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ゲット・アウェイ・ガールズ  作者: 中條利昭
第一部 〈あの光〉篇
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終章 その後

 車を走らせながら、メアリとシオリは、ユリアとフミが研究所で体験した出来事を聞いていた。〈(メロウ)〉から出されてすぐに腕輪をつけられたこと。「部屋の数が足りない」と言われ、マヤとマユのいる部屋に入れられたこと。リザがルーインにくっついてやってきたこと。一緒に住むようになったこと。

 食事が与えられたこと。ルーインに監視されながら夜に外へ出たこと。他の部屋の少女たちと話したこと。


「双子の部屋に入れられたところから、全部罠だったんだろうな」


 唾棄するようにメアリは言う。してやられてイラついているようだが、疲れているからか、それともフミを助けられたからか、落ち着いた様子で、あまり殺気立ってはいなかった。

 ユリアが尋ねる。


「やっぱり、あのふたりは敵だったってこと?」

「それしか考えられねえだろ」


(あのふたりがルーインやサドの側の人間だったとして、)


 メアリの横顔越しの、赤く沈み始めた空を見ながら、シオリは思った。


(最初から仲間だったのかな。それとも、ユリアたちのように連れさられ、仲間になったのか)


 〈あの光〉を作ったというサドが黒幕なのは確かだ。

 それならば、ルーインはどういった立場なのだろう。


 ―― 同じ〈あの光〉の被害者同士なんだから仲良くしようじゃないか。


 初めてルーインと対峙したとき、そう言われた。

 被害者なのだとしたら、どうして加害者の仲間になるのだろうか。


「なんだシオリ。オレの顔になんかついてんのか」


 メアリはシオリへ流し目を向ける。

 今の疑問を話す気にはなれなかった。問いかけたところで、メアリが正解を知るはずもない。別の疑問を口にした。


「どうして〈魔力(マ・ラギ)〉が使えたんだろう、って思って。腕輪つけてたのに」

「あいつらの腕輪だけ偽物だったんだろ。こういうときのために。つまり、オレたちの襲撃も、ルーインに勝ったことも、すべて策略の内だった、ってわけだ」


 車が大きく上下に揺れた。この道は(道と呼べたものではないかもしれないが)凹凸(おうとつ)が激しい。スピードを出していなくても、ときどきこのように揺れてしまうのだ。傷だらけの体には、なかなか堪える。メアリも同じだろうが、彼女は悲痛な表情を浮かべなかった。


「フミ、ユリア、気分悪くなったら言えよ。シオリも、ここに来るまで何度か吐いてんだから」

「二回だけだよ」


 ミルサスタにたどり着いたときと、研究所に着く前夜。

 はい、と後部座席のふたりは声を揃えた。

 それから少しの間、誰も話さなかった。気まずいと思ったのだろうか、ユリアがバックミラーに映るメアリへ言った。


「マヤさんはなんでリザだけを連れ帰ったんだろう。もうひとりくらい――なんとかすれば全員を連れ帰ることもできたかもしれないのに」

「知らねえよ」


 再度、沈黙が訪れるが、それを破ったのもメアリだった。


「……なあ、あのリザってガキの〈魔力(マ・ラギ)〉はなんだ?」

「え? 知らない」


 シオリも「そういえば」とまばたきする。


「あいつは何者だ」

「何者って……。ミルサスタで唯一生き残っていた女の子だけど」

「あの、血まみれだった町でか?」


 メアリたちゲット・アウェイ・ガールズは、シオリがユメと遭遇した頃、ルーインを追ってミルサスタにいた。雨が降る前のあそこは、死体が片付けられていても無残な姿だった。


「でも、リザは〈あの光〉のときずっと家に閉じこもってた、って言ってたよ。嘘をつく子には思えないし」

「……それもそうか。いや、ちょっとな。引っかかってたことがあって」

「なに?」

「リザは特別扱いされてたんだろ、フミ」

「は、はい」


 メアリの後ろで、フミはシートベルトをつけながらも前のめりになった。


「あいつらは、オレたちよりも、リザを手の内に置きたかったんじゃねえか?」

「どうしてでしょうか」

「さあな。だが、もしだ。もし、あいつが内陸で一番でかい町をひとりで破壊したのだとしたら、手の内に置きたいのも、頷けるだろ」


 そんなことが、本当に起こり得るのだろうか。

 それはわからない。

 リザの無邪気な笑顔を思い出すと、そんなわけはないと信じたくなる。でも、彼女の掴みどころのない性格を思うと、あり得ない話ではない気がしてしまう。


「気がかりなことがあるんだけど、いいかな」


 ぼそぼそとしたユリアの声。


「ああ」

「リザちゃん、腕輪を付けられてなかったの」

「え」


 シオリとメアリは同時にこぼした。

 全員がつけているものだと思っていたから、一緒にいるときもまったく気に留めていなかった。


「腕輪を? どうして」

「〈魔力(マ・ラギ)〉を使えないから付けられてないみたいだよ、ってリザちゃんは言ってた」

「〈魔力(マ・ラギ)〉って何かのきっかけで突然使えるようになるものだろ。突然使えるようになったりしたら、まずいんじゃないのか?」

「ユリアもそう思うけど……」


 あー、とメアリはハンドルを細かく指で叩く。


「他にもなんか、喉に小骨がいくつもひっかかってるような感覚はあるんだが、その正体がなんなのかがわからん。ああ! ムカつく!」


 ハンドルを強く叩くと、けたたましい警笛が鳴った。






 その後、少し寄り道をした集落に車を止め、一晩過ごすことになった。


「さて。これからどうしようか」


 四人は顔を合わせて話し合った。

 まず、臨海部で盗みを続けるかどうか。つまり、政府やサドたちへのアピールをするかどうか。おそらく今さらなんの意味もなさないだろう、という結論に至り、やめることになった。

 だがシオリはハイドを探さなければならない。その事情をメアリとフミにも伝えたところ、臨海部へ向かうことが決定した。

 しかし問題がある。サングラスが必須となることだ。シオリのものもルーインに踏み潰されてしまったので、サングラスはユリアの分しかない。


「ユリア、サングラスを貸してくれないかな。私が行くよ」

「年齢的にオレが一番自然だと思うが」

「サングラスかけたいの?」

「かけたくねえよ、あんなださいの」


 こうして、メアリが臨海部に入ってサングラスを購入する手はずになった。

 翌日、フェンスの穴にほど近い村まで戻り、休憩を挟んでから臨海部へ向かう。


「お前らは休んでりゃいいのに」


 メアリはひとりで行くと主張したのだが、他の三人は許さなかった。しぶしぶと言った様子で、メアリが折れたのだ。

 境界の森の出口が見えたのは、昼過ぎだった。初めてシオリたちがこの場に来た時分よりも、少し早い。

 ずっと向こう――海の方面には青空が広がっていた。ホルンの町並みや海は、倉庫で隠れていて見えなかった。


「まじかよ」


 最初に異変に気づいたのは、メアリだった。


「どうしたの?」

「声を落とせ」


 メアリは小声で話し始め、フェンスの側へ指を向ける。


「あれ、見ろよ」


 三人は、言われるがままに、首を向ける。そして、同時に「あっ」と目を見開いた。

 フェンスが修復されていたのだ。その上、警備員が数人(たたず)んでいる。格好からして、警察官ではなく、警備を専門としている民間業者の警備員だろう。


「これじゃあ、出られないね」


 少なくとも、誰かが内陸と都市部を出入りしていることは、すでにバレているらしい。ユメによると、とっくにバレていたが放置されていた可能性もある。このタイミングでフェンスを修繕し、警備を置いたということは、「もうここを使うな」という政府からの警告だろう。これまでも逐一テレビやラジオで情報を確認していたが、このことは一切報じられていなかった。


「あいつらぶっ飛ばすか?」

「そんなことをしても意味がない。あの人たちはきっと、内陸部には誰ひとりいないと思ってる人たち。政府の立場や事の全体図を把握するまでは、私たちの存在は知られてはいけないと思う」


 ユメから聞いた話が脳裏をよぎる。

 みんなに混乱を与えるだけじゃ、ダメなんだ。


「じゃあ、ここで足踏みしてんのか?」


 三人は押し黙った。メアリも何も言わず、腕を組んで考えを巡らせている。

 二分ほど経ったときだろうか。フミが「あ、あの」と目を泳がせながら提案した。


「一旦、〈血の研究所(メ・サイコ)〉へ行きませんか? 黒幕を直接問いただすのが早いかと」

「案外大胆なこと言うのね……」

「だ、だめですか?」

「だめじゃないよ」


 シオリは微笑む。

 涙目でうろたえるフミの頭を、メアリが撫でた。


「フミ、ナイスアイデアだ。そうしよう。またあそこまで車を飛ばすのはつらいが、ここで待ってるよりはマシだろ」

「そうね」

「うん」


 すると、お日様のように、ぱあっとフミの顔が明るくなった。しっかりとした子だが、このような表情には、年相応の幼さがある。


「じゃあ戻ろう」


 内陸部へ踵を返して踏み出す。数歩進んだところで、シオリは振り返り、臨海部の空を見上げた。綺麗な空だった。一度あの下へ出たことが、遠い昔のように思える。

 でも、それよりもずっと昔の出来事――村を出たときのことは、なぜだかあまり遠くに感じない。

 今までのこと、そしてこれからのことに、シオリは思いを馳せる。

 この旅はいつまで続くのだろう。ハイドに会って、いろいろ教えてもらってそれで終わり、なんてことは、なかった。まだ会うことすらも叶っていない。想像もできないことばかりだった。

 知らないことを知るのは楽しい。でも、ちっともワクワクしない。怖かった。

 この怖さはいつまで続くのだろうか。きっと、まだまだ続く。

 シオリはぎゅっと目を閉じ、胸に手を当てた。

 なにを願うでもない。なにを思うでもない。ただ、ぎゅっと目を閉じ、ゆっくりと開いた。

 目がくらむほど、太陽が眩しかった。






(第一部 了)

ゲット・アウェイ・ガールズ第一部を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

慣れないバトルものに手こずりながらも、なんとかここまで書き紡ぐことができました。

一言でも感想などを下さるとたいへん喜びます。


次回から第二部幕開けですが、その前にひと月ほど休憩を頂き、五月から連載を再開しようと思っています。また、本業との兼ね合いで連載曜日は変更すると思います。たぶん水曜日になるかな……。


では、またお会いしましょう。


2019年3月末 中條利昭


P.S.

四月のどこかで第二部のあらすじを投稿するつもりです。

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