2人目(2)
実を言えば、リックの性格破綻ぶりは嫌いではない。
自分に素直で強かで、頭が切れて何でも出来る。
その上、堀の深い顔にエメラルドグリーンの瞳、スラっとした鼻、誰がどう見てもイケメンの部類に入る人物だ。
それらに対して、憧れに近い感情がある。
自分がクズなのも相まって、気が合うことは少なくない。
今も、鍛冶屋の要件を終わらせたのち、真昼間だと言うのに酒を飲みながら談笑するという、ダメ人間タイムだ。
同席しているリアの目が痛いが気にしないことにする。
「いやいや、流石だなリック。鎧の下取りだの、素材の買い取りだので結局鍛冶代と新装備をチャラにするなんて」
「勇者の肩書があってこそだ」
オールバックの金髪を撫でながら、リックはそう答える。
「交渉は何処で身に着けたんだ? 教会で僧侶をやっているだけじゃ無理だろう?」
「確かに、私も気になるかも」
「教会ならでは、さ。施しをして当たり前、値切りなんてもっての外、なんて皆思っているだろう?」
眉をひそめながら、鼻で笑うリック。
なるほど、吹っ掛けられることも少なくないわけだ。
「そうか、いくら慈善事業といえども、予算には限りがあるしな」
「そういうこと」
「え? どういうこと?」
「いいかいリアちゃん、教会には住み込みの連中も含めて、そこそこの人数が居る。だから出入りの行商なんかが居るわけだよ。結構な量を仕入れるのだから、お得意さんのはずなんだがね、欲をかいて吹っ掛けようとする奴も居るわけだ」
「あー、そういうこと!」
「相場なら値切りはしないさ。けれど、アコギなセコイことをしようってなら話は別だ」
と、にやりと笑うニックに俺は素直な気持ちをぶつけた。
「てっきり、どんな業者でも値切っているのかと思ったけど」
「確かに、この旅では値切ってるな、常に。まぁ、それも仕方ないだろう? 予算が限られているなら酒や娯楽に少しでも回したいさ」
「ああ、そのことなんだけど……」
と言いかけると、途端に眉を顰めた。
「予算が……削られたのか?」
「やれやれ、切れ者だな、リックは。そう、その通りだよ」
「どのくらい?」
「まぁ、ざっくり半分に―――いや、半分以下だな」
「ったく、これだから国でふんぞり返ってソロバン叩いてるだけの奴は…………。詳しい内容を聞かせてくれるかい?」
このままリストラの話まで持っていっていいのか、思わず息をのむ。
リックをクビにはしないが、今の国への怒りがこちらに来ないか心配だった。
深呼吸を一つ。
ゆっくりとしっかりと話し始める。
リックは懐から取り出した羊皮紙に書き留めながら話を聞いていた。
「人員を半分、か……資材や金はともかく、戦力ダウンは困るな」
「あ、そうそう私はとりあえず、リストラになってる感じだよ」
「リアちゃんは良い子だね。俺なら大暴れしちまうが」
「で、リックはリストラ候補には挙がっていないから安心してくれ。暴れられても困るし」
「こりゃ光栄だ。じゃあ他の連中をクビにするってことか、目星は付けてるのか?」
「それが、まったく。リアの次の人員を報告するまでにひと月ほどある。その間に考えようと思っているよ」
「いっそ全員に言った方が楽な気もするがね。暴れるだろうけど」
魔王を倒す前に王様を倒そうとか言いかねない。
「だろ? なら、多少弱みに付け込んででも、部隊に居てもらうようにしたいんだ」
「おいおい、いいのか勇者様がそんなこと言って?」
「勇者かもしれないけど、聖人ではないよ」
「そりゃあ良い。で、弱みに付け込むのに、俺の力を借りたいってことなんだろ?」
「話が早くて助かる」
「分かった。なんだか面白そうだ、協力しよう」
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