2人目(10)
海賊とは、犯罪者といっても過言ではない。商船なんかを相手取って、略奪や脅しを仕掛けるのだから。
その犯罪者が国の支援を受ける勇者の部隊に居るとなれば、国のメンツは丸つぶれだ。
俺の老後にも関わってくるだろう。
勇者は魔王を討つために、犯罪者と手を組んだ。なんて言われてしまっては、イメージが悪すぎる。
それに、そもそも一人でも魔王をぶん殴りに行っているんだから、クビになったところで変わりはないはずだ。
そういった事情もあって、彼女をクビにしやすいというのはある。
装備に関しては、彼女の能力上、ほぼ無料みたいなもので言うことがないのだが、日頃の行いが良くない。
酒癖もそうだが、魅力的な彼女に粉をかける輩も多い。
喧嘩っ早いイレーツは何度も店を巻き込んでの大立ち回りを繰り返していた。
そこにクンあたりが加わったりすると、もう手が付けられない。
常識人であるリッターが二人を相手に戦ったり、輩をボッコボコにした後リックは治療してやるから金払えと商売を始めたり、治療薬として怪しげな薬を押し付けて実験台にするジャンも居たりする。
もうお前ら、輩に絡まれるのを望んではいないか? と思うことさえあるほどだ。
酒場の修繕費の支払いや片付けなんかをやっているのは、俺やリアなんだが?
ちなみに、アヤチはどこ吹く風で席を移って一人で飲んでたりする。自由人か。
そんなトラブルメーカーな彼女は、やはりリストラ候補の最上位にあたる。
「じゃあ、次の拠点に行くまでに、大砲を撃つ機会もあるだろうな。一応、ブレイブにお伺い立てるから、馬車は私とアヤチと一緒に乗って頂戴?」
と、イレーツの提案に、思考が現実に戻ってくる。
「ああ、分かった。その分、斥候と見張りをしっかりやってくれるなら問題はないよ」
「だって、アヤチ、よかったな」
「お、こんなに早くチャンスが来るとは!」
「魔獣だろうが魔族だろうが、出くわさないのが一番なんだけどね」
浮かれるアヤチを見ながら、俺はつい本音がこぼれた。
どれだけ雑魚だったとしても、時間を消費するのはよろしくない。
一応、俺たちは遊撃隊として、拠点を奪還しつつ、魔王を迅速に倒すのが使命なのだから。
「そしたら、馬車の人員分けはどうする? 前衛がもう一人欲しいとこだけど」
こんな感じで部隊のことを気にかけたりする面倒見の良さは、流石、船長といったところか。酒さえ入らなければ、イレーツは指揮能力も高く、副官として優秀な人材である。
「で、あれば、私がそちらの馬車に乗ろう」
話を聞いていたリッターが提案してくれる。
「そうだな、斥候と監視をする以上、リッターも前の馬車に乗っていた方が良いだろうな。殿の四人はリックが指揮を執ってもらおう」
装備が重たいのでリッターの進行スピードは遅い。しかし、最前線に立ってもらわなくてならない以上、前に置く方が良いに決まっている。
まぁ、出来れば何事もなく終わってくれればいいのだけれど。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、評価や感想などなさっていただきますと、大変励みになります。




