2人目(4)
俺たちの目標は魔王城に近い最前線の拠点である。
近いとはいえ、馬で一日中駆けたとしても着くか着かないかの距離らしい。
当然、それ以降に国の拠点はなく、補給も受けられない。
攻略に手こずったとしても、支給品だの支援金だのはそこに届けられるそうで、最終的な拠点となるだろう。
とはいえ、三か月を経て未だ道半ば過ぎて六割ぐらいといったところ。
順調に行っても同じだけの時間が必要になるだろう。
合計して半年も戦線が持つのか、不安ではある。
こんなに時間がかかったのは道中、拠点の奪還だったり、魔獣の討伐なんかを行っていたせいでもあるが、今後さらに侵攻が激しくなるとするなら、さらに時間もかかる。
「よかったな、補給部隊の馬車に乗せてもらえて」
そう俺に話しかけてきた男の子は、魔法使いであるジャンである。
茶髪の短い髪の毛に、そばかす交じりの顔は幼さを感じさせるが、俺の二つ上の二十歳だ。
「このまま次の拠点まですんなり着ければ良いんだけどな」
「えー、縁起でもないこと言うなよ」
「油断大敵ってこと。馬車で行ってもあと三日はかかるんだ」
歳が近いこともあって、ジャンとは友達のように付き合っている。
特に問題の無い人柄に見えるが、その実、とんでもないサディストかつマッドサイエンティストで、禁忌
に触れる実験で国家の専属魔法部署から追放されていた。
今だって、怪しげな液体にサイコロ状の何かを混ぜ合わせては反応を記録している。
揺れる馬車だっていうのによくやるものだ。
「確かにね……お、これは良い反応だ」
小瓶やガラス瓶の中の反応が、自分のお気に召すものだったようでニコっと笑っている。
「ちなみに、今はどんな実験をしているんだ?」
「毒の実験だね」
「毒!?」
揺れて狭い荷台の中、コイツは毒を扱っていたっていうのか?
「そう、色んな魔族の色んな肉片を、色んな毒に触れさせているんだ。毒の耐性が有る無しを見たくてね」
「有益だとは思うけど、馬車の中じゃ危なすぎる」
「そんな強い毒じゃないから大丈夫じゃない? 薄めてあるし」
「毒の強弱は関係ないってーの」
「……そうなの? あ、ほらコレ見て? 小さい血管がギュッと縮まってるでしょ? これは普通の濃度なら血管ズタズタになっちゃうんじゃないかなぁ?」
「あーとにかく毒はやめてくれ、違う実験で頼むよ」
言われて渋々片付け始めるジャン。
コイツの実験は確かに有用なものもあるが、リスク管理がなっていないし、言っても聞かない節がある。
開発した薬や実験データによる敵の攻略なんかで恩恵は受けているものの、宿屋の階段を溶かしたり、平原を焼け野原にしたりとトラブルも多い。
「ちなみに、どんな実験なら良いの?」
「まず、火が出るものはダメ。毒みたいに周りに被害が出るのもダメ。あと、魔獣や魔族を引き寄せるようなものもダメ」
「よし、分かった!」
言ってすぐ、トランクの中から様々な魔獣や魔族の一部を並べ始めた。
さっきみたいに肉片が出てくるかと思ったが、角や爪、牙といった堅そうなものを出す。
よかった、ちょっとグロテスクだったから助かった。
そして、素材を並べ終えると、金づちで思い切りぶっ叩き始めた!
甲高い音が荷台に響き、一気に騒がしくなる。
くそ、ひと眠りしようと思ってたんだが……油断大敵って、身内にも使う言葉だったっけか?
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