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EX-1 求愛・吸熱・シャーベット(前編)

※視点切り替えについて、今後以下の表記を追加します。


༄༄༄ から後のシーン→凪視点


(以下、お約束)

こちらのお話は、


・二人がご飯を作って食べるだけのお話です。

・ファンタジー要素はありません。

・幽霊、あやかし要素はありません。

・ミステリー要素はありません。


また、科学的説明はあくまでスパイスです。

つまらなかったり、面倒くさければ、読み飛ばしてもらっても全然大丈夫です。

以上の点にご注意の上、お腹を空かせてお読みください。

 ༄༄༄ 


「すっごいすごい! おもしろいです!」


 弾むような声を上げ、その場でぴょんぴょんと女の子は飛び跳ねた。

 すっかりボウルの中で起きている現象に心奪われてしまったみたいだ。


 くりくりとした瞳はまるでダイヤモンドのようにキラキラと輝いていた。

 純真無垢に驚きを喜ぶ彼女を見ていると、悪い気はしなかったが、同時にどこかで昔の自分を見ているような感覚になる。

 

 そこで、ふと凪は疑問に思った。

 

 自分がおもしろいと思ったのは、いつだったっけ?

 そのおもしろさを忘れてしまったのは、いつだったっけ?


 ༄༄༄ 


 半時間前——


 閉館直後の科学館で、新庄凪はいつも通り雑用に追われていた。

 書類のコピー、ボランティア研修の日程調整、夏休みの子供教室に必要な物品リストの作成などなど……その内容は多岐にわたる。

 博物館で働く学芸員と言えば、来館者に展示物の開設をしているイメージがつきものだが、実際はほとんど裏方作業だ。

 

 就職したての時期はそのギャップに驚いたり不満を感じることもあったが、人間とは環境に順応し適合し、要は慣れていくものだ。

 学芸員になって二度目の夏が訪れる頃には、凪もすっかり落ち着いていた。


 職員室の一角にある作業台で凪がチラシ作りに勤しんでいると、窓からオレンジ色の夕日が差し込んできた。科学館の隣にある公園のスピーカーからは「七つの子」のメロディも流れてきて、凪は穏やかだなぁと心和ませていた。


「新庄~~、新庄はいないのか?」

 

 その空気を砕くように、大声が轟いた。


「いますよ、作業台に。チラシの山に埋もれています」


 ガシャコンと、裁断機の音をわざと立てると「おぉ! いたいた」と声を上げ、大柄の初老の男性がこちらにやってきた。

 その体格から醸し出される貫禄と声の太さから、どこぞの野球監督を彷彿とさせる風貌だ。

 彼、大岩はこの豊名科学館の学芸課長であり、名目上ではあるが凪の教育係でもあった。


「お疲れさん。聞いたぞ新庄! この前の出張授業の評判、かなり良かったんだってな? 液体窒素でアイスクリーム作ったんだろ?」


 出張授業というのは、凪が先日最寄りの小学校で実演した科学実験のことだ。液体窒素が子供たちにウケるのではないかという氷彗の予想は大当たりし、教師からの反応も上々だった。


「えぇ、まぁ。院生時代の友達と一緒に、色々と考えたので」

「テンション低っ!? 初担当の企画が大成功したんだよ? もっと、こう……ない? 相変わらずクールというかドライというか」

「喜んでますよ、これでも」


 ただ、昔から顔に感情が出にくいとは言われている。


「……まぁ何はともあれ、よくやってくれた。あそこの小学校はウチのお得意様だからな。そこでだ新庄。その腕を見込んで、お前に重要な仕事を任せようと思う」

「仕事? 何ですか?」

「来年のウチ主催の企画展に関わる重要な任務だ」

「それって……」


 チラシを作り続けていた凪の手が止まった。

 

 博物館には二種類の展示がある。常設展と企画展だ。

 前者は読んで字のごとく、常に館内に展示されているもので、その館の特色を表すようなものだ。この豊名科学館だと、大型テスラコイルやナウマンゾウの骨格体型などがそれに当たる。

 対して後者は期間限定で展示される特別なもので、イベント色が強い。昨年も企画展は何度もあったが、凪が関われたのは展示物の搬入作業と、当日の行列整理だけだった。

 しかし、来年の企画展に今から関われるのならば、きっとイベントの深い部分にも参加できるはずだ。


「どうする?」

「やります」


 凪は即答した。


 ༄༄༄ 


「皆さんお待たせしました。今回もよろしくお願いします……あ、こっちは初めてでしたね。昨年ウチに入った新人の新庄です」


 貴賓室の扉を開けると、数名が長机に並んで座っていた。ネームプレートにはこの企画展のスポンサーであるテレビ局や新聞社の他に、大学教授の物もある。


 ほとんどが凪よりも一回り年上であったが、その中に一つだけ明らかな違和感が目に留まった。


 小学生の女の子である。


 くりくりとした大きな瞳とそれを囲うメタルフレームのメガネが印象的な、可愛らしい子だった。

 髪型はやや上で結ったツインテールで、二つの黒い房は彼女の二の腕まで届いている。その白魚のような滑らかな腕は、空色のランドセルを抱きかかえていた。


「あ……」


 凪と目が合うなり、女の子は声を漏らした。

 こちらに注がれる視線の熱量が、瞬く間に大きくなっていくのを感じる。

 

 どこかで会ったっけ? と、凪が記憶を掘り返していると、女の子はタタタっとこちらに駆け寄ってきて、元気に挨拶した。


「お久しぶりです!! 先生!!」

後編へ続きます。

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