2人目(5)
鍛冶屋の真似事でもしているのか、リズムや強さ、角度を変えて素材を叩くジャン。
中には強く叩きすぎたのか、割れたり欠けたりするものもあった。
その結果を書き留めると、今度は素材同士をぶつけ合い始める。
まぁ、これなら少しは安全だろうか、うるさいけど。
しかし、そんな風に気を抜いていたら、だ。
とある亀みたいな魔獣の甲羅と、狼型の魔獣の牙をぶつけた時である。
牙が、ささくれだった甲羅に突き刺さると、軽い発光を発生させた。
と、同時に甲羅が破裂し、物凄い勢いで破片が飛んでくる。
俺はすんでのところで回避できたが、荷台や荷物には破片が突き刺さっていた。
「お前、何してんの!?」
「硬度試験だけど?」
「だけど? じゃない。って、お前、血だらけじゃねぇか!」
爆心地に居たのだから当たり前だ。
「予想してなかった結果だけど、至近距離でもこのくらいのダメージかー。ちょっと期待外れかなー」
回復魔法を自分にかけながら、また実験結果を書き留めている。
ちなみに攻撃魔法のみならず、そういった僧侶のような魔法も使えるのは、あまり多くはない。
この部隊でいうと、リック、ジャン、そして一応俺。
八分の三もいるとありがたみが薄れるけれど、戦略の幅も広がっているのは間違いない。
「何をしたらあんな爆発するみたいなことが起こるんだよ……」
「多分だけど、このケルベロスの牙がトリプルヒットするみたい。で、甲羅の衝撃吸収が追い付かなくなって一気にパーンってなったんじゃないかな?」
「ジャン、モウイチド」
と話し入ってきたのは、武闘家のクンである。
手の上に甲羅の破片をこんもり乗せて、巨体を丸めてジャンにお願いしている。
まさか、向かってくる破片を全部受け止めたっていうのか?
とんでもない反射神経だ。
クンは異民族の出で、言葉が少し怪しいが、知能はもっと怪しい。
何でも、狂戦士の加護を受けている家系らしく、理性と引き換えに強靭な力を手に入れているらしい。
そんなクンは、荷台の上で筋トレをひたすら行っていた。
格闘技やトレーニングに関してはスッと理解してくれるので、たまにコイツわざと馬鹿なふりをしているんじゃないだろうか? と疑っていたりもする、
「もう一度って、今の?」
「ソウ」
「やめとけやめとけ、荷物も危ないしジャンもまた怪我するだろ?」
「ダメ?」
「ダメ!」
「まぁ、素材ももう無いし、仕方ないね」
「ザンネン」
俺、クン、リックとジャン。
この四人が男メンバーで、宿屋では固まって寝ることも多い。
ある程度気ごころが知れた仲ではあるものの、何を考えているのかは誰一人として分からない。
「パァーーーーー!」
角笛の音が聞こえる。
敵襲だ。
「二人とも、備えろ!」
荷台から飛び降りて、音の方向を見る。
土煙を上げて、魔族の集団がこちらへ向かってきていた。
接敵はもう間もなくだろう。
「クンは前線へ、リッターと、リアと、一緒に、戦う! 分かった?」
「ワカッタ」
本当に分かったか分からないけれど、リアなりリッターなりがどうにかしてくれるだろう。
合流さえしてくれれば。
「ジャン、今のうちから数を減らすぞ!」
「いつでもいけるよ!」
「よし、合わせてくれ! 増加魔法!」
ジャンの目の前に、魔力で出来た透明な膜が張られる。
「極大雷鳴魔法!」
間髪入れずに、ジャンの唱えた魔法が膜を通り、巨大な稲妻が敵の集団へ飛んでいった。
これでどれだけ生き残るだろうか、後詰の後衛も動いているはずだし、俺も前線へ駆けていく。
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