2人目(15)
機は熟したのか、敵の本陣からいよいよ魔法と物理、両方の遠距離攻撃が飛んでくる。
「敵も味方も関係なし、か」
ほぼ大勢は決したとはいえ、前線には魔族はまだ残っている。
様々な属性の魔法が人も魔族も飲み込んでいくのを眺めて、相手の恐ろしさを改めて感じた。
リックが作り出した結界の薄い膜のせいだろうか、他人事のような―――まるで映画でも見ているように残酷な光景を眺める。
「ブレイブ、デカいのが来るぞ」
リックの声に、自然と体が緊張した。
確かに、強力な魔力を感じる。十中八九、指揮官の攻撃だろう。
リックの結界から歩み出る。
自身を落ち着かせるように、焦らず、ゆっくりと。
そうすることで、恐れが和らぐような気がした。
近くに刺さっていた、誰のものとも分からぬ剣を引き抜く。
と、同時に前方より強大な魔力の塊が飛んできた。
炸裂すれば多大な被害が出るだろう。
勇者の加護―――それは対魔族に特化した能力だ。
魔の存在を否定するかのように、俺の魔力は魔族を蝕む。
傷口から流れ込めば衰弱し、回復魔法も効果が薄い。
とどめを刺せば、死体すら残らず霧散する。
前世のRPGゲームで敵を倒せば消えるのとそっくりだ。
そして、それは魔族の魔力に対しても効果を発揮する。
山かと思えるほど巨大な魔力の塊に、ちっぽけな剣を片手に飛び掛かった。
剣を媒介に、魔力を大きく広げ、壁を作り出す。
剣が軋み、刀身が蒸発していくのを眺めながら、魔力の塊を受け止めた。
俺の魔力が塊を溶かすように削っていく。
激突の瞬間は一瞬だっただろう。しかし、恐怖から永くゆっくりと時が流れた。
少しでも壁が途切れれば、あっという間に魔力の塊に飲み込まれ、いかに退魔の体質だとしても命を落としてもおかしくはない。
単純な物理攻撃にこの能力は通じないし、質量を伴った魔力の攻撃も不得手だ。
剣から展開された魔力の壁頼りとなるが、あいにくリックのように強力な防御ではない。
氷や土などの物体が混ざっていれば、容易に突き抜けていくだろう。
来るかも? 有るかも? と考えれば考えるほど、死へのイメージが増大していく。
早く終われ、早く終われと念じれば念じるほど、塊の進みは遅くなった。
震える体、こわばる顔……ああもう、いつになっても恐怖ってやつは慣れやしない!
―――逃げ出したい心をまとった体が暖かな光に包まれる。
リックか!
この感じは……身体能力向上の強化魔法と回復魔法。
それは、何よりも背中を支えて勇気づけたくれたのだった。
気付けば震えが止まっている。
剣を握る手に力が入り、魔力をさらに放出した。
敵の攻撃魔法を飲み込むかのように覆いかぶさり、次から次へと霧散させていく。
その時にはもう、悲観的な考えは一切頭の中にはなかった。
俺が止める。止められる。
使命感と自信を伴った気迫が、魔力の壁を更に厚く熱くしていった。