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主人公と王子がまるで空気ですがお付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願いします!
「分かりました…」
さすがのクロードさんも一瞬目を見開いて、深刻そうに小さく頷いた。
なんか、すみません、と小さく頭を下げてからあれ?なんで俺が謝る必要があるんだ?と思い直す。
まあ、兎にも角にも、急いで彼を玄関に入れて扉を閉めた。
助かりました〜とため息をつく男は薄汚れた外套を脱ぐ。
依然、顔の大抵はフードに覆われているが隙間から泥がまみれた髪が覗く。
かろうじて金髪だとわからなくもない程度のそれからぽたりぽたりとしずくが落ちる。
「……まさか、おひとりで来られたなんて言わないですよね」
「当たり前じゃないか。騎士団が動けば大事になるからね、連れてきていないけど」
…となれば裏の方か。
なるほど、道理でトルネオがいないわけだ。納得した。
アレがついているというのならばむしろ騎士団なんかよりよっぽど安心であるが。
それにしても馬鹿な真似には違いない。
「まるで貰ったばかりのおもちゃにはしゃぐ子供みたいじゃないですか」
「今の私にそんな口を聞くのはお前とあいつくらいかな、ペテルバンシー」
「その寒い名前で呼ぶのはやめてください。ここではバンスと名乗っています」
「ふーん、バンスねえ、なかなかいいじゃない。
じゃあ私のことはレイとでも」
ぼそぼそと話す俺たちに痺れを切らしたのかクロードさんは大きめの咳払いをした。
お嬢様が離れたところから、見るからに怪しいずぶ濡れの男を怪訝な険しい目付きで見ている。
おっと…すっかり忘れていた。
「アルトステラお嬢様、クロードさん、こいつは俺の遠い親戚でレイといいます。
王都に向かう途中、この雨で立ち往生してしまったらしく…申し訳ないのですが、少しの間邸に置いてやっていただけないでしょうか」
「突然、このような時間にこのような薄汚い身なりで大変申し訳ございません。
どうか、お願いいたします。せめてこの雨が止むまでだけでも」
……嘘は言っていない。とおもう。
芝居がかったレイのセリフと動作に白けた顔をしてしまいそうでそれを隠すのに苦労した。
レイの演技力はそこそのものだ。立場的にもそうであるべきだしな。
でも、なまじ古くから知っている者のそういう姿をみるとゾワゾワとするものがある。
お嬢様はレイの変貌ぶりに面食らったようだったが、未だ警戒心は解かないままに、それでも、バンスのご親戚の方をこの雨の中放り出すわけにはいきませんわね。と言って笑みを見せた。
それは優しさなのかもしれないけど貴族として決して褒められることじゃないぞ、お嬢様。
まあ、この場合に限っては助かったのだが…。
「おお、なんと寛大な!さすがルーファス公爵家のご令嬢様ですね!」
「……貴方、わたくしのことご存知ですの?」
「ええ、もちろんです。アルトステラ・リンジー・ルーファス様。
最後まで献身的にエルレイン殿下を支えていたにも関わらず、馬鹿な王子に浮気をされ捨てられ、断罪された悲劇のお姫様。
ね?そうでしょう」
「おいっ」
悪意のなさそうな声で淡々と告げられたそれにお嬢様はみるみる青ざめた。
横からニヤニヤする唇が見えて俺は慌てて声を上げる。
まったく少したりとも大人しくしていられないのか…まさか、王都でもこんなんじゃねえだろうな。
ここだからだよな?わざとだよな?
俺の視線に気づいたのか意味ありげに口元だけでにやりと笑った。
「…貴方は…」
「おや、なんでしょう?アルトステラお嬢様」
「よーうし!わかった、このままじゃ風邪をひきかねませんからね、俺の部屋に連れて行ってもいいですか?お嬢様」
やめてくれ、これ以上爆弾を落とすのはやめてくれ。
それに聞きたいことが山ほど、それはそれは山ほどある。
無理やりレイを引っつかんで言うとお嬢様は少し考えてから、ええ、そうね。と言った。
お嬢様、ちょろくてどうもありがとう!
「そうだね、そろそろ私も隠れなきゃね。
もうじき鬼が来るよ」
「鬼?」
深深と礼をしてからホールを飛び出して扉をしめてすぐ、レイはそう言った。
レイはそれには答えず、ふふんと笑った。




