第3話-後編
「……怒ってるの?」
様子を伺うように言うと、ウィリアムは『クロエ』を籠に戻して立ち上がった。
「怒ってるのはお前なんじゃないか?嫌だったんだろ、義眼」
あえて冷えた声色でそう言ってクロエと距離を詰めると、またうつむいた。怒られると思っているのか、彼女はうつむいたまま体を強ばらせている。
「『何で生きてるのかわからない』ってお前は言ったよな」
低めの声で言うと、案の定クロエの肩がびくついた。
「だったら俺が今、決めてやる」
エインセル特有の尖耳が動いた後に、クロエが顔をあげた。その瞬間、あの時見た血を流した彼女が一瞬だけフラッシュバックした。
思わず眉間に皺がよったが、ウィリアムはなんとか残像を消すと小さく息を吸って言い切った。
どんなカタチでもいい
お前が一番望むカタチで
幸せになれ
ただし、死ぬな
エメラルドのような翠色の双眼が驚きを隠さずに丸くなっていく。
そして
「!?できるわけないじゃない!」
「ならできる方法を探せ。お前の長い生涯をかけて」
まっすぐな視線にいぬかれて、クロエは言葉を失った。いろいろ言いたいことが言葉ではなく、涙として出てきてしまった。
「あた…し……」
酷いことばかり言ったのに。
居場所をくれても、それまで蹴ろうとしたのに。
それでもまだ。
自分の幸せを願ってくれている。
「国王勅命」
と、頭にぽんと手を置かれた。
「っ………職権、乱用……」
「うるさいぞ。泣き虫」
「腹黒」
「そういえば……昨日俺が何したか言ってなかったよな」
「え?」
思い出したように溢した言葉にふと顔をあげると、左手で右頬の涙を拭われる。
クロエはくすぐったそうに瞬きひとつすると、その間にまた何かが当たった。
瞬間に映ったのはウィリアムの顔、の端。
なにこれ、近い。
おい、どこに口つけて……
口……つけて……?
カァァァ、という擬声語は、あながち間違ってはいないと思う。顔に向かって一気に熱が集中した。
高速で後退ると、ようやく声が出せた。
「な、な、なに、してんの?!!!」
「油断したな、天才魔術師さん」
必死で睨み付けると、悪戯が成功したような笑顔があった。人が見えていなかったのをいいことに、なんてことをしているのか、この国王は。
「はぁ……いつまでも子どもみたいなことしてるんじゃないわよ」
これ以上のリアクションは、奴のご満悦中枢を刺激する。気持ち的には両者共に、家族に対するそれなのだから。
一気に表情を冷まして、クロエは呆れるように息を吐いた。
「これからよろしくな、天才ツンデレ魔術師さん」
「こちらこそ、腹黒陛下」




