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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

侯爵家からきた継母にすべてを奪われ、義妹に虐げられた私は絶対にアナタたちを許さない~行き遅れ令嬢の復讐劇

作者: 忌川

初めて投稿しますが最後までお読みいただけるとありがたいです……。

誤字脱字は都度直しますので感想も含めお待ちしております。

 実の娘の私だけが痩せていた。


 継母や義妹はいつ見ても美しい。持てる限りの贅沢はすべて揃っている。

 跡取りの義弟は一度しか見たことがない。


 ある日、私は洗濯をしていると商人の御使いが流行りの観劇の物語を使用人わたしたちに話してくれた。


「あまりに虐げられている令嬢を見かねて、魔法使いは彼女にドレスを与え、カボチャを馬車に、ネズミを御者に変えました――」


 彼の話は分かりにくいところもあったが、その物語に私は自分に重ね合わせ、さらに心を奪われた。



◇◇


 母が亡くなり、継母のアビータが侯爵家から嫁いできた。

 私は父の喜ぶ顔が嬉しい反面、母に対する裏切りを感じてしまう。


 継母アビータの連れ子のイライザヨハンと初めて会ったときでも家族が増える実感はまるでない。

 1年と少しの間、父が出征するまで私たちは対等・・な家族だった。


 父が居なくなったその日から私は奴隷の様だった。

 この家の者でもなければ、人間ですら無くなっていたのかもしれない。


 私の部屋や持ち物はすべて妹のイライザが2つ目の部屋として使い、侍女のベルや世話係のゾーイおばさんは屋敷を追われてしまった。


 私はおばさんが居た地下の部屋に移され、継母が連れて来た使用人たちにも使われる。

 継母と妹の部屋の掃除に日中を費やす。

 元々刺繍やその糸を紡ぐこと、機を織ることができたため、早朝から日が沈むまで休みなく働くことが私の日課となった。



 父はもともと子爵だったが先の戦争で名を上げ、豊かなこの土地に転封てんぽうのうえ、伯爵として陞爵しょうしゃくを賜る。

 しかし、父には跡取りが居なかった。


 私はよく父の領地統治の手伝いをしていたが、法では嫡男子のみ継承権がある。

 結局それがアビータたち侯爵家を呼び込むことになってしまい、いとも簡単に乗っ取られた。


 古今東西同じようなことがいつでもどこでも繰り返されている。

 父が知らなかったはずがないが……母を亡くした父にはこうするしか無かったのだろう。



◇◇


 それから3年、私はまだ・・耐えている。

 なんども逃げ出す未来を想像したが、あの時に聞いた物語が私を支えてくれている。



「クリス! お嬢様がお呼びだよ! ……何しているんだい、早く行きな! それとノルマは分かっているだろ? 今月は先月の分もやるんだよ。寝ないでやりな!」



 母から譲り受けた機織り機の調子が最近悪く、機織工に毎月見てもらっているが、先月はノルマを大きく下回っていた。

 ハウスメイドもそれを知っているはずなのに、一層の剣幕でまくし立てた。

 私は油塗あぶらまみれの手を拭き、顔も汚れていたが、構わずイライザの元に走った。



「――遅い。私を待たせるなんて何様のつもり? この汚いクズが! ああっ、もう汗をこぼしたら拭いて頂戴!……ホント使えない。――ああ、それと、来月私の成人式があるの。この涼しげなドレス、あなたの自作だと聞いたわ。私のサイズに合わせて新しく・・・作ってくれる? ――お爺様にも話は通しているから断ろうなんて思わないで」



 私は彼女の吊り上がった目を見て本気で作らせるつもりだと理解するしかなかった。


「……ええ。わかりました」



 彼女は突然座っていた椅子を持ち私に向かって投げた。

 あまりに唐突で避けきれず、屈んだが間に合わない。

 背中を打ち、声が漏れるとイライザは更に怒り出した。



「今私に向かって『ええ』って言ったわね! 『はい』よ! ゴミが! 早く言い直しなさい!」



「す、すみません――はい、わかりました」


 私は機織り機のことは言えずに、そのまま彼女の体を採寸し、途中何度か罵られながらも退席することができた。


 部屋に戻ると頼みの機織り機も私の部屋も荒され、この侮辱に耐えているほど目に溢れて来る。

 唇を噛みしめ、汚れたスカートの裾を握り、必死で様々な感情をこらえた。


 いつか私もあの物語のような幸せが訪れる。

 強い意志と挫けない心が今も明日も必要だった。



◇◇


バラバラの機織り機は形状やパーツを控えていた絵をもとにできる限り直し、侯爵領から連れて来た鍛冶職人や大工に足りないと思われるパーツや修理を頼むことができた。

 少ししかない貯金を使い果たしたが、以前のようなスピードでノルマを充足すべく寝る暇も惜しんで紡いでいく。


 ドレスも睡眠時間を削りながら製作を続け、成人式に間に合う目途がついた。

 その途中なんどか彼女の元を訪れ、型紙や採寸を進めていく。


 私は朦朧もうろうとしながらなんとか当日にそのドレスを作り上げ、彼女に渡すことができた。



◇◇


 その日は他のハウスメイドたちと1日洗濯をし、いつも通りすべて押し付けられ、彼女たちの機嫌を取って終わった。

 痛む体を摩りながら寝具の準備をしていると就寝前に突然呼び出しがかかった。

 どうやら私だけではなく、屋敷中の使用人、御者や庭工まで全員が広間に集められる。


 私は急いで床下にしまってあった服に着替え、広間に向かった。

 途中ですれ違う屋敷のもの達の顔色が優れない。

 私と目が合った数人は驚きで口が塞がらず、祈る者もいた。



◇◇


 広間に着くとステージ側には王の側近が並び、近衛兵が周囲を固めていた。

 そこに縄を掛けられたアビータやイライザ、義弟が連れ出される。



「ここに集まった者たちの中にはここに連れ出された意味を分かっている者もいるだろう」



 近衛騎士団の副長が力強い声でざわつく使用人たちを黙らせた。



「お前たち全員、本日沙汰がある。まずはこの主犯どもに宣告してからだ。ベルシュ様、お願いします」


 そう言って副長は下がり、となりの警務長官のベルシュが口を開いた。



「アビータ夫人。そなたは父のカルス侯爵と謀り、我が国と交戦中の隣国に物品および金銭、また私兵を送り、援助。また我が国の機密を漏洩した罪、反逆罪、及び国家転覆罪に問われておる。相違ないか」


「な、何を⁉ 訳の分からないことをおっしゃられても……そもそも私はもうここの家のものです。関係ありません!」



 アビータは美しい口を曲げ、一瞬で自信を取り戻し、他の使用人たちも口々に異を唱えた始める。



「黙らっしゃい! まだ分からないのか。ここにいる時点でお主たちの悪行はすべて露見しているのだぞ」


 ベルシュの話の信憑性より、一切関与していない素振りのアビータは無知を押し通すつもりらしい。



「もう、時間も遅いので失礼しても良いかしら? 夜なべは肌に悪いですのよ?」


 この状況でまだシラを切る精神力は私には分からない。


「仕方がない、自白しないのであれば……クリス様お願いします」



 私が王の使いの中に居たのを気付いていないのだろう。ましてやこの白百合騎士団長の恰好は見たことないのかも知れない。

 私は前に進み出て、彼女たちを見下ろした。



「ク、クリス⁉ お前……なぜそこに⁉」


 アビータやイザベルを始め広間の全員が驚愕し、騒々しくなり早く悟ったものは覚悟を決めている者も見えた。



継母様おかあさま、いえアビータ夫人。罪状は先ほどの通りです。今の私は王の御使いであり代理人です」


「はぁ? あなたが王の代理人? 笑わせてくれるわね。くだらないお芝居は止めて部屋に戻りなさい!」



 今度はその言葉に周りの衛兵たちが怒りで気色ばんでいる。



「私のことはどうでもいい。問題なのはあなた自身です。……エジル持って来て」


 台車に引かれ、見覚えのある品々と臭いを放つ死体が目の前に運び出された。



「これは戦地の父と王子殿下が送ってきたものです。これらの装備や金品はここから送られ、敵軍の手に渡ったものです。――何か申し開きはありますか?」



 アビータは私から目が離せなくなっており、動揺を隠せない。

 しかし、何か思い立ったように喚きだす。



「な、何をいうのかと思ったら、こんなもの証拠にならない! どこにここから送ったとかいてあるのです? バカバカしい。仮にそうだとしても途中で奪われたかも知れませんわ」



 練習していたような口ぶりに回りの使用人たちも頷き合い、安堵のため息をつく者もいた。

 私はいい加減、うんざりしていた。この事実を調べるために私も父も多くの犠牲を払ってきたのだ。



「わかりました。――エジル、この者の鎧を剥いでください」


 回りの男たちは敵兵の死体から鎧を取り去った。

 私は腹に致命傷を受け亡くなったこの敵兵の紋章衣を見えるようにめくり、イライザにトーチの魔法を唱えるように言った。

 イライザは泣きじゃくっていたが、周りの衛兵に気圧され悲鳴を上げながらトーチを唱える。


 彼女の指先は徐々に明るくなり、やがて彼女の髪と実母のアビータの髪も光始めた。

 その光の度合いに合わせ、敵兵の上掛けの衣も所々光り出し始める。


 イライザはその結果に驚き狼狽し、アビータに救いの目を向けていた。


 私はそれでもなお屈服しないアビータに向け、事実確認をする。


「トーチの魔法は使用者と血縁者の髪に反応するのは知っていますよね?」



 アビータは口をパクパクさせ目が凄い勢いで左右に揺れている。言い訳をする時間は与えない。


「イライザのドレスにも同じものを仕込んであります。それと――鉄の配合は鍛冶屋毎に違うのはもはや常識ですが、敵兵が使っている武具や防具と……この機織り機の鉄、一致するかもしれませんね。このパーツはあなたが連れて来た鍛冶屋に作らせました。」



 イライザはまた泣き出し、アビータは頭を垂れた。


「まだありますよ。アビータ元夫人。あなたはこの家の者、と先ほど言っていましたが……残念ですが既に他人です。不貞の数々の証拠をご覧になりますか? なんならここに居る男たちにトーチ魔法を使わせましょうか? 貴女の部屋から出た毛はすべて織り込まれています」



 この言葉に侍従の若い男が悲鳴を上げ、庭工も座り込んだ。


「不貞をするとどうなるか分かっていますよね? 離婚だけじゃありません。損害を請求できますし、法に頼らず不貞相手を拷問の上、処刑をすることができます」



 さらに2人の男が逃げ出そうとして衛兵に捕まった。



「もう観念しませんか? 他にも証拠は挙がっています。いかがです?」



 今度は狂ったように笑いだした。アビータは口から涎をまき散らしながら私を指さした。


「アハハハハ! いいわ、認めるわ。だけどホントにバカな娘ね! 自分の人生を犠牲にするほどのこと? ハハハ!」


◇◇


 私は幼いころから2人に愛されていた。

 父からは剣技を母からは知恵を授かり、近衛騎士の中でも女性だけで組閣された白百合騎士にも成人前に選ばれる。

 王にも目を掛けられ、数々の武功を父と幼いころからの友の王子と共に上げていった。


 ただ母はいつも私に寄り添い、武勇に頼らない生き方や知識、世の中を正し、導くのは剣だけではないことを教えてくれた。


 その母が亡くなり、父が再婚を決めた日――私は許す気持ちを忘れ、父を激しく罵り、その後はギクシャクしたまま、ついには口も利かなくなってしまった。

 あんなに愛し合っていた2人が父の裏切りですべてが壊れ、母が汚されたように感じたのだ。


 継母や妹弟が出来たとき、私は王宮からも見捨てられ戦友だった王子も離れていく。

 さらに父は王子とともに出征し、辛酸耐えがたい日々が訪れる。


 ところがある日、商人の御使いに身を扮した王子の従者が現れ、すべてが王家の策略だと伝えられた。

 最初はその事実より怒りが勝ったが、父の執念を知り今日の日まで耐えることを誓った。


 その執念とは、かなり前からカルス侯爵の離反の噂で内偵は行われていたが尻尾が掴めない。その間何度も侵略を許し、国土が削られ、民が苦しんだ。

 そこで最も信頼できる父に王の仲介でカルス侯爵家と再婚させ、骨を断つために肉を切らせたのだ。


 父は私に本当のことを伝えたかったに違いない。

 私が父を拒絶してしまったからこんなことになってしまったのだ。



 従者が話した父の計略は物語として隠語で語られ、魔法使いが与えたガラスの靴は、母が残した機織り機を示唆していた。


 その後はメンテナンスで来る機織工を通して情報交換し、証拠の帳簿写しなどは機織り機の中に入れ、修理品として出し入れしていた。


 そしてとうとう、最後の仕込みであるイライザのドレスの件で動かぬ証拠がすべて揃い、今日を迎えることができた。



「アビータ。私や父が本当に苦しいだけの時間を過ごしていたと思う?」



 私はもう会うことはないこの女と娘に聞かせてやりたいことがあった。



「え?」



 私は手を挙げるとベルシュが報告書の束を読み始めた。


「8月15日 カルス侯爵家令嬢アビータの不正、不義を確認。侯爵家との交信手段、輸送経路を内偵者により報告、把握」


「9月10日 我が軍はカルス侯爵の内通を利用し、敵軍を撃破。侵略者である王を始め、名だたる将を捕縛することに成功。身代金交渉と共にカルス侯爵が与した証拠を請求」


「9月12日 カルス侯爵に逮捕状。即日王都へ送致」


「9月13日 カルス侯マルコス卿、自白。アビータ、イライザの関与を証言」


「9月14日 アビータ、イライザ、他関係者に逮捕状」



 アビータは天を仰ぎ、イライザは大声を上げて釈明しだした。


「8月15日、何があったのかイライザだけは思い出したようね。私に向かって『お爺様』と言ってしまった。その後、何度も話すうちにすべてつまびらかになった」


「ううっ……私は……」



「運び屋の貴女が全部教えてくれたの。すべての起点になった。――ありがとうイライザ。いい娘さんを持ったわねアビータ。――連れて行きなさい」





◇◇


 その後、すべての使用人たちは次々に口を割り、カルス侯爵家ぐるみの反逆が明るみ出た。

 民衆の娯楽と化した処刑は1か月もの間行われ、一族郎党すべてが処分を受けた。


 父は無実と名誉回復の機会を王から直接与えられた。

 長く苦しい隣国との争いに終止符を打っただけなく、多額の身代金、王子の側近としての武勇、家族をも犠牲にした国家への忠誠心など、次々に褒賞を受けた。



◇◇


 秋が深まったある日、私は父に宮廷に呼ばれ、小さな部屋に通される。

 そこには王子も控えており、2人の嬉しそうな顔で薄々察してしまった。

 私は声を掛けられるのを待つ。どんな呼ばれ方でもよかった。


「クリス!」


「――お母様!」


 私は父も巻き込み3人で笑いながら泣いていた。

 ここまで完全で壮大な計画を立て、私にすべてを託したのは――母だった。



◇◇


 私たち一家の物語は国民に人気で芝居や詩にもなり、やがて王太子妃となる日まで私は民衆から『紡ぎ令嬢(スピンスター)』と呼ばれるようになっていった。




――この物語はここで終わりだが、私だけ続きがある。





 王子や父とその後も数多の戦場を駆け回り、30歳を目前にようやく落ち着いた私は、王太子になり同じように歳を重ねた彼と、完全に『行き遅れ結婚』をした。

 その後は子宝にも恵まれ、国は安定し……


 そう……不名誉な話だけど……このときから私は『行き遅れ令嬢(スピンスター)』と呼ばれ、私の国では婚期を逃した女性に使われる代名詞になってしまっている。


 いづれまた、私の愛する家族の話でも紡いでいきたい。



END




最後までお読みいただき、貴重なお時間をありがとうございました!

ぜひ、次の作品も書いていきたいと思っていますので


宜しければ評価などいただけたらありがたいです。

よろしくお願いします。

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