01/〜花音、誕生の日〜
春の陽気な日。花音は生まれた。
どこにでもある、ごく普通の家庭に新しい命が誕生した。
五体満足に生まれ、元気いっぱいな女の子。
家族はとても喜んでいた。
初の出産を終えた母親は、幸せを感じながら大切に大切にその赤子を抱いている。
「お腹にいた時は中から蹴ってお腹に足の形が浮き出ていたっけ…元気すぎて男の子かと思っていたら、女の子で。お転婆さんになるかな?」
なんて、クスクス笑う母親を皆幸せそうに見ていた。
バタバタバタバタ……はぁはぁ…
ガラガラっとドアが開いた。
息を切らして駆け込んできた父親を母親は「あらあら」と出迎えている。
父親は腕の中の赤子を見て嬉しくて飛び付いた。
それにびっくりしたのか、赤子は泣き出してしまった。
父親はあたふたし、母親は必死で泣き止まそうとあやしてみたが泣き止まない。
場は一瞬で賑やかになった。笑っていた祖母がひょいっと赤子を抱き、泣かないの。と声をかけながらあやすと、赤子は泣き止んだ。
さすが子育て経験のあるものは強い。なんて笑いあって、泣き疲れて眠ってしまった赤子をベットに下ろしたのだった。
花音と名付けられた赤子はすくすくと成長していった。
母親の予想通りのお転婆娘で、寝返りができるようになった頃には、ベビーベッドの片側を空けているとそこから転げ落ちる始末。
ちゃんと布団は敷いているが、落ちても関係なく寝ている花音。
ハイハイが出来るようになるとじっとしていない。つかまり立ちが出来ると、父親のご飯中に近寄り口の中に手を突っ込んで食べてるものを強奪しようとする。
父親が怒り向こうに行ってろ!と、花音を布団に放り投げる。花音は遊んでもらってると思い、きゃっきゃっと笑ってよちよちと父親の元へ戻り同じ事を繰り返す。
その頃にはいろんなものに興味があって、スリッパを齧ってみたり、壁にへばりついて足を動かしてみたりしていた。
行動範囲が増え、色々出来るようになってきた花音を微笑ましくみていたが、事件は起こった。
花音は手に何かを握っていた。
母親は一瞬ギョッとした。
花音は剃刀を握っていたのだ…
嬉しそうに笑いながらにぎにぎしている娘の手を、どうしようかと焦りながら見つめる母は、落ち着いて花音に話しかけた。