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Astelt.1  作者: アイアー
7/24

7.

「相変わらず本が好きなんだな」

「最近出た小説でね。面白いんだこれが」

「ふぅん、気が向いたら書店でも覗いてみるわ」

「是非そうしてくれ。ところで一体なんの用だったんだい?というかそっちの子供は……」

「何から説明すべきか……まあ、聞いてくれ」


 レイシェドは、ハクについてのこと、旅に出る事などを簡易的に、かつ分かりやすく説明した。


「……なるほど。北の大陸にか……シェドは問題ないだろうけど、その子は大丈夫なのか?」


 スッと視線をハクへと向ける。彼としては白狼族の強さはわかっているが、小さな少女にあまり強さがあるとは思えなかった。

 ハクは、そんな視線を受け、反射的に体を強張らせた。


「……あ、そういや自己紹介してなかったね。僕はテルディ・ベルアだ。トゥール国騎士団第二騎士団団長を勤めさせてもらっている」

「第二……騎士団?」

「国を守る暑苦しい奴らのことだ。気合いと根性で物事を解決しようとする」

「え……」


 レイシェドの説明を聞いたハクは、困惑した様子でテルディをみる。もちろん、テルディは彼自身がふざけている事はわかっていたが、純粋に信じ込んでいる彼女を見て、意外な顔をした。


「暑苦しいのは一部の人だけだから安心してね。気合いと根性だけじゃ世界も回らないしね。……それにしても、簡単に信じちゃうんだな。信用されてるね、シェド」

「ボケ潰しされた気分だがな」


 嘘だったことに気がついたハクが、無言のまま頰を膨らませてレイシェドの腕を叩いていた。


「ちなみにテルディを略してテディだ。呼びやすいだろ」

「……かわいい」

「だってよ?」

「あはは。最初はなんだよそれって思ってたんだけどね。あだ名として使っていると、部下の人たちとも距離を近づけやすくなって良かったと思うよ」

「感謝しろよ」

「だったら君の『シェド』っていうのも、僕に感謝してもらわないとね」

「……?どういう、こと?」

「別になんて事のない話だぜ。俺があいつにテディってあだ名をつけて」

「僕がシェドというあだ名をつけた」

「ま、そんだけの話だ」


 素っ気ない口調でそういうが、レイシェドは多少気恥ずかしいのか、顔をそらしていた。


「それで出発はいつなのよ」


 手に紅茶を入れたティーカップを用意して、話に戻ってきたのは、


「明日出発予定だ。<アサケリ>に向かう商隊を探して行くつもり。お前ならその辺詳しくないか?メアリス」


 赤茶の髪を垂らし、しかめ面を作る彼女は、メアリス・ベルア。かつてはテルディを含めて旅をしていたこともある。


「商隊って、輸出入団体でしょ?あいにく今は販売所くらいしかわからないわよ」

「主婦してんな……」

「なによ、おかしい?」

「いや別に?昔からは考えらんないなと思って」


 旅をしていた時のメアリスといえば、バーサーカーの如き、戦いの化身かと思えるほどの凶暴っぷりであった。レイシェドにとって、自分が暴れたかったが、彼女のストッパー役を買って出ることも一度や二度ではなかった。


「ふぅん?なら試す?蹴散らしてやるわよ?」

「あ?」

「ん?」


 売り言葉に買い言葉。一触即発の雰囲気になり、隣にいるハクもおろおろと困惑している。そんな横から、突然手が伸びた。


「はいそこまで。君たちほんと仲がいいよね」

「「よくない!」」

「めちゃくちゃ仲良いね」


 呆れながら手を戻すテルディ。ストッパー役としては彼の方が何十倍にもその役目を買っていた。当然ながら仲裁という形も多々あった。


「シェド、明日出発の商隊なら、10時に出発予定だったはずだよ」

「お、そうか。だったら準備もあんまり急がなくていいか」

「乗せてもらえるように交渉もするんだろ?そんなに余裕があるとは思えないけど?」

「まあ10時までに交渉すれば、なんとかなる。まだ旅の荷造りもろくに出来てないけどな」

「あんたのんびり過ぎない?まあいいわ、今日は食べていきなさいよ。私が作るから」

「まじ?」

「ええ、期待して待ってなさい」

「そりゃ楽しみだ。なあハク」

「ん……!」

「きっとエスカルゴとか出してくるぜ」


 研ぎ澄まされ、銀に輝く包丁がレイシェドの脇を通り壁に刺さった。



 *



 夕食を食べた後、再びレイシェドとテルディは話し合っていた。横には静かにハクがついている。


「旅の目的はなんだった?」

「二つだな。一つは北の大陸での、魔物の凶暴化に対する応援。もう一つはハクの社会科見学みたいなものだ」

「コバルさんに面倒を見るように言われてるんだったっけ。それにしても白狼族とは、久しぶりに見たね」


 スッと手を伸ばすテルディ。しかしハクは避けるようにレイシェドの後ろに隠れてしまった。


「あ、あはは。怖がらせたかな」

「ハク?こいつは悪いやつじゃないし、大丈夫だぞ」

「……ん」


 再びレイシェドの横へと戻る。しかし小さな手は、レイシェドのズボンを握ったままだ。


「本当に懐いているね。ちゃんとお兄さんしてるじゃないか」

「無理がある設定だと思うんだけどなぁ。まあ依頼として受けちまった以上は、仕方ないんだけどな」

「シェドはそういうところ、しっかりするよね」

「冒険者なんだから当たり前だろうが」

「はは、確かにそうだ。……なあシェド、最初に旅に出た理由、覚えているか?」

「あ?……覚えてるぜ。お前は騎士団へ入るため。俺は冒険者としての道を進むため、だろ」

「そう。だけどシェドはそれだけじゃなかっただろ」

「そりゃあまあ……そうだが。見つからねえもんはどうしようもないんだよ」


 ガリガリと頭を掻いてため息を吐く。レイシェドがかつて旅をした目的は、二つあった。一つは、冒険者にとって<はじまりの街>と呼ばれる、<トゥール>に来たかったこと。そしてもう一つは、記憶が薄れるほど昔に、再会の約束をした少女を探すことだった。


「手がかりは?」

「無え」


 12年前。レイシェドが5歳の頃、一ヶ月ほど滞在した西の森。そこには母の友人である魔女が住んでおり、その子供と約束をしたのだ。姿、声は朧げで掠れて思い出せない。


「けど、こいつを返さねえと」


 そう言って取り出したのは、銀の指輪だった。指輪の台座には、七色に輝く鉱石が嵌め込まれている。


「持ち歩いてるの?」

「いつでも返せるようにな。あ、もちろん時止めの保護と物理耐性の保護は欠かしてねえ。傷でもつけたらとんでもねえからな」

「いつもは魔法鞄の中に入れてるのか?」

「いや、次元箱(ディメントボックス)に入れてる。ここなら消滅の心配もない」

「はあ?」


 思わずテルディが声をあげた。

 魔法鞄とは、鞄の中身が空間魔法により拡張され、鞄の口に入る大きさならばだいたいが収納できるというもの。グレードによって最大個数は変わるものだが、レイシェドが持つものはかなりの高グレードのものだ。

 しかし魔法鞄にも欠点があり、鞄そのものが消失すると、中身も全てが消え去ってしまうことにある。

 そしてレイシェドが持っているもう一つの道具は、次元箱。こちらは片手で持てる程度の大きさの箱で、普段はベルトなどに通して持ち出されている。

 内容量はあまり多くはないが、非常に頑丈で、中身を統一できることにある。

 情報を統一してしまえば、次元箱が消滅しても、別の次元箱から取り出すことができるのだ。

 次元情報はギルドが管理しているので、紛失することはまずないだろう。

 しかし、セキュリティ性が非常に高いことや、生産が難しいことから、かなりの高額アイテムとされていた。


「当然だろうが。大事なものを入れるには便利なんだぜ?次元箱(ディメントボックス)

「でもそれ、100万エルクはしたような気がするんだが」

「ああ、わりかし値が張るんだよな。……家にもう一個予備があるけど」

「君のお金のかけ方は少しおかしい」


 つい額に手を当ててため息をこぼすテルディ。少なくとも一緒に旅をしていた時は、もう少しお金に関しての常識があったと思い返していた。


「余裕あるからな。まあそれよりも、そっちの目的もちょっと考えてる。長いこと西に居たけど、見つからねえし……別の大陸にいるかもしれないしな」

「……希望的観測で探すの?」

「まあな。会えたらラッキー。そんなもんだろ」

「……名も姿も覚えてないなら、仕方ないか。でも、本当に何の記憶もないのか?」

「5歳の頃だぞ?覚えてなんか……ああ、いや」

「シェド?」


 記憶の断片が、脳裏をかすめる。ほとんどが靄に包まれるように思い出せないが、それでも刻まれた記憶があった。


「……あん時は、おとなしいやつだったかな」

「あの時って……今はわからないな」

「そーいうこった」


 お手上げというように手を振り上げるレイシェド。西の大陸で名を馳せれば、再開ができるかもと思っていたが、それもうまくはいかなかった。


「けど、追いかけて、待って、次は追いかける番。運がよけりゃとっ捕まえる」

「ほんと諦めが悪いね」

「取り柄だろ?」

「違いない」


 2人は笑い合う。

 時が経ち、立場も大きく変わった2人だが、それでも気の置けない友人であることには違いなかった。


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