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「姉さん、なぜ今までエルレイン殿下がハーディストに来ていることを言わなかったのですか」
ソファに僕を押し付けた姉さんは向かいにかけてきょとんとした。
いやいや、きょとんじゃないんですよ。
お父様に聞くところによるとエルレイン元殿下がハーディスト領についてもう2月は経っている。
その間、父公爵が僕の耳に入らないようにしていたのはどう考えても故意であるが、姉さんのそれはなにか意図してのことなのだろうか。
「説明が面倒だったのもあるけれど、なによりリヒテン知らなかったの?」
一国の王子のことであるし、城に出入りもする貴方なら知っていると思ってたわ。
姉さんはそう言った。
ああ、その通りだ。
そう思って当然だ。
当たり前じゃないか。
どうやらまたエルレイン元殿下の思惑にはまっているようだ。
そしてきっと父公爵もまたもやそれを利用している。
「………そうですか」
から返事をしてため息をついた。
そりゃあそうにきまっている。
やっぱりすぐに休みましょうと席を立った姉さんを座らせてから、もう一度、僕はため息をついた。
「僕の方はもういいです。なんか、もう……分かりましたから。
それで、姉さんの話したいことってなんですか」
僕の言葉を聞いてひくっと肩を揺らした姉さんはその薄い空色の瞳をまっすぐ僕に向ける。
普段、優しさと凛々しさで満ちる空色は僅かに困惑で揺れている。
もう、嫌な予感しかしないのだけど、たいていこういう予感というものは当たってしまうものである。
「エルレイン・ヴァルドルフ・フォン・ネイトフィールとは、一体どんな人なの?」
エルレイン元殿下は表向きには王位継承権を剥奪されて王家から除名されたとされている。
だからもうとっくにエルレイン・ヴァルドルフ・フォン・ネイトフィールでは無いし、さすがの姉さんもそれは知っているに決まっている。
それなのにわざわざその名を使うということは、気付き始めたのかもしれない。
それとももう知っているのだろうか。
あの男が見事につくりあげたこの状況を。
もしかしたら、これも彼の計算の上なのかもしれないし、ここで僕が姉さんに真実を話さないことが彼の思惑通りなのかもしれない。
僕はもう一度深く息をついて空色を真っ直ぐに見返した。
僕的にはとても、不本意ではあるが姉さんにはとりあえずは知る権利がある。
その後に何を思うのかどうするのかは姉さんが決めることであるし。
父公爵が僕がここに来ることを黙認したということはもう話してしまっても問題ないということだ。
「仕方が無いですね。」
とても面倒ですけどお話しましょう。




