2人目(16)
視界が開かれる。
魔力の塊が霧散した証拠だ。
安堵し、弛緩した状態で自由落下を味わっている。
すると、背後から轟音が鳴り響いた。
イレーツの砲撃だろう。
ああそうか、そんな指示を出したっけな。
呆けた頭でそんなことを考えていた。
「ブレイブ! 迎えに来たよ!」
船団を引き連れたイレーツの声がする。リックとリアも甲板上に居るのを確認した。
「このまま突っ込むけど、平気か?」
着地した俺に即座にリックが話しかける。
こうなれば否が応でも頭を回さなくてはならない。
「俺は平気だ。イレーツ、この船以外を前に出して、壁にしながら進んでくれ!」
「あいあいさー!」
「リックは念の為結界を」
「ああ」
「リア、俺に槍と剣、あと魔力回復薬も持ってきてくれ」
「ここにあるよ!」
味方を気にせず、本来の戦闘が出来るとあって、ハキハキと皆動いてくれる。
様々な攻撃が雨あられと降り注ぐが、頼もしい連中のおかげで恐怖は微塵も感じなかった。
「俺とリアが突っ込んで、一撃離脱。二人は後方からぶっ放してくれ。その後は四人で戦おう」
「私も後方から?」
「そうだ。合流後は前衛やってもらって構わない。前衛やってくれるなら、リッターが居ない以上、俺たち三人で壁役しながら数をとにかく減らす」
「ああ、暴れさせてもらうよ」
「至れり尽くせりで涙が出るね。ブレイブ、俺は攻撃より補助か?」
「それもある。本命は敵の後衛に対する囮。敵味方お構いなしにぶっ放されると避けづらいし、狙いやすいところがあった方がいいでしょ?」
「一番楽かと思ったら、一番しんどいところじゃねぇか!」
心底残念だったのか、珍しく声を張ってツッコむリック。
隙あらば楽しようとする姿勢は共感が持てる。
「世の中そんなうまい話は無いって話だよ、リックなら分かるだろ?」
「ちなみに拒否権は?」
「無いね」
「ま、せいぜい頑張らせてもらう」
「頼んだ! さて……そろそろ降りるぞ、手筈通りにね」
船から飛び降り、槍を構える。
慌てた様子でリアがおぶさってきた。
「行けるか?」
「うん!」
即座に突進を開始する。
一気にボスを目指すことはせずに、陣形の一角を削り取るように、突出した部分に突っ込んだ。
そのまま大きく弧を描きながら、二人の方向へ引き返す。
リックとイレーツの魔法とすれ違ったところで、地面に足をおろし、敵と正対した。
ここで敵を迎え撃ちつつ、二人の合流を待つとしよう。
「リア、ぶっ放せ」
「急ね!」
「いつもすみません」
「横? 縦?」
「出来れば横で」
「もーあんまり得意じゃないんだけど……グラウンドスイング!」
バカでかいスコップ……いや、魔力剣が地面をえぐりながらスイングする。
突然地面が爆発したようにしか見えないが、魔力を伴い、散弾のようになった地面が敵に襲い掛かった。
ド派手な技だが、視界が悪くなるんだよなぁ……、まぁ、指示したのは俺なんだけど。
などとダブスタクソ上司みたいな思考をしていているばかりではいられない。
「土魔法、アースウォール!」
さらに魔法でダメ押しをするとともに、簡易的な防御壁を作った。
「これで全滅してくれてるといいね」
「まぁ無理だろうな……魔力量は大丈夫か?」
「全然余裕」
「そりゃあ頼もしい。イレーツも来たみたいだし突っ込むか」
小さい船をスケボーみたいに滑らせながらイレーツが到着する。
本当に何でもありだな、この能力。
「待たせたね」
「アースウォール解除したら突っ込むぞ」
「ねぇ、ブレイブ、突っ込んだ後は?」
流石に行き当たりばったりを学習したのか、事前にリアが聞いてくる。
俺も先に言っておけばいいんだけれど、つい忘れてしまう。すまんな、リア。
「敵を減らすのを念頭にお願いします」
「じゃあまた横系の攻撃だね」
「そうなるな。周りを気にしなくていいから派手にやってくれ」
「了解!」
船に乗り込み、土煙が落ち着いてきた。
最後尾でほぼ倒れた状態で踏ん張る。
槍のジェット噴射をこの船にも利用するという算段だ。
さて、上手いこといってくれよ。