2人目(9)
「アヤチの腕があってこそだって、突破してきそうな奴をことごとく狙い撃つなんて」
「いやいや、勇者に褒められると照れるね」
もちろん、ジャンやリックも援護射撃で進攻を良く防いでくれていたが、反応の速度が段違いだった。
ピンポイントでアヤチが射貫き、ジャンとリックが魔法で広範囲を押しとどめる。
それでもって誤射することもないのだから、我が部隊の後衛は優秀である。
「うちの後衛の精度は高くて助かるね」
「その後衛ってのに、私は入っているのかい?」
健康的な小麦色の肌に、ウェーブがかった黒髪に海賊帽を添え、筋肉質であるが女性らしいしなやかさと柔らかさを揃えた四肢、主張を隠せない巨大な胸と尻、意志の強さを感じさせる茶色の瞳。
そんな個性的な魅力を携えたイレーツは、俺に向かってそう言い放った。
「もちろんだよ。決め手はイレーツだったじゃないか」
「出番を待たせすぎだよ、じれったくてしょうがなかった」
「よく待っててくれたもんだよ。それに、何も言わずとも思い通りの攻撃をしてくれた」
「あまりに待たせるから、ジャンに任せるかと思ったけどね」
少し不安そうな顔をするイレーツ。ちょっと可愛いと思ってしまう。
「ここら一帯が焼け野原か何かになるのは避けたくってね」
「流石は勇者様だ、環境のことをよく考えていらっしゃる!」
「おいおい、茶化すな茶化すな」
「悪い悪い」
ハハハとイレーツは気持ちよさそうに笑った。
名のある女海賊だったが、魔族が海にも侵攻してきたために稼げなくなった。
居ても立っても居られず、魔王の顔面をぶん殴らなきゃ気が済まないと単身乗り込もうとしていたのをスカウトしたのである。
「ねぇねぇ、今度また大砲撃たせてよ」
アヤチはイレーツに小さい子どものようにおねだりした。
遠距離の(一応)物理攻撃職ということもあって、二人の仲は良い。
広範囲と一点集中の棲み分けもそうだが、大砲なんかの照準を手伝ったり、弓が尽きた時にはイレーツが出した銃を使ったりとコンビネーションも良い。
まるで姉妹のような光景に思わず頬が緩んだ。
「拠点攻めの時は頼むだろうね。それ以外はブレイブに許可貰って?」
「周りに被害が出ないようなら、いつだっていいけど?」
「そんなん無理じゃん!」
口をとがらせるアヤチに姫様の気品は感じられない。
「まぁまぁ、道中に軽く群れてる魔獣相手にくらいだったら良いだろ、ブレイブ?」
「ああ、その役割なら是非にでもお願いしたいね」
「やったぁ!」
本当にこの二人は見てて幸せな気持ちになるな。
しかし、だ。
俺の中で一番のリストラ候補は、イレーツなのだ。