2人目(13)
槍に持ち替えて、広範囲の敵を相手取れるようになると、進軍スピードは加速した。
態勢を崩しさえすれば、リアが勝手に仕留めてくれる。
俺も負けじと倒していくが、リアの攻撃力には敵わない。
既に結構な数の敵を倒しているし、戦線も押し返しているように思える。
すると、リアから一つ提案された。
「ブレイブ、大技使っても良い!? 後ろまでぶった切る!」
「ああ、良い案だ。その前に、ちょっと上に飛んでくれ!」
まるで重力を感じさせないかのように、ふわりとジャンプしたリア。
それに合わせて槍を回転しながら横に薙ぐ。
魔力にまとわせ、リーチと破壊力を増した槍は竜巻のように敵をなぎ倒していった。
「行け、リア!」
大技の隙を生まないために、辺り一帯を片付けておいた。
これで安心して技に集中できるだろう。
「極大魔力剣!」
見上げると首が痛くなるほどの大きさの魔力の剣を、そのまま振り下ろすリア。
敵の後衛まで一気に切り裂き、道がすっかり出来てしまった。
横薙ぎは出来ないらしいが、それでも十分広範囲だと言える。
「このまま突き進むぞ、リア!」
「了解!」
今度は俺が前に出る。
魔力剣の応用で、槍の石突きの部分から魔力を噴出させ、ロケットのように推進力を得る。
それに応じたリアが俺に乗っかって、おんぶのような格好になった。
背中に柔らかな感触を感じるが、今はそれを堪能している暇はない。
不格好ではあるが、これが一番早く移動できるのだから仕方がないだろう。
その間にも、イレーツの砲撃が敵の動きを阻害してくれており、リックも魔法を飛ばしている。
タスクが多いにもかかわらず、リックも器用にこなしてくれるものだと感心した。
いや、もしかしたらイレーツが無理やりやらせたのかもしれない。それでも実行できるのは大したものだが。
敵の後衛の配置を見る。
数の減った魔族が陣形を整えていた。
前後が入れ替わろうとしている。おそらく魔法攻撃組と後詰の前衛が動いているのだろう。
その中で動かない一団、とりわけ威圧感を放っている存在がいた。
コイツが指揮官か。
「リア、槍か剣を調達してくれ」
おんぶから離れて、リアが瞬く間に二体を仕留めた。と同時に俺は推進力を回転に変え、その場で旋回してから投擲した。円盤投げのような感じだ。
さて、今度は槍の即席魔力爆弾である。
危険度が分かっているのか、護衛の巨大なゴブリンがこれまた巨大な盾で受けていた。
「なかなかに厄介そうで……」
「地道に行こう、ブレイブ!」
リアが槍を投げて寄越す。
それを言葉もなく受け取ると、どっしりと構えなおす。
「地道、ね。じゃあ頑張りますかね」
「そうそう、直ぐに二人も来るよ」
「二人が来たら……よし、撤退だ」
「は?」
素っ頓狂な声を上げながらも、襲い掛かる敵をなぎ倒していくリア。
「いや、だから撤退するぞ、って」
「え? ちょ、そういうところいけないと思う。なんか、変に潔いというか、諦めが早いというか」
「冷静かつ合理的と言ってくれ」
ここまで引っ掻き回したのなら、十分効果はあっただろう。
奇襲による混乱も少ないみたいだし、護衛がちゃんと護衛の働きをしている。
「そしたら、またブレイブに運んでもらえば良いの?」
「物分かりが良くて助かる。でもって、またぶっ放してくれるともっと助かる」
「はぁ、分かったよ……でも、剣がもう限界だからね?」
「そこらの兵士さんから貰ってくれ。ここから引いて、挟撃する形を取るよ」
「分かった、じゃあよろしくね!」
リアそう言い切って直ぐ、目の前の敵に飛び掛かり、剣で一突きした後、その体を土台に飛び上がる。
さっきと同じ要領だ。
ただ、同じ技だと芸がない。
「土魔法、アースウォール」
地面を槍の穂先でなぞる。
その跡から、土の壁が波のように敵に襲い掛かった。
俺の得意な属性が土なのだが、勇者ってもっと光とか火とか雷とかそういうのじゃないのか? とも思う。
汎用性があるというが、もっとかっこいいものが良かった。
と、心の中で愚痴を言うと、隣にリアが降り立ち、再び大上段で構える。
「飛翔斬撃!」
魔力で出来た幾重の刃を塊にして飛ばす技。チェーンソーが飛んでくるイメージだろうか。
俺のアースウォールを事も無げに切り裂き、指揮官が居たであろう位置へ飛んでいく。
先程よりも範囲は狭いが隙も少なく切れ味も良い。
何より、アースウォールが目隠しとなっているのが良い。
極大魔力剣だと目立って仕方がないし。
リアが打ち終わるやいなや、俺はまた魔力の噴射を始めた。
慌ててリアがしがみつくと、敵陣に背中を向けて一直線に戻っていく。
ここでもアースウォールは背後から狙われるリスクを低くしてくれていた。
あれ? 土魔法、やっぱり便利なんじゃね?
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