2人目(12)
目的地に近づくにつれ、煙の存在が増してくる。
戦場の予感をひしひしと感じさせた。
船のスピードにも慣れた頃、三人に指示を出す。
「到着前にイレーツはありったけぶっ放せ。俺とリックはそのタイミングで補助魔法、素早さ優先で順にかけていく。着地した後、リアは味方の最前線に切り込んで、可能なら盾役を連携を。俺もリアに続いて前線へ行く。リックは回復もこなさないといけないかもしれないから、後衛はイレーツが指示を執ってくれ」
「ブレイブ、回復は前線の兵が優先でいいだろう?」
「ああ、後退している兵なら、味方の回復役がどうにかしてくれる……って思わないとキリがない」
「ははは、確かに」
俺の発言に、笑い声で応えるリック。
こういうドライなところも嫌いじゃない。
「ぶっ放す先はどうする? 前と後ろに分かれていたら、どっちを狙えばいい?」
「後を優先してくれ、強化を重ねられちゃ困る」
「じゃあ、そのまま私は着地後も後ろ狙うとするかね」
「だな。横から抜かれそうであれば、その都度リックと連携して対応してくれ」
「あいあいさー」
俺が教えた異世界の言葉をたどたどしく話す姿は、まるで少女のようにも見えてしまうから不思議だ。
「あのー、私はなんか細かい指示とかある?」
おずおずと手を挙げてリアが聞いてくる。
「細かいのはない……けど、デカい指示はある」
「え、デカい?」
「敵の指揮官っぽい奴まで、戦線から一気に切り込んでいってくれ。で、出来れば仕留めてくれるか?」
「あ、つまり……」
「そう、いつも通り」
「了解!」
さて、もうすぐで到着だ。
合戦の音が聞こえてくる。
風と戦いながら、望遠鏡で見てみると拠点がしっかりと魔族に攻められている。
しっかりと、とはどういうことかと言えば、軍としての陣形を保った魔族の集団が相手だということだ。
ただでさえ強靭な体の魔族が、鎧や武器に身を包んでいる。それだけでも大変な脅威であるにも関わらず、指揮に従って動くなんて、脅威どころか悪夢に近い。
「敵は統率が取れてそうだ。イレーツ、予定通り後方にぶち込んでくれ。俺とリックは詠唱開始」
俺たちの体が淡い光を帯び始める。
重ね掛けの状態でも足りないかもしれない。なんて弱気になっている自分を何とか押しとどめた。
情けない話だ。
勇者とは勇ましき者ではないのか。
恐怖に塗られていく心を、見栄とプライド、ほんの僅かな義侠心で勇気で塗り返していく。
「いくぞ! 武器を構えろ!」
そうそう、到着前に頼みごとが一つあったんだ。
「あ、ごめん、イレーツ、剣貸して?」
「ほんと、しまんないねぇ、ブレイブ……」
一番付き合いの長いリアが、呆れ顔でこちらを見ている。
やめろ、俺だってかっこつけたかったのに、恥ずかしさで死にそうなんだから。
「ははは、変に気負うよりはよっぽどいい。大物だな」
リックが背中をバンバン叩きながら楽し気に笑う。
「さ、これでよかったらいくらでも使って。船を横に向けるよ!」
二振りの海賊刀を抜き身でもらい、船の動きに体を合わせる。
即座に砲撃を始めるイレーツの海賊船。
その隙に戦線を確認し、リアを先頭に船から飛び降りた。
着地しながら魔族を一薙ぎすると、船が魔法で攻撃される。
…………うん、もう少し早く降りても良かったかもしれないな。
突如としてド派手に現れた俺たちに、魔族はうろたえていた。
反対に、味方は雄叫びを上げ、士気が高まったようだ。
リアと並走するように、そのまま敵陣を切り払っていく。
結果として戦線を押したことになり、同じ付近に降りたリックとイレーツも、後衛の位置になっただろう。
怒涛のごとく進んでいくが、既に海賊刀は一本折れている。
とてつもなく便利なのだが、強度に問題があるのが欠点だ。
しかし、これだけ魔族が居れば、問題ない。
敵が突いてきた槍をかわしてそのまま掴み、すれ違いざまに首を落とす。
リアの後方の敵に最後の海賊刀を投げ、魔族の槍を構えた。
うん、しっくりくる。
魔力を通さずとも、突ける切れる、石突きで殴ってもビクともしない。
なかなか良い槍だ。
間違いなく国から支給されているものよりもいいやつだ。しっかりしろ国。
欲を言えば、もう少し刃渡りがあるとうれしいのだけれども。
薙刀―――そんな形のものがベストだ。
祖母が習わせてくれた薙刀の経験が、まさかこんなところで活かされるなんて。
前世の記憶を思い出す……なんてことやってる場合じゃない。
その昔の経験を活かして、どんどん敵を倒していくんだよ!




