最終話-前編
最終話になります。
「はぁ………」
クロエは手の中のグラスを傾けながら、もう何度目かわからない溜め息をついた。
あれからずいぶんウィリアムと顔を合わせていない。拒絶されることには慣れているはずなのに、顔を見るのが怖くて、魔術を使って移動してまで、クロエは極力彼を避けていた。
「クロエさんどうしたんですか?今日僕の卒業祝いなのに溜め息つきすぎです」
「あたしには友達が少ないの〜」
「知ってますー。そんなこと」
クロエが拗ねるように言うと、同じく拗ねたようにハリソンがグラスの中身を空にした。
「ハリーったらひどーい」
クロエはわざと茶化してスプーンを口に運んだ。たくさんのフルーツと程好い甘さの生クリームがとてもおいしい。
クロエは今日、王立学問所を卒業したハリソンの卒業祝いとして、甘党である彼のために、スイーツのおいしい店に来ている。
余談だが、ハートウェル家に迎えに行ったら、いろいろと誤解されかけた。
クロエが注文した通常のパフェの2倍はあるそれを、彼は容易く、幸せそうに頬張っている。
「明後日よね?城にくるの」
「はい。少しでも早くと思って」
無事首席で卒業した彼は、正式に宮廷研究員として城に招かれることになった。
「まだ研修期間がありますからね。陛下にご挨拶が済んだら、すぐに合流します」
「ふふ、楽しみね」
「で、僕のことはもういいです。どうしたんですか?」
若干睨み付けるようにハリソンは尋ねた。
最初に言ったように、実際クロエには気が置けない相手が少ない。ハリソンと知り合えたのが本当に良かったと心から思っている。
たとえ種族が違くとも。
「ちょっとね、喧嘩しちゃったのよ」
「長引いてるんですね」
あれを喧嘩と言っていいのかわからないが、とりあえず抽象した。スプーンを運ぶ手は止めずに。
「今まで結構ひどいこと言ったけど、家族とよくしてくれたから、すごく感謝してる。それなのに……顔合わせるのが気まずいのよ」
へらりと笑って息をつく。
(ほんと……何やってんだか)
心の中でそう呟いて目線を伏せていると、頬に温かいものが触れた。
「よっぽどショックだったんですね」
「そ、そんなことないわよ。今まで散々喧嘩し――」
「泣いてるじゃないですか」
それがハリソンの手だとわかると、反射的に顔をあげたら、瞬きで雫が弾けた。
「その人とちゃんと話をした方がいいですよ」
苦しそうな顔でハリソンが静かに言った。その一言で、ウィリアムの言葉がよみがえってきた。
「僕、帰ります。パフェごちそうさまでした。明後日に会いましょうね」
といつもの笑みを浮かべて、ハリソンは店を出た。




