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「姉さん…」
「まあ、ステラごきげんよう。随分おひさしぶりね」
思い切り顔を顰めたリヒテンを押しのけて長い金の巻髪が身を乗り出した。
「ごきげんようフローラ。
そうね、わたしは学園を退学になってしまったもの」
「あら、そうでしたわね。あの時のあなたの間抜けな顔と言ったら…傑作でしたわ。
あなたを捨てた殿下のその後の愉快な話を聞きたいのではなくて?」
「フローレンス嬢!」
「可愛らしいナイトね。ステラ。
ここには使用人さえまともなのがいないのかしら。
護衛も騎士も侍女もなにもついていないのね。天下のルーファス家のあなたも落ちたものね」
「姉さんのことを侮辱するな」
わたしとフローラの間に滑り込みフローラを威嚇するリヒテンは確かに以前よりずっと背が伸びて逞しい体つきになっていた。
声も心做しか低くなってしまっている気がするし、ああ、わたしの天使が…とどうでもいいことを考えている間にリヒテンが殺気立っていることに気づく。
リヒテンは今にもフローラに掴みかかりそうな雰囲気だし、フローラもフローラで顎をあげてどこの悪役令嬢かという表情でわかりやすく挑発している。
いずれ公爵家を継ぐだろう愛しの弟に貴族がそのように感情をむき出しにしてはいけないわと諭す暇もどうやらないみたいだ。
「リヒテン、いいの、ありがとう」
「ですが、姉さん!」
「フローラ私の可愛いリヒテンを挑発するのはやめてくださる?
アイシャ、エレナあなたたちも面白がってないで、フローラをどうにかしてくれない?」
「だって、あの小さかったアルテンリッヒさまがこんなに素敵に成長してるだなんて思いもしなかったのよ。少しくらい遊ばせてくれてもいいじゃない。ケチね」
「ダメよ」
「ステラーー!!会いたかった!こんな遠くに飛ばされるなんて聞いてないわ!」
そう言いながらわたしに突進してきた赤毛を受け止めるとアイシャは微かにそばかすの残る愛らしい顔に満面の笑みを浮かべた。
「私だって知らなかったわ。
というか、私はなんにも知らなかったのよ。
そう、そうだったわ!あなたたち、なんてことしてくれたの?」
学園でいきり立つ王子の後ろで固まって震えていた姿を今更ながら思い起こしてついつい声を荒らげてしまった。
これではリヒテンのことをとやかく言えないわ。
「ステラ、ごきげんよう。……怒ってる??」
「ごきげんよう、エレナ。
ええ、当たり前よ。エレナあなただけはこの2人の暴走をどうにかしてくれると思っていたのに、一緒になってあんなこと…」
「でも、ステラが元気そうで良かったわ」
しょんぼりと目を伏せたエレナに代わりフローラが肩を竦めてそう言った。
間に挟まれたリヒテンはもうずっと混乱の只中にいるらしく唖然としてしまっている。
「良かったじゃないのよ、あんなことしてあなた達が罰せられたらどうするつもりだったの!」
「……え??」
ついにかわいそうなリヒテンは間抜けな声を漏らした。