2人目(8)
そこから先は早かった。
一気に数を減らした魔族に、もはや指揮も士気も無い。
散り散りになって逃げるものも現れる始末で、指揮官と思われる首無しの騎士は特攻を仕掛けてくるものの、遠距離攻撃の雨あられを受け、跡形も無くなった。
「よーし、お疲れー!」
ゆったりと馬車に戻る。
「お疲れ様!」
言いながら、白銀の鎧に身を包んだリッターとハイタッチを交わした。
金髪のショートカットがトレードマークで、きりりとした目付きに鋭角な眉、スラっと長く伸びた手足に、鎧に隠されたグラマラスな肉体。
清廉な雰囲気に色気をまとわせ、立ち振る舞いや仕草も彼女の魅力を際立たせていた。
俺の居た世界では間違いなくモデルなんかをやっていただろう。実際、都では男女問わずファンが多い。
元々、姫付きの女性だけで構成された護衛騎士団の団長であったが、前述の通りの人気と美貌である。
こともあろうに、姫様が惚れてしまった。
地方に転属という形で隔離されるのだが、その地方都市でもやたらと人気を集め、兵隊をはじめとした公務員のみならず、一般人にまで熱狂的な信者が現れてしまい、街としての機能に支障を来たしてしまうほどだった。
まさに傾国の美女。
で、扱いに困っているところ、俺が通りがかり、部隊に入ることとなった。
さて、そんなリッターはリストラ候補となり得るか?
結論から先に言えば、NOである。
国からの出向のような形で彼女は所属しているので、クビにしたところで国が雇用しているのだから、彼女自身が賃金で困ることに変わりはない。
しかし、クビにしてしまえば、キチンと国へ返さなければならないだろう。
つまり、ボランティアで帯同することは難しくなる。
それに彼女が俺の部隊からクビになったと、誰かの耳に入ってしまえば、信者たちが大暴れするのは明白だ。戻ってくると歓喜する人間も居れば、何故クビにしたと俺へ怒りを向ける人間も居るだろう。
リッターのような人格者なら、事情を話せば分かってくれると思う。が、それに付帯する環境が悪すぎる。
さて、どうしたものか。
「ふぅ、今日のような戦い方は、なかなか苦手だな」
ため息をつく姿すら美しいリッターは、盾役としての愚痴を言う。
広く展開されるのは、彼女のような盾役としては不得手なものだ。
それでも盾と全身に魔力をまとわせ、大軍をせき止める壁となってくれていた。
「よく止めてくれたよ。リッターが居なきゃ、雪崩れ込まれていたよ」
「相手もさほど強力ではなかったからな」
「それでも助かった」
「そ、おかげで私も狙いやすかったし」
と、話しかけてきたのは弓手を務めるアヤチである。
エルフ族の姫なのであるが、人間社会に興味がある、と部隊に加わった。
銀色の長い髪、尖った耳、磁器のような白い肌、黒目がちの潤みをもった緑の瞳。
ピッタリとしたレザースーツに包まれた体は、スレンダーな美しいボディラインを際立たせている。
エルフと言えば森に住み、人間が嫌い、金属を身に着けないといった種族であると思ったが、この世界のエルフは国として成り立っており、人間とも共存の関係を歩んでいる。
そんなアヤチとの出会いは、立ち寄った街で大道芸をしていた時である。
社会勉強と称して国を飛び出したはいいものの、路銀が直ぐに底をつき、日銭を稼ぐために弓を使った芸を披露していたとのこと。
姫というだけあって、金銭感覚もぶっ飛んでおり、ある分だけ使ってしまう悪癖の持ち主だ。そりゃ路銀も無くなる。
初めて出会った時も、必要になるだろうと回復薬をありったけ買って無一文になった直後のことだった。
また、エルフ全体の話なのかは分からないが、酒にめっぽう強く、酔っぱらったところを見たことがない。
あるだけの金を酒につぎ込むことはざらにあるし、金に汚いリックはそのおこぼれを恵んでもらったりもしていた。
そういや、アヤチをクビにしたら、外交問題とかになったりするのだろうか?




