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噂によるとどうやら彼はクズらしい。(web版)  作者: 紺野
噂によるとどうやら彼はクズらしい
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いつも、ご感想、ブックマーク、評価ありがとうございます!

励みになっております。

そろそろ順次お返事をさせていただこうと思います。

お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

これからもよろしくお願いいたします!



「さあ、姉さん」



イゾルテ邸を出て半刻は経っただろう。

馬車は漸く止まった。

リヒテンがわたしの手を柔らかく引いて外へと促す。


わたしはやけにドキドキしていた。

今まで2年あまり、領主代理をさせてもらっていた地だ。

リヒテンや使用人から事細かに報告は聞いていたとはいえ、降り立つのもイゾルテの人々と触れ合うのもはじめてのことである。

イゾルテの人々は果たして、本当に笑って暮らせているのだろうか…。

たしかにわたしは彼らを知り、触れて会話をするべきである。

王都にいたころは時間を見つけては領地を視察しに行ったものだ。

もちろん楽しい事ばかりではないし時に糾弾されることもある。

それがあたりまえであったし、それでもやめようとは思わなかった。


それは他人と接するということに慣れていたからだ。

そして特に悪意に慣れていた。慣れなければ生きていけない世界だった。

いまのわたしに他人とかかわり合いが持てるのだろうか。


指先が僅かに震える。




「姉さん、僕がいますから」



ね?と笑ったリヒテンにぎこちなく笑を返して馬車から降り立つ。

ルーファス公爵家の馬車を遠巻きに見ている人達がちらほら。

人々はちらりちらりと振り返りながら通りを過ぎ去っていく。


大きな声をあげて客引きをする物売りに、パン屋のいい匂い。

ふくよかなマダムが軒先に水撒きをする姿。

何度も振り向いてはリヒテンとエル様を見て過ぎていく女の子達、広場に駆けていく小さな子供たち。


イゾルテは慎ましくも活気に溢れていた。




冬が長く寒さが厳しいネイトフィールの北の端にある小さな街。

特産品や観光地はほとんどなく、飛び出て貧しくはないが豊かな訳でもない。

それが専らこの地の評判であった。


「姉さん、2年前までイゾルテは別に酷いとこってわけじゃないけど、ここまでの活気は無かったんですよ」



「ええ……そう聞いていたわ」



しかし、人々の暮らしぶりはとても明るく見える。



「まあ!アルテンリッヒ様、またお越しくださったのね。

あら?もしかして…その方が例の?」




「ええ、マダムテレサ、彼女がそうですよ」



「前領主様にももちろん立派な方でしたけど、貴方に代わってから更に素敵な街になりましたわ。

本当にありがとう。

おかげさまで、今の時期もこうして余裕をもって過ごせております」



薄紫色の鮮やかなドレスに身を包んだ優しげな目元の女性がわたしの手を掴んでにっこりと微笑んだ。




「い、いえ、わたくしなんてまだ…」


突然のことにぎこちない声が漏れるばかりのわたしにマダムテレサはもう一度微笑む。


胸が熱くなる。

こみ上げてきそうなものをなんとか飲み込んでどうにか笑顔を作った。


婚約破棄騒ぎがあった時よりも、お父様にそれが知られた時よりも、エル様がやってきた時よりも、今領民の皆様に見られているこの時が1番緊張する。


王都にいた時の領地の視察とは感覚がまるで違う。




「アルテンリッヒ様!」


「アルテンリッヒ様〜!」


わたしが笑顔を浮かべたことを合図にしたかのように子供たちがおずおずと近付きリヒテンの周りに集まった。

頬を上気させてリヒテンの名を呼ぶ彼らを見てリヒテンを心から誇らしく思う。

彼はこんなに領民に愛されてみとめられているみたいだ。

エル様は遠巻きに見られながら微笑を浮かべている。

もしかしたら、彼のことを噂しているのかもしれない。

たまに王子とかいう単語が聞こえてくる。

この地にはエル様が王族でなくなったことなどまだ届いていないだろうから。

彼は微妙に居心地が悪そうだ。




「アルテンリッヒさま、この人がお洋服のお姉ちゃん?」


「ん?ああ…そうですよ。 」



「お姉ちゃん、お洋服、ありがとう!」


「素敵な刺繍と、刺繍の図案をいつもありがとうございます」


いつの間にか小さな子から10代後半くらいまでの女の子が少し距離をおいてわたしを取り巻いていた。

刺繍を教えて欲しい、お洋服の作り方をもっと勉強したい、などの声が次々とあがりわたしは目を丸くした。



トレイシーに教わって時間がある時に作った刺繍の

ハンカチや小物、簡単なワンピース等を使用人に頼んで街に持って行ってもらうことがある。


商人に売ったり、領地で欲しい人がいたら譲ったりしていたけれど、最近では領民でも作れるよう型紙や図案も渡すようにしていた。


実際に受け取ってくれる人に出会って声を聞けるのがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。

この領地の方達のためになることをもっとしていきたい。

もっと素敵な街にするお手伝いをしたい、と心からそう思う。

ここに来れて本当によかった。



「領主様が思っていたより素敵な方で我々は幸せですな」


「いえ、今まで顔も見せずに申し訳ございませんでした。

何かありましたら遠慮なくなんでもおっしゃってくださいね」



領主…そうか、かれらにとってはわたしは領主という事になるのかと身が引き締まる思いでお爺さんに微笑んで返す。


自分ひとりでは踏み出すのがもっと遅くなっていたかもしれない。

人と関わる事に以前より臆病になってしまったわたしは彼らと触れるチャンスがなかったかもしれない。

エル様、リヒテン連れてきてくれて本当にありがとうございます。








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