2/1「不穏な夜が過ぎていく」
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舞游と霧余さんは気が合ったらしく、よく分からない種類の話をあれこれと続け、僕はおよそ聞き手に徹していた。決して退屈ではなかったが、ひたすら翻弄されていたので疲れはした。途中で有寨さんが顔を見せて浴場が空いたことを告げた後も二人はしばらく話すのをやめず、柱時計の針を何気なく見た霧余さんがもうじき午前一時になると気付いてようやく「今夜は初日だし、ここでお開きとしましょう」と云った。
「舞游ちゃん、一緒に入る?」
「うん、そうする」
二人に続いて、僕もソファーから立ち上がる。
「じゃあ僕は食器を洗って、先に寝ますね」
「私が後でやっておくから、もう休んでいいわよ?」
「それだと霧余さんの寝る時間が遅くなるじゃないですか。料理もしてないですし、このくらいは僕がやりますよ」
「そう? なら頼むことにするわ」
ウロちゃんが巻き付いたのとは別の方の手を軽く振って「おやすみなさい」と云う霧余さん。舞游も「また明日ね」と手を振った後に、「觜也は私といるときは全然気が利かないんだよ」なんて霧余さんに愚痴っぽく話しながらリビングを出ていった。
僕はまだ円卓の上に残っていた僕と舞游の分の食器や先程まで有寨さんと霧余さんが使っていたグラス類を調理室に下げ、複数ある流しのひとつで洗った。レストランの厨房を少し小さくしたくらいの調理室は、ひとりでいると物寂しい感があった。
洗い物を終えた後、調理室とリビングの暖房を切って電気も消し、ロビーに出る。
各部屋と違って三階まで吹き抜けとなったこのロビーや廊下は暖房が効いていないため、いささか寒い。軽く自分の腕をさすりながら赤い絨毯の敷かれた階段を上がり、例の我々はどこから来たのか云々といった題の絵の前に来たとき、西に伸びた廊下の奥から有寨さんがこちらに歩いてくるのを見とめた。
「ああ、觜也くん。もう寝るところかい?」
「はい、そうですけど……有寨さん、まだ寝てなかったんですね」
なんの気なしに訊ねただけだったが、有寨さんはちょっと曖昧な微笑み方をすると、少々強引に「おやすみ。明日の朝はゆっくり休むと良い」と会話を切り上げ、東に伸びる廊下の奥へと行ってしまった。
有寨さんが去った後になって僕は気付く。分担によれば有寨さんと霧余さんの部屋は東の奥であり、西の奥は杏味ちゃんの部屋なのだ。つまり有寨さんは杏味ちゃんの部屋に行っていたことになる。そして彼が自分の部屋に帰るタイミングに、偶然僕が此処を通るのが重なったというわけだ。
別段気に留めるようなことではない。しかし僕は妙な胸騒ぎを覚え、そそくさと三階に上がって自室に引っ込んだ。
消灯。靴を脱いでベッドに横になり、布団を被って目を閉じる。
外の吹雪はさらに激しさを増しており、強風の塊が邪悪な意思を持って屋敷を揺さぶっているかのような気味の悪い音がずっと頭の奥まで響いていた。