

「ジェラは鈍感だからなぁ」



 失礼ですね。

 私はそこまで鈍ちんじゃないですよ?



「ボクはウェイン神父が可哀想になってきたよ」

「まあヘタレな神父も悪いんだけど……」



 なんだかウェイン酷い言われようです。



「だっけど神父って隠してるつもりで周りにバレバレなくらい分かりやすいのに」

「あのシスコン神父の気持ちが分からないのはジェラだけだしな」



 この子たちは何を言っているの?

 私とウェインは30年以上の付き合いですよ。

 あなたたちよりウェインを理解していますよ。


 体調が悪いのですよね?

 我慢強いあの子があんなに苦しそうに……


 とても心配です。



「わたしはジェラの方が心配よ」

「ボクも……」



 私は何か子供たちを不安にさせる真似をしたでしょうか?


 小首を傾げる私のスカートをクイクイと引っ張られ下を見ればターニャがその小っちゃなお手々で裾を握っていました。


 そして私を見つめながらコテンと首を傾げたのです。


 ああ、この子はなんて可愛いのでしょう。


 やっぱりターニャが私の唯一の癒し――


「じぇら、だいじょーぶ?」


 ――5歳児にまで心配されてしまいました……くすん……



「この様子じゃウェイン神父が浮かばれる日は来ないんじゃない?」

「おれ涙が出てきちゃった」

「憐れよねぇウェイン神父」

「ジェラは魔性の女よねぇ」



 子供たちが何気に酷いです。

 私はそんなに他人の気持ちを察せない女でしょうか?


 ウェインが私の監視役としてついてきたのは名目で、本当は私を心配してだとはちゃんと気づいてますよ。


 あの子は義姉(あね)である私の事を純粋に心配してくれているのですよね?


 ちょっと義姉離れできずシスコン気味なのが心配ですが、とても優しい自慢の義弟(おとうと)です。



「……やっぱりぜんぜん分かってないよね?」

「ぼくはもう涙で前が見えないよ」

「ジェラは魔性じゃなかったわ……天然ボケボケ女ね」



 ウェインとは色々ありましたが、追放された時に一緒にいてくれたのは素直に嬉しかったです。



 もう、あの追放劇から二十年以上も経っているのですね……


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