表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

第0話-後編

 * * *


 ぼんやりと意識が覚醒すると同時に、クロエは右目が経験したこともない、刺すようなひどい痛みに襲われるのを感じた。やがてそれは右目だけではなく、身体中が軋むような痛みとだるさが重くのしかかる。

 身体中の包帯を見て、怪我をしたのだとようやく認識した。回復魔術に長けた妹が瞬時にサポートしてくれていたおかげで、それは久しく無縁だったから。



「起きたか……まだ動くなよ」


 聞こえてきた声へゆっくりと視線を移動させる。包帯の隙間から、ベッドサイドに腰掛けた国王である幼馴染みがいた。



「ここ、は?」

「城の中だ安心しろ」

「ウィ、ル?なん……!」



 言葉が終わらないうちに、ウィリアムが覆いかぶさったことで遮られる。寝ているクロエの肩に頭を沈めて言った。



「今は……何も言わなくて、いい。無事で、よかった……」



 声が震えていた。

 視界が半分包帯で覆われていて彼の顔はよく見えない。ただ伝わってくる温もりにクロエは心から安心した。



 * * *


「リヒトとエリーゼは?」


 クロエの問いにウィリアムは首を横に振った。


「二人ともいなかった。何があったのか話してくれないか」

「西の国の戦争終結の条約を持って帰る途中で、別の軍に襲われたの」

「北の国か?」

「あまりに数が多くて、桁違いで…リヒトを庇ったエリーゼが……死んだ」

「っ…」


 消えかかるような細く震えた声でクロエはそう言った。爪が食い込むほど強く手を握っている。



「それで、リヒトが壊れて。禁忌の魔術を発動させた。でも魔力が足りなくて、右目、()られた。あの数の兵が死んでいたなら、あたしが気を失ってる間に発動したんだと、思う。リヒトの身体は魔力に耐えられないから消えるだろうし……」

「………」

「あたしたちは…エインセルの身体は死んでも利用される。エリーゼがそうなることがリヒトは許せなかったんだよ」


 リヒトはエリーゼを愛していた。エリーゼもまたそうだった。


 こんな最期を迎えてしまうなんて。

 沸き上がってくるものが抑えられない。



「エリーゼが死んだとき悲しかった。でもそれ以上に許せなかった。エリーゼを殺した人間たちが。だから、リヒトを止められなかった。あの一瞬」


 覆われていない方の眼から涙が溢れてくる。悲しみではない、後悔と憎しみが綯い交ぜになったようなそれが。


 同調してしまったのだ。自分も。

 人間なんて滅べばいいと願ってしまった。あの一瞬。



「あたし、たちは!この世界の為に!!人間も、他の種族も混血児も。エリーゼは、みんなの為に……それが、こんな形で!!」

「エリーゼは最期に何を言ったんだ」

「!!」

「聞いてないはずがないだろ」

「……『みんなが幸せになれる世界のために、生きて』」

「その言葉をよく考えろ」


 ウィリアムはそれだけ言い残して部屋を出た。




「エリーゼ……リヒト…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ