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序章 光と闇
吸い込まれていく。
右も左も。上も下も。
吸い込まれていく。
腕も脚も。顔も胴も。
吸い込まれていく。
前も後ろも、全部、吸い込まれていく。
闇の中を、わたしは浮いている。
濁流の中で、静かに浮いている。
ああ、わたしは消えていく。
どんどん気持ちよくなっていく。
気持ち悪いけど、気持ちがいい。
死ぬって、こういうことなのかな。
ぐわんぐわん、ゆりかごが揺れた。
水が揺れた。
ふわふわと、そして水を突き抜ける弾丸のような、鋭い声。
なにかが、どこかに触れた。
温かい。
弾丸が、また突き抜けた。
さっきよりも、水が薄い。
徐々に輪郭が蘇る。
わたしの手が、誰かに握られている。
後ろから握られている。
身体が抱きしめられている。
手のひらも、抱きしめられている。
温かい。
誰かが叫んだ。
わたしの心へ叫んだ。
開かれたままの手が、閉じられていく。
体を包む水が消えた。
意識はまだ、ぐわんぐわんする。
水は消えたけど、まだ残っていた。
わたしの目の周りに、貼りついていた。




