15. 悪役令嬢は四十歳です⑨
カラァーーン
カラァーーン
カラァーーン
教会の鐘楼に吊るされた三つのカンパネルラが物悲しく打ち鳴らされました。
死者を偲ぶ悲しみに満ちた葬送の鐘が、町の中を重く響き渡っていきました。
通りを行きかう町の人たちはきっと思っていることでしょう。
いったい誰が亡くなったのかと……
この町の誰も彼も彼女を知らないのですから……
「今ここに、一人の女性が安らかな眠りにつきました……」
ウェインの口からララ―ナさんを送り出す祈りの言葉が紡がれています。
何故かミーシアさんはララーナさんをこの町に埋葬すると決めました。
棺に納められたララ―ナさんは本当に眠っているだけにしか見えませんでした。
その彼女の棺を私たちは町の墓地の一画に掘った葬穴に静かに下した後、告別を行っております。
この葬儀の参列者はミーシアの他にはウェイン、ルバートさん……そして私の三人。
だから、その棺に手向けられた献花は僅かに四本……
今、ララ―ナさんの霊の前に佇むのは、たったの四人だけでした。
なんとも静かで寂しい葬儀です。
しかも、私たち三人はララ―ナさんとほとんど会話をしたこともないのです。
当然のことです。
この町にはララーナさんの縁故はいないのですから。
私がララ―ナさんと交わした言葉はほんの僅かです。
それでも彼女の温かいひととなりは感じられました。
「……その女性は一人の子であり、一人の妻であり、そして一人の母でした……神の導きにより彼女は生まれた地を離れ、この地へ運び、この地で新たな縁が結ばれ、今まさにこの地でその御霊が天へ召されようとしております……」
慣れ親しんだ生地ではなく、ミーシアさん一人でララ―ナさんの親族も友人もいないのです。この彼女にとって縁も所縁も無い他所の地で、ひっそりと執り行われる葬儀に私の胸はキュッと締め付けられるように痛みました。
本当にこれで良かったのでしょうか?
「百人の参列者から贈られる花よりも、シスター・ジェラ……あなたから贈られる一輪の花の方がきっと母には嬉しいと思います」
ミーシアさんの言葉に顔を上げると、彼女は私をジッと見つめていました。
「百人の参列者から見送られるよりも、シスター・ジェラ……あなた一人に見送られる方がきっと母も喜ぶと思います」
そう言って私に笑いかけるミーシアさんは、変わらず儚げな美人さんです。
ですが、その顔には初めて出会った時の悲愴な翳はもうありませんでした。
「シスター・ジェラは母と私にそれほど大切なものをくださったのです」
ララーナさんと過ごしたのは一日にも満たないほんの僅かな時間でした。
彼女は突然あらわれ、瞬く間に消えてしまいました。
それは私の人生のほんの一瞬の出来事なのでしょう。
それでも……
きっと私は彼女を生涯忘れることはないでしょう……




