第1話-前編
◆第一話◆
大切なモノを失った
血が繋がってなくても
たとえ不器用でも
あたしたちは確かに家族だった
みんなで幸せを探して
必死で追いかけて
ようやくたどり着いたと思ったのに
コワシタノハ、ダレ?
あの出来事から数ヶ月。
怪我もずいぶん治ってきた。
けれど…
ガツン!
「いったぁあ!!!!」
クロエは目の前の柱に思いっきりぶつかった。その際に、抱えていた数冊の本がバラバラと落ちる。
(大体、どうして城って柱が多いの!?無駄なのよ!)
「あ~もう!!」
怪我は治ってきているが、抉られた右目は癒えることはない。歩けるようになってから遠近感を失い、度々ぶつかっていた。
「隻眼の人って大変なのね…」
今まで眼帯カッコイイなんて思っててごめんなさい。と心の中で反省する。
「あらあら、大丈夫?クロエちゃん」
「あ…ナディアさん」
散らばった本を気だるそうに集めていると、ナディアと呼ばれた白緑色の髪を持つ女性がふわふわと声をかけて近づいてきた。
白衣に身を包み眼鏡をかけたその女性は、この国に仕える魔術師の中で最高位である、筆頭宮廷魔術師の任を務めている。
「まだ怪我は完治してないんでしょう。無茶したら陛下が心配するわよ?医務室でおとなしくしてなさい」
「知らないですよ。陛下とか」
ほんわりと実に柔らかく言った彼女に対して、あたしはブスッと顔を背ける。
あれからクロエは、リヒトの消息を追うために、東の国の王立研究所に入った。
ナディアはそこの研究員も兼任しておりクロエの上司でもある。
「とりあえず、あなたの仕事場は用意するけど、完治するまで仕事は無いわ」
「え~」
「これは私が運ぶから。陛下がお見えになるわ」
柔らかい雰囲気とは裏腹に有無を言わさぬ勢いでそう言って、彼女はクロエから本を奪って背中をトンと叩いた。
「医務室にいらっしゃるそうよ。ベッドにいないとなんて言われるかなぁ~」
歌うように言われてギクリとした。
(下手すればお説教だわ…)
「で、俺は見舞いに来たのに、なんでお前が部屋の外から来るんだよ」
「ちょっと、外の空気を~」
案の定、医務室のドアの前でウィリアムと遭遇(失礼である)してしまい、今に至る。
「まだ身体の傷痛むんだろ。今度やったらベッドに縛り付けるぞ」
上から睨まれて、体が強ばった。
(やりかねない…)
「…で、あたしに何か?」
仕方なくベッドの端に座って訊ねた。
「この数ヶ月、西の国にも協力してもらってお前を発見した場所を捜索したが、リヒトが死んだという確証は得られなかった」
「身体なら一瞬で消滅してるでしょう」
「そうだ。でも北の国が壊滅的なダメージを受けたらしい」
「標的をあの場にいた兵士たちと、北の国の特定の場所なら遠距離攻撃くらいならできるでしょう。あたしの半分の魔力とエリーゼのを使えば」
あの一瞬で、魔術の素養が低いと思われていた彼が、父親以上の膨大な魔力を手に入れてしまった。
おそらく、彼の魔力の器はもともと大きかったのだ。ただそれを解放するタイミングを誤ってしまっただけ。
「あの時……」
その先は言葉に出来なかった。唇を噛んでその先を殺す。
「軍まで動かしてくれてありがとう。怪我が治ったら、あたし一人でもう一度行ってみるわ」
「…治ってからだからな。それと、ナディアの医療チームがお前に試して欲しいものがあるらしい」
「?」