ヌケガラ
蝉のヌケガラが木の枝に止まってた
まるで
生きているままのような姿で
蝉はせっかく殻を破っても
すぐに命が終わってしまう
でも
この世にある命に
意味のないものはいないんだろう
生まれて何日目だったのか
ヒヨドリがその何日目かの蝉を咥えていた
「他の命の長い虫にしてあげなよ」
そんな残酷なことを呟いていた
長さが関係あるのかな
長く生きられるモノであっても
もしかしたら何日目かもしれないのに
誰だったらよくて
誰だったらだめなんて
そんなことあるわけないのに
ふとそんなことを考えたら
私のヌケガラが
そこにあった
大きな大きな
人間の形をした
ヌケガラ
ああ
私、そっちに行っちゃったの?
ヌケガラを揺さぶったよ
戻ってきて
戻ってきてよ
って
でも
違った
前の自分を脱ぎ捨てたんだ
それは
何時間、何日、何週間、何カ月、何年
生きた自分かわからないけれど
さよなら
それまでの自分
って
脱いだんだった
だから
戻ってこなくって
いいんだった