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Astelt.1  作者: アイアー
9/24

9.

 ハクは落ち着いていた。目の前の敵に脅威を感じないからではない。隣に味方がいるからでもない。


「私が足止めする。その隙に倒せる?」


 レイシェドから、信頼されているからだ。


「問題、ない」

「うん。タイミングは?」

「合わせる。できるだけ」

「よし。じゃあよろしくね」


 森狼達が唸り声をあげて威嚇を始める。それとほぼ同時に、時雨が魔法を発動した。


「飛べ、アイスブロック!」


 いくつもの氷塊が森狼達に向かった。速度に乗り殺到するが、森狼達は難なく避けていく。氷塊は地面に突き刺さり、その場でゆっくりと溶け始める。


「まだまだ!」


 二刀を抜きはなった時雨が、さらに追撃を加える。休みのない連続攻撃を2匹に向かい仕掛けていく。だがどれも素早い森狼達には当たることはなかった。

 それでも十分だった。ハクが1匹の森狼の後ろへ回り込み首を切り落とした。


「お見事」

「次」


 残った森狼が大きく後ろに飛び退いた。


「構えて」

「ん」

「行くよ――ストーンリッジ!」


 ボコッと森狼の足元に魔力が集まり、膨れ上がる。すぐに気がつき、その場から移動しようとするが間に合わず、勢いよく地面から突き出した土柱に足を掬われた。

 時雨はそこへ一気に駆け、一刀、二刀と斬りはらう。さらに宙へと浮いたところへ、ハクが渾身の一撃を入れた。


「ん、余裕」

「大丈夫そうね」


 静かに納刀して様子を見る2人。ハクが鼻をヒクヒクと動かして確認するが、これ以上の敵の臭いはしなかった。


「終わったみたいだなー」


 片手を上げて近づいてきたのはレイシェドだ。後ろを見れば、亡骸となった森狼の姿が見えた。


「これで全部みたい」

「そうか。それじゃあ戦後処理とするか……あっちの3匹は俺がやる」

「……私は穴掘り――いえ、3匹持ってくるわ」

「え、っと……?」

「ハクは大きな穴を掘ってくれ。そっちの、道から外れたところに」

「ん……わかった」

「よし、さっさと終わらせて休もうぜ」


 レイシェドは若干疲れたような顔をしながら、先程倒した森狼へと近づいていった。

 時雨もまた、嫌そうな顔で森狼へと近づく。

 ハクはイマイチ何をするのか理解できておらず、首を傾げたままだが、道の脇、馬車が通ることのない地面に魔法を使って穴を開けていた。

 ズルズルと亡骸を引いてきた2人は、ハクが作った穴の中へ放り込む。さらにその上へ土を被せて、完全に埋めた。


「よし、馬車に戻るぞ」

「ん」


 再び商隊が動き出す。3人も元の位置に戻り、再び馬車の揺れに腰を打ち付けられていた。

 しばらくそうしていると、レイシェドは袖を引かれ、そちらを見た。そこには不思議そうな表情で見上げるハクの顔があった。


「どうした?」

「……なんで、埋めたのかな……って」

「ああ、アレか。野生種はああやって埋めておかないとちょっと面倒なんだ」


 野生種は、自然の中に生きる種族であり、魔力に侵食されている種族のことを云う。森狼もかつては動物に過ぎなかったが、永い時を経て、魔力を取り込む性質を持った森狼が現れたことによって、今の人を襲う森狼になったのだ。

 魔物種は肉体が魔力で構成されているため、肉体の活動が停止すると、空気中の魔素へと霧散していく。魔物種の素材を取る場合は、専用の袋に入れなければ、霧となり使うことができない。

 野生種は元ある肉体に魔力を帯びているだけなので、肉体の活動が停止しても、そこに残り続ける。やがて肉体は腐り、腐臭を撒き散らす……だけではなく、腐ってもなお残る魔力を求めて、魔物種が寄ってくるのだ。

 異常事態を引き起こさないためにも、戦後処理は大事なことであった。


「埋めずに燃やし尽くしてもいいんだけど、そっちは少し時間がかかるし、臭うんだよな」

「……お肉、焼くといい匂い……しない?」

「残念ながらな。血抜きされてないから余計に臭いがキツイし、料理では調味料を合わせて焼くからいい匂いがするんだ。間違っても直接焼こうなんて思うなよ。地獄を見るぞ……」


 血生臭さを思い出し、無意識に口を抑えるレイシェド。過去に、廃墟となった場所で戦闘後、焼くことによって処理をしようとしたことがあった。もちろん酷い臭いが充満し、外へと中々出ていかない悪臭に、当時の旅仲間と一緒になって吐いたものだった。

 二度とあんな体験はするものかと、レイシェドは心に誓っていた。

 時雨のほうへと視線を向けると、口を押さえて顔を背けていた。同じ経験があったんだと2人はすぐに悟った。



 *



 あれから、一度も戦闘することもなく<タッコナ>に到着した。森を切り開いて出来た小さな村は、<トゥール>のような活気があるわけでは無いが、<アサケリ>に向かう商隊の中継地点として利用されている。

 非常に小さな村ではあるが、村全体に魔物除けの魔道具が使われていたり、それなりの大きさの宿泊施設が用意されている。

 商隊の人間は宿泊施設を利用するため、馬車を専用の場所へと止め、馬は馬小屋へと連れて行った。

 残されたレイシェド達は、商隊に同行する契約の一つ、積荷の護衛があるため、この馬車の中で一晩過ごすこととなる。


「……18時か。微妙な時間だよなぁ」


 懐中時計を眺めながら呟く。<アサケリ>に向かうのに、まだまだ馬車で進む必要がある。暗くなると、道がわからなくなる上、魔物種が活発になるので出来るだけ行動は避けたい。商隊の人間としては、まだ明るいうちに<タッコナ>にたどり着け一安心といったところだろう。


「……これから、どうするの?」

「どうしようかねぇ」


 冒険者であるレイシェド達にとっては、暇で仕方がないのだが。


「村の中を見てきたら?」


 自分の荷物の中から、干し肉を取り出して齧っていた時雨が提案した。


「<タッコナ>って見て回るほど……いや、そうするか」


 馬車から降りて体を伸ばす。流石に固まっていたのか、関節から小気味よい音がする。

<タッコナ>には観光するようなものなどはほとんど無いが、気分転換も兼ねて歩こうと考えた。

 後ろについてくるハクを見て、そういえば、と思い出す。


「(社会見学的な……こういう村も見せといたほうがいいんだろうなあ)」


<トゥール>はレンガやコンクリート等を使用した建造物ばかりだったのに対し、<タッコナ>の家屋のほとんどは木組みでできている。その景観が珍しいのか、ハクは静かに目を見開きながら見渡していた。


「あっちの店の方へ行こうか。店はまだ……やってるだろ」

「ん!」


 村の中央は大きな広場になっていた。それを取り囲むようにして家屋が立ち並ぶ。表には野菜や魚が置かれていた。

 近くに寄ってみると、値札も貼られている。


「あら、いらっしゃい」


 奥から出てきたのは、おっとりとした雰囲気を出す女性だった。見た目にしても30代前半ほどだろうか。


「冒険者さんかしら」

「ああ、<トゥール>からな。商隊に乗っけて貰ってるんだ」

「ああ、クレヴァンさんですね。この時期はよく通ってるんです」

「へえ。商隊から野菜とか輸入してるのか?」

「ええ、といっても全部では無いですけど」


 野菜を見れば、様々な種類があることがわかる。<トゥール>の売り場のように大量の種類があるわけでは無いが、一通りのものは売っているようだ。

 ハクが首を傾げながら、質問をした。


「……野菜、育ててる?」

「ええ、この村の裏手に生産場が。近くには湖や川があって、そこで魚も取れるんです」

「近くに畑ね。襲われないのか?」

「野生の動物が、餌を求めてやってくることはありますね。魔物は魔道具で防いでいますが」

「大変だな」

「ええ。村の男がなんとか。極稀ですが、盗賊も来ることがあるので、冒険者さんにも依頼を出しているんです」

「へえ?そんな依頼票見たことないな……」

「募集すれば直ぐに駆けつけて頂けるので……」

「あぁ、そういうことね」


 依頼票は基本早い者勝ちという事になっている。割りのいい依頼は、競争率が高く、受付開始からものの数秒で無くなることもあるようだ。


「ん……」


 商品棚の一角、隅の方に果物が置いてあることにハクが気がついた。赤い果実……林檎に

 目が釘付けられている。


「はは、林檎、3つ頂けるか?」

「3つですね?」


 棚の後ろから紙袋を取り出して、色の良い林檎を3つ詰める。大きさも程よい大きさで、紙袋から少しだけ溢れ出ている。


「330エルクになります」

「ほいほい、っと」


 魔法鞄から布袋を取り出して、その中から硬貨を取り出す。330エルク分を手渡した。


「ちょうど、お預かりしますね」

「それにしても、ちょっと高いんだな」


<トゥール>の林檎は、おおよそ一つ90エルクだ。まとめて売り出されていることも多いので、3つ入りで270エルクが標準的だ。


「ここに、果樹園が無いですからね」

「あー……そういえば」


<タッコナ>には果樹園がない。林檎は他所から輸入するほかは無いということ。比べて<トゥール>には、かなりの大きさを誇る農場エリアが存在し、その中には果樹園が含まれていることを思い出した。林檎自体は人気もあるため、多少値が張っても売れるということだろう。


「野菜って何を育ててるんだ?」

「そうですねぇ……ジャガイモやニンジン、キャベツやトマトとか……よく使う野菜は育てているわ」

「必要最低限の自給自足はしてるってことか」

「お米は無いけどね」

「小麦は育ててるんだろ?あっちの建物、パン工房みたいだし」


 ほんの少し離れた建物を指差す。煙突が備えられており、店が開いている様子こそ無いが、色あせた看板がパン工房であることを主張していた。


「よくわかりましたね。でも最近、小麦農場が良くないみたいで……パンもお預けなんですよ」

「良くない?何かあったのか?」

「詳しくはわからないんですけど……気がついたら荒らされていたらしくて」

「ふむ……夜の間?」

「恐らくは夜かと……」

「そうか。一応警戒しとくよ」

「はい。村に直接的な被害は出ていませんが、万が一ということもあるので気をつけてください」


 八百屋から離れた2人は、さらに村の中を散策してみた。他にも販売所があり、いくつかを回ってみたところ、品切れのものや値段が相場より高い物がチラホラと見受けられた。話を聞いても、どれもが生産場の襲撃を受けてのものらしい。


「依頼した冒険者は?」

「今はあそこに住んでもらってますよ」


 依頼票がすぐ無くなるようなクエストだ。割りのいいクエストだからとサボっているんじゃないか確認してみたくなった。場所を聞けば、借家に住むらしく、村の一角にあった。


「ちょっと話を聞きに行くか」

「ん」


 戸を叩いても反応は無かった。中に人の気配も感じず、鍵もしっかりと閉まっている。


「外出中か……会うなら探すしかないか」

「ん……臭い、わかりにくい」

「まあ扉から臭いを感じるのは難しいだろ。農場の方だけチラッと確認しに行って、馬車に戻ろうか」

「ん!」


 次に2人が向かったのは、農場だった。いくつかの区画に分かれて、野菜や穀物が育てられている。畑を区切るように敷かれた道を歩き、森に面している場所にたどり着いた。


「……これかな」


 ジャガイモ畑なのだが、一部が掘り起こされていた。乱雑に掘り起こされたのか、穴はいくつも出来上がっており、茎や葉は散乱していた。

 よく見てみれば、別の場所でもいくつかが同じ状態になっている。


「これは酷いな。……イノシシとかじゃないような感じがあるけど」


 土を周りから掘り起こした状態だ。野生動物のように、直接実を掘りにいっていない。


「そこで何してる」

「うお!?」

「んっ」


 突然、背後から声をかけられて飛び上がる2人。振り返れば、片手剣を片手に持った青年がいた。


「ここで何をしていた?」

「あー、っと……畑が襲われたって聞いたから様子を見に、な?」

「……本当か?」

「本当だぞ」

「……そうか。悪かったな」


 片手剣を納刀して謝罪をする青年。胴や腕に鉄の防具を着込んでいることからも、冒険者だということがわかった。


「冒険者だろ?これ、何があったんだ」

「わからない。夜の警備もしていたのだが、気がついたらこの有様だ」

「気配とかは?」

「俺には全く感じられなかった」

「隠密が得意な盗人がいるかもしれないのか」

「何か情報を得られたらと思い、少し細工を……あ」

「どうした?」

「……ギルドカードを見せてもらえるか」

「いいぞ?」


 2人がギルドカードを取り出して見せる。青年が見ると、血相を変えて飛び上がった。


「レ、レイシェド!?」

「おう」

「な、なんでこんなところに」

「いちゃ悪いか?」

「い、いやいや滅相もない!……さっきまでの態度は忘れてくれ」

「おう」


 慌ててギルドカードを返す。それと同時に、青年もギルドカードを取り出してレイシェドに見せた。


「俺はリデウスだ」


 カードには、確かにリデウス・ゴータと書かれており、冒険者ランクはB −と表示されていた。


「互いに身分証明できたな。んで、何を言いかけていたんだ?」

「あ、ああ。荒らされている場所を回ってみて、ある程度の予想を立てたんだ。次はそこに映像記録結晶を隠し、対策をした上で迎え撃つつもりだった」

「俺たちが盗賊の可能性もあったから、しまった!って顔したんだな。まあちょっと迂闊すぎる」

「すまない。しかし、レイシェド、さんも、協力してくれるのか?だとすれば回りくどい事はしないで済むのだが……」

「首突っ込んじまったから手伝うさ」

「ありがとう。報酬の一部はそちらに……」

「いやいい。俺らは商隊に乗せてもらって動いてるから、今日しか手伝えないしな」

「しかし……」

「気にすんな!それより、次の予想場所はどこなんだ?」

「あちらの……人参畑か、向かいにある小麦畑だと思われる」

「じゃ、夜に来るから。あとは頑張ってくれ」

「え、ええ……」


 それじゃあ、と軽く挨拶を済ませ、その場を後にした。


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