公爵家子息の告白。
僕の名前はアルテンリッヒ・ネイサン・ルーファス。
このネイトフィールにおいて4家しかいない公爵家。
しかもその頂点に君臨する、かのルーファス公爵家の跡取りということに今はそうなっている。
数日前に届いた姉さんからの手紙にはエル様が隣国から新種の果物の苗を貰ってきてくださってどうのこうの、どうのこうのと書いてあった。
まず、僕は思ったわけである。
エル様って一体誰だ?
父公爵に確認しにいくとしばらく沈黙した後、観念したように息を吐いた。
「……元エルレイン殿下だ」
聞いた途端飛び出しかけた僕を父は制して、公爵家の仕事と課題を山ほど出した。
それはもう山ほどである。
お父様があの元王子と結託していることは既に知っているし、お父様が僕をあの地にというか姉さんに近づけたくない理由は承知である。
だからといって大人しくしておく僕ではない。
3日でどうにかそれらを片付けて大急ぎで馬を走らせた。
そして着いたら姉さんを問い詰めてやる。そしてもうあの元王子と接触できないようにしてやると意気込んでいた僕を、姉さんは待ち構えていた。
「リヒテン!おかえりなさい!」
「姉さん!話があります!」
僕と姉さんのセリフは面白いほど綺麗にかぶった。
トレイシーが後ろの方でまあさすが姉弟ですわね。と呑気に言っていたけれど、突っ込む気にはなれなかった。
「あら、奇遇ね。わたしも聞きたいことがあるの。疲れているでしょうし、もしよければ明日にでも」
「いいえ、今、話しましょう。」
でも、貴方顔色が良くないわ…と言い淀む姉さんをどうにか押し切る。
顔色は疲れのせいではない、隣に越してきたらしいどこかの元王子のせいだ。
できるだけ早いところ、彼と姉を引き剥がしたいのである。
久しぶりの邸は随分と綺麗になっていた。
多忙すぎるクロードの仕事のうち領主業を姉さんが引き受けたので使用人達は元の業務が行いやすくなったようであるし、もちろん、領主業もこと細かに気が配られるようになったわけでここへ来る途中のイゾルテは活気に溢れていた。
実際に変化を見ていない姉さんには分からないだろうけれど、その理由は姉さんだ。
婚約者時代の王妃教育の過酷さのせいか姉さんは休むのがとても下手くそでなんでも自分でしようとしてしまう。
当然である、彼女の生きていた世界では出来て当然。しないといけないとかではなく、何事も完璧に出来て当たり前なのだから。
それも努力を外には絶対に見せずに完璧にこなしてなんてことないように見せて、それでやっと当然の世界だ。
だから姉さんは無理をしている自覚もなければ何か大きな事を成したという自覚もない。
自分の体調を省みることもしない。
体調が悪かろうが難しいことだろうがそれは1番後回しなことなのだ。
自我があまり確立していないというか感情を押さえつけすぎるというか、とにかく放っておくのが恐ろしい。
もともとは不器用なひとなのだ。
非常に巧妙に隠されるそれに僕が気付いたのは姉さんが婚約破棄されてからだけど、それをきっとあの男ははじめから気づいていた。




