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拝啓 親愛なるS
お久しぶりねお間抜けさん。
今回は字が汚いかもしれないわ。でも、時間がないのよ。許してくださる?
近頃何度か手紙の返事がないけれど、きちんと届いているかしら?まさかわざと無視してるなんてことないわよね?
まあ、あの御二方のどちらかにどうせ握りつぶされてる事だと思うことにするわ。
わたくしは無事卒業することが決まったわ。
結局最終学年まで残れたのはわたくしだけだったわね。まさかわたくしが残るとは思っていなかったけれど、良い学生生活だったと思うわ。
わたくし、明日モラティアス皇国に嫁ぐのよ。
シュミット侯爵とおっしゃる方で彼国ではとても重要なポストの方よ。
ネイトフィールとモラティアスの同盟を強くすることに一役買えるのだから誇らしいことよ。
貴方に1番祝ってほしいわ。
それでね、準備に大忙しなのだけど事もあろうに昨日だったの。
昨日お聞きしたのよ。絶対にわざとだわ。
そうとしか思えない。あの男ったら頭が良いだけに腹が立つわ!
わたくし貴方に謝らないといけないことがあるの。
ずっと隠していたのだけれどあのわたくし達が企んだ婚約破棄のこと、貴方の元婚約者はとっくにしっていたわ。
知っていてわざと乗ってきていたのよ。
貴方を守るために動いていただなんて、何様なのかしら!
アンナ嬢のことだって誤解だったらしいわ。
それって何?わたくし達があんなこと企まなければもっと、上手いやり方があったってこと?
わたくしやっぱりあの男嫌いよ。
この話、わたくし達と貴方のお父様とアルテンリッヒ様はご存知よ。
イゾルテに送ったのだってあの男と貴方のお父様の企みよ。
世間から隔離できて話が届かない、そして守りやすくて都合がいいと聞いたわ。
可哀想な貴方はまだ屋敷の敷地から外に出るのを許されていないのでしょうね。
病気になる前に飛び出してしまったら?
今まで黙っていてごめんなさい。
貴方を守るためだと接触も制限されていたし、口止めされていたの。
それからね、あの男ったらヴィクトレイク殿下が即位したら継承権とネイトフィールの名を返還してハーディストに行くつもりらしいの!
大公も蹴ったらしいわ。
私物は全て売り払ってしまって王都にひとつ孤児院を建てたわ。
その孤児院の名前がね、もう本当に有り得ないのよ。
なんだと思う?あなたがもし王都に帰ることがあれば見てみるといいわ。
きっと吐き気がするわよ。
まあ、貴方が解放されることがあればの話だけれど。
とにかく、あの男の執着心は相当なものよ。
それもずっとずっと昔からね。
だってハーディストの領主の座以外全てを投げ打って呪われた地の領主になるんだもの。
はっきりいってあの男気持ち悪いけれど、馬鹿ではないしきっと貴方を守ってくれるのでしょうね。
わたくしなどでは止められなかったわ。
貴方のお父様やアルテンリッヒ様でもね。
気をつけてほしいの、気がついたらきっと囲われていたりするかもしれないから。
本当に嫌ならきちんと逃げるのよ。
貴方ってそういうところはっきりしてないからあんな変なのに付きまとわれるのよ。
モラティアス皇国に嫁いだらこれまでのように連絡するのは難しいと思うわ。
でも、ずっと貴方の幸せを祈っているということ、忘れないで。
それから、もし、もし、万が一、億が一貴方が社交界に戻ってこられる機会があったら、安心してちょうだい。
貴方の悪い噂や評判を口走る者はもうほとんどいないと思うから。
だからその機会があったら堂々と戻ってらっしゃい。
そしていつかわたくしにまた間抜け顔を見せて欲しいわ。
必ず、また会いましょう。
貴方が愛してやまないFより




