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始祖との対面


明日の儀式は避けられない。

体調不良で休みたいと言ったところで、ルカを人間扱いしない父親のことだ。

無理矢理連れて行かれるだろう。


自分はどうすればいいのか。

ベットの中で丸くなって考え、朝方に一つの結論を出した。



避けられないのなら、それを利用すればいい。



翌日。


儀式は記憶と寸分違わず行われようとしていた。

目の前に立つマリー、周りを囲む家族。


地下室の隅にいたルカはその時が来るまで待っていたが、ふと魔法陣の文字が読めることに気がついた。


それは処刑される前に閉じ込められた監獄にあった本に書かれた文字だった。

その本はマルテシアが国となる前より更に昔、ネイニアにいた少数民族が使っていた古代文字だった。


本では一部解読され、その文字と民族の成り立ちが解説されていた。

本の内容によれば、監獄として使われていた王宮に住む王族がこの民族と関わりがあるようだった。

彼らは国を跨いで旅をして、異国の知識を数多く持っていたと。


記憶を辿って、解読する。


魔法陣の縁に書かれていた文字は、こう読めた。


「魔道を探究し続ける強い志を持て。さすれば我が力を与えん」


おそらく、この魔法陣を作った始祖の言葉だろう。

なぜ少数民族が使う古代文字で書かれたのかはわからないが、この文章が前回の儀式で起こったことの糸口になるとルカは思った。


彼はなぜマリーを拒否したのか。

あの時、切られた髪の間から見えるマリーの顔を見れば理由がわかった気がする。


彼女には、志なんて何一つない。

ただ与えられるものを突然のように受け取るだけだ。


家族の愛も、この家の財産も、始祖の力も。

……そして、私の元婚約者。


ふと思い出したくない顔が蘇りそうになり、頭をふる。

今は嫌な記憶に構っている暇はない。


再び顔を上げれば、儀式は佳境に差し掛かっていた。


魔法陣の中に立つマリーの周りに煙が現れて、消える。

そしてルカの隣に現れた。


ここまでは、前回と一緒。


大きく息を吸い込む。

人生を変える第一歩だ。ここで失敗は許されない。


驚く家族とは別に、ルカは煙に向き合う。


ルカは煙に向かって話しかけた。

「私があなたの願いをかなえましょう。志半ばで倒れたあなたに変わり、魔道を探究し続けます」


煙はかすかにこちらに反応した。


ルカの言葉を聞いて、父親が騒ぎ出す。

「何を言い出す!儀式の邪魔はするな!」

大声で叫ぶが、ルカは無視をして続ける。

「あなたの力がこうして先祖代々受け継がれていくのは、国を守るためだけじゃないでしょう。魔導の発展という目的もあったのでは?」


ルカの言葉に反応して、煙がわずかに濃くなった。


「この家の者は、とっくにそんなこと忘れてる。今のままでは、あなたの力は使い潰されてしまいますよ」


母親が金きり声をあげた。

「失礼な!国を守り続けてきた我らに向かってなんて口を切くの!」


ルカはそれも無視した。

「戦争も無く、国も平和になった。ただ権力のために魔力の固まりとして残り続けることに意味があるの?」

煙はさらに濃くなり、うっすらと人型になる。


ルカに流れが向いている。それをようやく家族は理解してのだろう。

今まで黙っていたマリーが口を開いた。

「お姉さま、急に何を言い出すの?力を受け継ぐのは私と決まっているのに・・・そんなに私がうらやましかったの?」


その場違いな言葉に、ルカは小さく笑みが漏れてしまう。


マリーは尚も続けた。

「それに、お姉さまにはアミュール家だけでなく、別の血も流れているでしょう?受け継ぐ資格はないんじゃないかしら?」

そう言って、にっこりと微笑んだ。



マリーは疑わないのだ。

自分の地位も名誉も確約されたものだと思っている。

自分がすばらしく、力を得るにふさわしい人間だと信じて疑わない。


おめでたいことだ。


ではそのまま安全な場所で高見の見物をしていればいい。


ほしいものをきちんとほしいと言わないことがどれだけ傲慢なのか思い知らせてあげる。


ルカは家族の言葉をすべて無視して、目の前の存在に言った。

「私の血はこの家とは違う血も流れています。……けれど、魔導の探求において、異なる血を組み込んで新たな道に進むことも魅力的だと思いませんか?アミュールとしての研究が行き止まりなら、別の道を探さなきゃ」


その言葉が鍵になった。

煙は人型になり、中から黒い甲冑を着た騎士が現れた。

この屋敷の美術品の中に見た油絵に描かれた騎士だ。


前回の人生からは大きく違うことが起きている。



伝承とちがうことが起きているから、父や母も口を開けずにいた。目の前の出来事が信じられないようだった。


だが、マリーだけは違った。


「お姉さま、それは私の物です。手を出さないで」

それでもほほえみながら言うマリーに、ルカは言い返した。

「元々、彼は私の物よ」

前の人生のことなんて知るはずもないマリーに言ってもわからないだろう。

だが、事実だ。

無理矢理、私の髪と血でマリーのものになったダークナイト。


私をそれを正当に受け継いで、自分の未来を切り開いていく武器にする。


ルカは煙に宣誓した。

「私に力を貸して。血と覚悟を捧げるわ」

その言葉に騎士はうなづく。すると頭の甲冑が消えて、黒髪の青年が現れた。


黒髪に、青い瞳。顔は端正で気品があるが、無表情のため冷たい印象を受ける。

突然現れた青年に、この場にいた者は驚き固まった。


これが、アミュール家の始祖であるダークナイト?


混乱しながらも、ルカはむりやり頭を切り替えて、青年を真正面から見る。


青年はゆっくりと口を開いた。

「あなたの言葉を信じよう」


彼が戻ってきた。あの時逃した手を、もう二度と離さない。


ルカは改めて言った。

「私は、自分の人生を変えていきたい。そのためなら、魔道の探究だろうが、何だろうが…なんだってするわ」


その言葉に、青年は跪いた。

「あなたの覚悟を受けとりました。契約の証を」

そう言って、手を差し出す。

ルカは戸惑いながらも重なると、青年は手の甲に口づけた。


その瞬間、ふわりと彼の体がまた煙となった。

そしてルカの身を包み、消えた。



継承は完了したのだ。マリーではなく、ルカに。



ルカは魔法陣のほうへ顔を向ける。


こちらを信じられない目で見るマリーと、怒りで震える両親を見て思わず笑いがこぼれた。



そんな目でみないでよ。「彼」は元々私のものなんだから。



ルカは怒りと嘆きで叫ぶ家族を振り切って、地下室から外へでた。


手に入れた。

この家のものなら誰もが知っているダークナイトの力。


始祖の力は、つまりアミュール家そのものだ。


それを手に入れたのだ。


儀式が終わって外に出てきたルカを見て、メイドや執事に遠巻きに見ていた。空気がおかしいと感じたのだろう。


明日からのこの家のヒエラルキーはどう変わるだろう。


それを思うと思わず笑みが溢れる。

その笑顔は悪条件と呼ぶに相応しいものだった。


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