小説を書くうえでの漢字・ひらがなの使い分けについて(おまけ編)
先日投稿しましたエッセイ「小説を書くうえでの漢字・ひらがなの使い分けについて」は、おかげさまで多くの人に読んでいただけたようで、私としても大変うれしく思います。
今回は、前回のエッセイの補足というか、触れていなかった内容について書かせていただこうと思います。
まず、ご存知の人も多いでしょうが、漢字には「常用漢字」というものが存在します。
「常用漢字」とは、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活においての漢字使用の目安として、内閣告示「常用漢字表」で示された現代日本における日本語の漢字を指します。
(「常用漢字」については、文化庁のウェブサイトなどで一覧を開示されていますので、興味のある方は見てみると良いと思います)
さて、この「常用漢字」は、あくまでも漢字使用の目安であって、制限ではありません。
そのため、小説などで常用外の漢字を使うことは問題がないのですが、一般的にはそういう認識があるということは頭に置いておくと良いでしょう。
そのうえでのお話になりますが、一般的な文章を書く際、常用漢字表に載っていない漢字はひらがなで書くというルールがあります。
一部の漢字を書く際、ひらがなが推奨されるのにはそういった背景があります。
では、具体的にどんな漢字が常用外となるかについてですが、小説を書くうえで最も影響するであろうものが「当て字」になります。
(もしちゃんと調べるのであれば、常用漢字表を見るのが最も確実です。ですが、対象となる漢字は2000文字以上あるため、いちいち調べるのはそれなりに大変だと思います)
「当て字」とは、字の本来の用法を無視して、その言葉を表すために転用した漢字などを指します。
「当て字」には2種類あり、一つが「漢字の音(読み方)のみを優先したもの」で、もう一つが「漢字の意味のみを優先したもの」となります。
このうち、「漢字の意味のみを優先したもの」を「熟字訓」といいます。
(熟字訓の中には常用の言葉も含まれているため、全てが「当て字」に含まれるワケではありません。例「大人」「七夕」など)
具体例を出しますと、「亜米利加」など国を表す漢字は「漢字の音(読み方)のみを優先したもの」に分類されます。
あまり一般的ではないので小説で使うことはないかもしれませんが、頭のすみに入れておくと良いでしょう。
小説でよく使うのは、「沢山」「素敵」「早速」「無理矢理」「無駄」「誤魔化す」などですかね。
これらは実は「当て字」です。
今度は「熟字訓」の具体例を出しますが、「流石」「可笑しい」「躊躇う」「何時」「雑魚」などがそれに当たります。
「当て字」や「熟字訓」の一覧についてはネットを調べるとたくさん出てきますので、気になる人は検索してみてください。
さて、もうお気づきだと思いますが、これらの「当て字」「熟字訓」に関しては、小説などでは当たり前のように漢字が使われています。
時代と共に一般化していった言葉が多く、今となっては「当て字」だと知らない人も多いでしょう。
そういった背景から、前回のエッセイではこのことについて触れませんでした。
ですので、現在「当て字」を漢字表記にしている人は、今後も気にせず漢字表記のままで良いと思います。
豆知識として覚えておいていただければと。
ただ一点注意があるのですが、「当て字」の中には他の読み方をするケースもあります。
たとえば「沢山」は「さわやま」と読むことができるため、文章次第では苗字と混同する可能性があります。
「何時」も「なんじ」と読めますし、あまり一般的ではありませんが「早速」は「さそく」「そうそく」とも読みます。
「当て字」であること以上に、他の読みをする場合は十分に注意が必要です。
小説の場合はルビを振るという手段もありますので、どうしても漢字にしたいときはそういった機能を利用するのも良いでしょう。
「当て字」については以上になりますが、もう一点、ひらがな表記にすべきケースにモラル面が影響するものがあります。
該当するのは「子供」と「障害」です。
どちらにもネガティブなニュアンスが含まれているということで、過敏に反応されることがあります。
まず、「子供」の「供」という字には、「お供」「供物」など、下の者や捧げ物といったニュアンスがあります。
また、「供」は複数の人間に対して使う蔑称であるともされています。
そういったことを連想させるため、使うべきではないという見方があるのです。
「障害」についても同様で「害」の字に悪いイメージがあることから、「障がい」や「障碍」に書き換えを要求されるケースがあります。
しかし、「子供」も「障害」も、公用文では漢字表記となっています。
字自体には否定的なニュアンスはないと判断されたからです。
実際、「供」の字は「供養」や「提供」などでも使われていますが、それらについてはあまり言及されません。
同様に「害」の字も、「弊害」や「被害」などで問題視されたことはありません。
一部の人達が気にするのは、「子」と「供」が一緒に使われること、「障害」と「者」が使われることなのでしょう。
差別や蔑視などに敏感な人にとっては、やはりどうしても気になる部分なのだと思います。
これは解釈の問題なので、それは気にし過ぎだと思う人も多いです。
実際、障害者の方の中にも、「そんなことして意味があるの?」と考える人もいます。
気にし過ぎる方が差別的と捉える人もいます。
これらの文字については、漢字にすること自体は問題ないでしょう。
ですが、気にする人もいるので「子ども」「障がい」と表記したほうがベターな対応だと言えるかもしれません。
そういったモラル面での気遣いも、小説を書くうえでは必要なのだと思います。
最後に、どのケースの場合でも、全体の表記を統一することは重要となります。
今までの作品で「子供」を漢字表記にしていて、このエッセイを読んでひらがな表記にしたいと思う人もいるかもしれませんが、もし修正するのであれば直近の更新だけでなく、全体も修正するようにしてくださいね。
それが大変なようであれば、そのまま漢字表記を貫く方が良いと思います。
作品の完成度を落としてしまっては、元も子もありませんので……
以上、蛇足のようなお話になりましたが、今後の執筆における一助になれば幸いです。
それでは皆様、よい執筆ライフを。
余談ですが、小説にはセリフがあります。
このセリフ部分は特殊で、本来の文章のルールは適用しないと考えて良いです。
例えば貴族のキャラが「あなたは美しい」と言う場合、「貴方は美しい」とした方が貴族っぽいですよね。
硬派なキャラのセリフは漢字多めにしたりとか、個性を表現できる部分でもあるので、漢字ひらがなの使い分けは作者様の匙加減で良いと思います(わざとであれば、誤用もアリかもしれません)。